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暮らしの匂いが残るカード

実家じまいを敢行中だ。正確には母方の実家、私たちきょうだいから見ると祖父母の家を畳んでいる。遺された一軒家は築55年、祖父の代から蓄積されたあらゆるものを掘り起こして、選別して、ほとんどとお別れした。

物持ちが良かったので、昭和50年代の家の修理代領収証とかキャンペーンのチラシとか、そんなものまで丁寧に取ってある。電電公社の通知も残っていて、暗記していたあの電話番号は昭和43年に開通して当時どれくらい割引してもらったのかも分かった。

ただし、最初は1つ1つに手を止めながら感慨にふけっていたものの量が多すぎた。間を置かずに右から左の作業になっていったのは許してほしい。

それでもいくつか「これは残したい」と思ったものがある。

中の1つが、祖母の名が刻まれているポイントカードだった。祖母は2001年に亡くなっていて戸籍を取り寄せると大きな×が付いている。祖父の後妻にあたる人だったので実の子どもはなく、母や叔父とはもちろん私たちとも血はつながっていない。位牌や墓石には名前があるけれど、それ以外の記録がほとんどない人だった。

でもポイントカードには「この名前の女性が、これを利用して生活していました」という痕跡がある。位牌や墓石とは比べものにならないくらい暮らしの匂いがして、ちゃんとこの人がいた空気が含まれている。実際にこのカードを使っておばあちゃんは買い物をしていたし、私は同じものを見て摘まんで、ちょっと同じ空気も吸えているかもしれない。

「暮らしの匂い」はその人の気配と直結していて、大切にしないとあっという間に消えてしまう。いるときは当たり前すぎてむしろ消したいときもあるかもしれないけれど、本体である人がいなくなると、本当にあっという間に「なかったこと」になる。

意外にもポイントカードは生活感を運んでくれる良い媒体なのだと気づいた。何枚かあったうち一番使っていたであろう1枚を残した。小さいけれど、これがあるうちはまだおばあちゃんが近くにいる。



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