深読み バック・トゥ・ザ・フューチャー vol.23(第193話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
『アクロス・ザ・ユニバース』が「夜バージョン」であることに気付かなかったら、このトリックは見破れないだろう。
さて、それでは次の曲に行こうか。
11曲目は『For You Blue(フォー・ユー・ブルー)』…
ジョージ・ハリスンの歌だ…
ジョージがひたすら「君のことが本当に好きなんだ」と想いを歌い続ける…
これは「魅惑の深海ダンス・パーティー」そのものですね…
しかもジョージは途中で「GO JOHNNY GO!」とか言ってるし…
「There go the twelve bars blues(12小節のブルース・コードで)」とも言っている。
マーティも『Johnny B. Goode』を弾く前、バンドメンバーへの説明として同じことを言った。
ジョージが笑いながら言っている「Elmore James got nothin’ on this, baby」は、どういう意味なのですか?
「本家のエルモア・ジェイムズも、これには敵わないよね」だね。
エルモア・ジェイムズ?
1940年代から50年代にかけて活躍したスライド・ギターの名手。
1951年に『DUSD MY BLUES』をヒットさせ、その後のロック音楽におけるギター奏法に大きな影響を与えた人物だ。
うわあ、カッコいい…
完全にロックンロールですね。
『FOR YOU BLUE』では、ジョンが不慣れなスライド・ギターにチャレンジしている。
だからジョージは大袈裟に「このギターテク、本家より凄いよね?」と言ったんだ。
そしてこれがBTTFでは…
こうなった…
そういうこと。
では次の曲に行こうか。
アルバム『LET IT BE』を締めくくる曲『GET BACK』だね。
いよいよ最後じゃ。
心して聴くが良い…
元々アルバムのタイトルになるはずだった『ゲット・バック』…
「元の世界を取り戻そう。そしてこの先もビートルズを、レノン=マッカートニーを続けよう」という、ポールの切なる願い…
まさに『BACK TO THE FUTURE』だわ。
特に、このアルバム収録バージョンの『GET BACK』は、実に興味深い。
歌の前後のトークなど、異なる日時に収録された音源が、フィル・スペクターによってコラージュされているからね。
あれって、ひとつなぎに録音されたものじゃないんだ。
そう。異なるタイムラインが、まるで1つのストーリーみたいに編集されている。
まずポールが、こう呟きますね…
Rosetta…
ちょっと待って…
ロゼッタって誰?
さあ…
この歌に登場するのは「ロレッタ」でしょ?
そう。似て非なる名前だ。
ポールは自分が作った曲の登場人物の名前を言い間違えているのですか?
しかも初っ端から…
その通り。
この曲の「生みの親」なのに、初っ端から名前を間違えて呼んでいる。
わけわかめ…
ん? 生みの親が初っ端から名前を間違える?
それって、もしかして…
そう。1955年のロレインだね。
自分が産んだ子供「Martin」の名を「Calvin」と間違えて呼んでいた。
しかし「マーティン」と「カルヴァン」は似てません。
そんなことないよ。両者を混同する人はよくいる。
え?
忘れたのかい?
「Martin」と「Calvin」は何を意味していたっけ?
あっ…
Martin(Luther)と(Jean)Calvin は、どちらも宗教改革で活躍した人物で、「プロテスタント」と一括りにされることが多いけど、思想や理念は全く違う。
似て非なる存在だ。
そうでした…
そして、名前を言い間違えたポールを面白がったジョンがさらに被せる。
Sweet Loretta Fart she thought she was a cleaner,
but she was a frying pan.
愛しのロレッタ・ファート
彼女はクリーナーのつもりだったけど
彼女はフライパンだった
「fart」は「おなら」のことでしょ?
ジョンって子供みたい。
コーエン兄弟の『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』でも、子供が壁に「FART」と落書きしていました。
英語で「FART」は「おなら」だけど、ポーランド語などでは「FART」は「幸運・恵み」という意味。
あの映画は「東欧からの移民」が隠れたテーマになっているからね。
でもBTTFにポーランドは関係ないでしょ?
そう。関係ない。
だけどジョンの声は明瞭ではないので「fart」は「fat」とも聞こえる。
「スイートでファットなロレッタ」とね。
それって、歴史が改変される前の1985年のロレインのこと?
だね。
ちょっと太めで、典型的な「おばさん体型」だった。
しかもスイートでファットなものを手にしていた…
あれは、彼女の弟 JOEY、つまりマーティの叔父さんの「仮出所」を祝うためのケーキでした。
だけど、残念ながら仮出所は認められず、ケーキは無駄になってしまいましたが…
だからロレインは「これを私たちで綺麗に平らげてしまわなければ」と言いながら…
金属製の平底鍋に入れられたケーキを、そのまま丸ごと食卓に放り投げた…
つまり…
「pan」ごとケーキを「flying」させたんだ…
クリーナーと、フライング・パン…
そして、ふざけたジョンに呼応するかのように、ポールもふざけて「Sweet Rosetta Mar...」とハミングする。
ふたりが初めて出会った頃、まだ16歳前後だったジョンとポールは、こんな感じでふざけ合いながら曲を練習していたんだろうね。
そのあと、ジョンがこう言うわ。
The picker! Picture the fingers going...
ザ・ピッカー!この指の感じを写真に撮って...
どういう意味でしょう?
「the picker」とは「何かを摘み取る・選別する人」とか「スリ」という意味だ。
だからBTTFのあの食卓シーンでも「the picker」の「picture」が登場した。
しかも「the fingers」までしっかりと…
そんな描写、ありましたっけ?
これだよ。
フライングしたパンの中に入っていたケーキの絵。
何か気付かない?
何かって?
ああっ!
黒い鳥の身体がピアノの鍵盤やギターのネックみたいです!
そして足が、演奏している「手の指」みたいに見えます!
うわ、ホントだ…
何なのコレ…
「Black Bird」といえば、ビートルズ…
というか、ポール・マッカートニーの代表曲よね…
All your life
You were only waiting for this moment to arise
君は人生を通して
この瞬間が来ることだけを待ち続けていた
まさに、生まれた頃から檻に入れられていたジョーイおじさんのこと…
その通り。
だから『GET BACK』の1番の歌詞は「ジョーイおじさん」で再現された。
「ジョジョ」はジョーイおじさんなの?
そうだよ。
Jojo was a man who thought he was a loner
But he knew it couldn't last
Jojo left his home in Tucson, Arizona
For some California grass
ポイントは「grass」という言葉だ。
「grass」には「マリファナ」や「密告者」という意味がある。
映画の中でジョーイおじさんの犯罪歴は明かされないんだけど、あのケーキの黒い鳥は「the picker(摘み取る人・選別する人・スリ)」なので、おそらく売人か何かをやっていて捕まったんだろう。
だから1番をBTTF風に訳すと…
ジョジョは組織に属さない一匹狼
だけど彼は限界が来ること知っていた
そして自宅を離れることになってしまった
アリゾナ州ツーソンの自宅から刑務所へ
カリフォルニア産のブツと密告者のせいで
なんてこった…
ジョーイおじさんはアリゾナ州ツーソンに住んでいたんですね…
おそらく。
かなり疎遠だったようだから、マクフライ家のあるカリフォルニア州内ではないだろう。
そしてサビだ。
Get back, get back
Get back to where you once belonged
Get back, get back
Get back to where you once belonged
Get back, Jojo
せっかく「元の場所に帰って来て。戻って来てジョジョ」って歌われるのに…
元の場所は、やっぱり檻の中…
ロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルは、歌詞で使われる言葉を上手く使い、曲のストーリーも巧みに利用して、見事に映画の中に落とし込んでいるよね。
しかも、かなりブラックなユーモアたっぷりに…
それでは2番を見てみよう。
こちらも非常に興味深い内容になっている…
つづく
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