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彼女のドタバタ女将日記①〜女の意地と見栄で女将になった!

気がつけば、女将になって27年。内資メーカーの国際事業部で3年半、外資メーカーの国際人事部で3年半。このままこの業界で生きていくと思っていた「彼女」は、なぜ、飲食店の女将になったのか。「彼女」の目線で想い出しながら、「彼女」の言葉で綴っていきたいと思います。

それは、女の意地と見栄で始まった。

28歳。彼女が女将になった歳だ。それまでは、内資や外資系メーカーのOLとして、まあまあの生活を満喫をしていた。埼玉の見沼たんぼ近くの実家をでて、恵比寿なんぞという都心の一等地で下宿暮らしをしてみた彼女。時はバブル期真っ只中。残業残業の日々だったが、仕事で忙しい毎日は、生き甲斐でもあり、やりがいもあった。

週末は仲間と海遊びをし、平日の夜は仕事仲間と寿司なんぞをつまみながら、仕事談義に花を咲かせていた。年に2、3回の海外旅行にも出かけた。学生時代の親友と日本を離れ、恋話や仕事の話、時には家族の話などなど積もる話を非日常の空間で語り合うことは、絶好のストレス解消法であった。

当時、彼女には、月一でデートを重ねる年上の男性がいた。海仲間でもありバイト先の上司でもあった。それが今のオットである。そして、彼女が女将を務める店のマスターである。

お付き合いをして数年が経ったところで、自然と結婚という流れになった。

穏やかで声を荒立てることもなかった彼だが、なんとなく不思議さんであることは、わかっていた。それでも、穏やかにゆっくりと幸せな時間を一緒に過ごせるものだと信じていたのだ。

誰もが二人の結婚を祝福し、彼女は周りの独身女子たちに羨ましいとさえ言われ、少し良い気になっていた。

なぜなら。自分でも、いい相手を見つけた!!と思っていたから。

当時の彼女は、イケメン好きだった。男の価値は顔!!そう信じてやまなかったのである。そこにフラッと現れた、年上で、土地持ちで、次男坊の彼。親との同居なしで車あり。いくらイケメン好きでも、結婚相手となると容姿の良し悪しで決めるわけにはいかない。同じ空間で同じ時間を過ごしていくことが結婚なのだ。

理想的な結婚とは、こういうものだ。非現実的な妄想だけでは結婚生活なんて続きはしない。

これが、彼女がいつも自分に言い聞かせていることだった。先ほども書いたが、何せイケメン好きの彼女。ついつい男性の価値を「顔」で判断する傾向にあったのだ。イケメンに家庭向きな人はなかなか少ない。そんなふうに感じていたからか、安心して結婚に向かった。

ところが。結婚してすぐにそれは一転した。

仕事に行きたがらないのだ。お腹が痛いだの、頭が痛いだのと言っては、仕事を休みがちだった。職場に休みの連絡を入れた途端、元気になる。夕方になると、地元の友達と出かけ、日付を過ぎても帰ってはこない。そんな日が続いた。

そして一年が経った頃、大事件が起こる。

自分で何かしたい!!

と、それだけの理由でオットが仕事を辞めてしまった。オットが無職になったのだ! 

それだけでもショックだった彼女の耳に、さらに追い討ちをかけるような言葉が耳に入ってきた。

ラッキーな結婚だと思っていたけど、アンラッキーだったね。

私の結婚はアンラッキーな結婚だったのか・・・

無職のオットの妻になった彼女は、プライドが傷ついた。当時オットの実家の敷地内に建てられていたアパートに住んでいたが、オットが無職になったということは、義母から見たら自分の息子が無職になったということ。当然、家賃は免除になるであろう・・・彼女はそう思っていた。のちにその考えは、甘い考えだったと気付くのである。

奈海さん、働いてるんでしょ!うちの息子は、働くのが苦手なのよ。だから、働くのが好きな人がお家賃を払えば良いと思うの!!

義母のその言葉に唖然とする彼女。自分の息子が無職であることに、恥というものを感じないのだろうか・・・

今の歳になれば、それはおかしいだろう!!と反論でききただろう。が、まだ20代の彼女はカーッと頭に血が上り、変に男気を出してしまった。

わかりましたよ、わかりました!!私の給料から払いますんで!!

と、啖呵を切ってしまった。そして、毎月茶封筒に決まった枚数の万札を入れ、親族みんなのいる前で、

今月のお家賃です!今月もよろしくお願いします!

と、かなり嫌味っぽく言って渡してやったのだ!!

悪いね〜と、ニコニコ顔で受け取る姑。オットはといえば、のんびりフーテン生活をエンジョイしている様子で、それがまた頭にきた。

何か仕事してよ。何ができんの?

と、何気にいったら、

食べ物屋ならやる!!

と言った。

なら、やってみて!!

と彼女がさらに言ってしまったら、オットもオットの母も、

もちろん、奈海さんも一緒にやるんでしょ!!

と。

嫌だとか、経験がないからとか、言ってられない状況。なんとかオットに仕事を持ってもらわなければならない。

私が一緒にやれば、働けるのね!!

と言ってしまった彼女。あれよあれよと言う間に、なぜか彼女が女将になってオットがマスターになる!!という構図が出来上がってしまったのだ。

独身時代は、味噌汁もご飯炊きもろくにできず、下宿屋のお母さんの手作りご飯を食べ、週末はジャンクフードで済ませていた彼女。その彼女が、お食事処の女将なんてできっこない!!

そうはいえなかった。なぜなら、彼女には女としての意地と見栄があった。このまま、無職のオットの妻でいることに、耐えられなかったのだ。

彼女は、それならいっそ飲食店を作ってしまおう!!と腹を括った。

これからは、オットの職業を聞かれても、オットは飲食店経営者のオット!といえば良い。無職のオットを持つ妻ではなく、経営者の妻といえば良い。

見えっ張りだった私は、これから、ものすごい試練が待っているとも知らずに。

軽ーい気持ちと意地と見栄で、こうして開業することになったのだ。

続く。





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