Floral_067_のコピー

志村ふくみさんの織物

週末に批評家・若松英輔さんの「コトバの教室」に参加した。1日かけてレクチャーとワーク、ディスカッションをする新しい講座シリーズ。そこで「1つのもの」と対峙して書くワークをやった。

とにかく何でも。違和感があるならそれも。書けないならそのことを。考えるより前に感じたことを書く、頭から引き出すという時間を30分もらう。参加者は30人近くいたと思うけれど、それぞれが紙に向き合って出てくる言葉を拾っていった。

書く仕事をしている身としては、その30分を「書きつける」ことだけで消費してみたくてチャレンジした。「書けないと思ってもその先を感じてください」というアドバイスは今の私には大きかったかもしれない。書けないと思ったらそこで投げてしまうこともあったから。

持っていったノートにペンでちまちまと、後ろを振り返らずに全力200m走みたいな勢いで書いた。何を書いたのかは確かめていない。吐き切ったという表現が近い。限られた時間内でどれだけ書いたのかを確かめるためにも、ここに転載しようと思う。

見せる前提ではないし、若松さんも見せなくていいですとはお話ししていたけれど、見せてもいいよな。というか自分が昨日書いたことを客観的な場所で眺め直してみたいのが第一かもしれない。

対象は2つ用意された。1つは染織家・志村ふくみさんが染め上げて織ったストール。もう1つは彫刻家・舟越保武さんの頭部のブロンズ像。どちらかを選んでもいいし、両方についてでもいい。目的は感じたことを書くこと。

ここではストールについてを残しておく。清書するまで何を書いたのかよく覚えていない。何を書いたんだろう、自分。

***

触りたい。さわれるのか確かめたらムリだった、残念。パリパリしているのか、柔らかくて軽いのか。うおう、触りたいけれど確かめられない。いいやつは手触りいいんだよな。有名な人の作品なんだから、今までと違う手触りかもしれない。目の前にあるのに触れないのは勿体ない機会。

まあ何人もがベタベタ触ったらぐしゃぐしゃになっちゃうし、そういう扱いをしてはいけない「作品」だろうけど、果たして触れられない布に価値があるんだろうか。たぶん魅力は半減だよな。

これは何のために作られた布になるんだろうか。布として鑑賞されるためだけに生まれたのかな。そういうものしか作らないのかな。もしかしたらプレゼントされたものだったら大切にしたいと思うかもしれない。それだったらもらう人の自由だもの。

色遣いは淡くて好み。春の霞っぽい。霞を見たことないけど。今の季節に合ってる。他の色違いはあるのか。作ったときは作品の設定とかはするのかな。この縞を出すのにどんなプロセスなんだろう。狙ったところに狙った縞を出せるのか、偶然だとしたら偶然の手前までいくのが作家さんの努力なんだろう。全部偶然頼みはアマチュアのやり方で。それにしても一回触ってみたいものだわ。

広げたら薄いぞ。キラキラしている。動かして真価の出るものだな。

(記述の)2周目。

さわれないとなると急に魅力が失せてきたな…。置かれているとキラキラしないし、素材感もよくわからない。一度広げたり畳まれたりするのを見ちゃったあとは、何だか、死んだとまではいかないけれど、最初に興味を引かれたときと比べて「んー」と食いつかなくなってきた。

巻いて、キラキラさせたいんだよね。私にとって、巻物は触って巻いてこそ。目で愛でるものではないのだとはっきりわかった。それがどんなに高価でプライスレスでも、誰が作ったものでも、ストールだったら巻いて触りたいよね。

敷物とかタペストリーなら良かったのか? いやいや、静の物だと、静とわかったところでもう関心が湧かないと思う。自分の身にまとえるとか、何か関わりが持てる可能性があったものだから最初は「わー」と思って、像より先に見に行ったのだし。置かれているのを左見右見してもつまらんよ。さわれたらなあ、せめて。触れなくても風になびいているだけでもいいや。とにかく動いてほしい。止まっている布は布じゃないかもしれない。

***

ここまでで約1000字。ブロンズ像で「感じたこと」も同量くらいある。眺めた時間や諸々を差し引いて考えると30分で合計約2000字が私の書き速度か。

ある強制力を持って1つの物をじっくり見て、そのまま言葉にする体験は初めてに近い。やってみたら意外と「何か」は出てくるものなんだな。質はいろいろなのは仕方ない。でも出てくるのが大事。

書いた後の周りの人とのディスカッションでも「書いているうちに違うものが出てきた」とか「書いたことに触発される」という話があった。やってみると実感がこもる。

自転車の乗り方を聞いただけでは自転車に乗れないように「まず乗って何回か転んで覚えてください」というのが若松さんの持論。見せない前提でつらつらと綴る筋トレは、続けていると新しい面白さに出会える予感がある。




よろしければサポートお願いします!いただいたお金はnote内での記事購入やクリエイターとしての活動費にあてさせていただきます。