余談:『BIG HERO 6』と文豪ディケンズの『大いなる遺産』~『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
にわかには信じ難いけど…
ねえ、岡江クン…
詳しく話して頂戴、小説『ライフ・オブ・パイ』第三部のこと…
もちろん。
作り話でひたすらボケまくるパイと、そのボケに対して、さらにボケを被せるチバ…
この文学史上に残るボケ合戦は、きちんと解説しておかなければならない。
そして《227》の秘密もね…
ゴクリ…
なんだかすごい話になりそう…
ところでさ。
チバの名前《ATSURO CHIBA》が「救世主イエス・キリストの死と復活」という意味なら…
上司オカモトの名前《TOMOHIRO OKAMOTO》は、どういう意味があるの?
オカモトは「丘のもと」で…
トモヒロは「主と共に」じゃないかな…
つまり「ゴルゴダの丘で主イエスと共に」という意味。
なんで《ヒロ》が《主イエス》なのよ?
《ヒロ》という名前は《HERO》の駄洒落としてよく使われます…
日本人少年ヒロが主人公の『BIG HERO 6』もそうでした…
あの物語では、孤児の少年ヒロに、人類史上最も有名なヒーロー《ナザレのイエス》が投影されています…
最後に異世界へ行って、奇跡的に帰って来ますからね…
だからヒロの苗字は《HAMADA》なのです…
へ? 浜田も理由があるの?
ヒロの苗字 HAMADA は、ヘブライ語の adamah(アダーマー)を左右反対にしたもの…
というか、ヘブライ語は右から左に書きますから、ある意味 adamah そのまんまですね…
adamah は《土・地面》という意味で、土から作られた最初の人間《アダム》のことも指します…
そしてイエスの十字架刑が行われた《ゴルゴダの丘》は、かつてアダムの墓があった場所…
だからイエスの十字架刑を描いた絵には、根元にアダムの頭蓋骨が配置される…
それじゃあ日本における総合運動場の先駆け「浜田山グラウンド」は「面地山地面」っていう回文になるじゃん!
うふふ。そうなるわね(笑)
そして、ヒロが《ナザレのイエス》なら…
パートナーのベイマックスは《新約の神・救世主キリスト》…
怒りモードを封印され、人を助けることしかできない存在ですから…
つまりヒロとベイマックスのコンビで《イエス・キリスト》になっているという仕掛けなのです…
マジで? そんな話、初耳なんだけど…
ベイマックスの顔は《木魚》のデザインになっている…
イエスは自分を《木》に喩えた。
『ヨハネによる福音書』15:1
わたしはまことのぶどうの木、わたしの父は農夫である。
そして《魚》はギリシャ語で、ΙΧΘΥΣ(イクトゥス)…
ΙΧΘΥΣ(イクトゥス)は、ΙΗΣΟΥΣ ΧΡΙΣΤΟΣ ΘΕΟΥ ΥΙΟΣ ΣΩΤΗΡ(イエス、キリスト、神の、子、救世主)の頭文字でもある…
いわゆるジーザス・フィッシュ…
げえっ!
だから5でもなく7でもなく『BIG HERO 6』なの…
意味わかる?
あれって『BIG HEROS ⅠX』の駄洒落なのよね…
ビッグ・ヘロス・IX?
《HEROS》は、ギリシャ語やラテン語で《神格化された英雄》という意味…
そして《IX》は、ギリシャ語のイエス・キリスト《IΗΣΟΥΣ ΧΡΙΣΤΟΣ》のイニシャル…
つまり『BIG HERO 6』とは…
「神格化された偉大なる英雄イエス・キリスト」という意味…
どんだけ!?
ちなみに、歌舞伎メイク男ことキャラハン教授の名前《Callaghan》とは、古アイルランド語で「聡明な・全能の」という意味。
そして、キャラハン教授の実験パイロットになり、異次元に飛ばされてしまった娘アビゲイルの名前《Abigail》とは、神の使いガブリエル《Gabriel》をもじったものだ。
そういう物語だったんですね、『ベイマックス』は…
まあ、それは余談に過ぎない。
小説『ライフ・オブ・パイ』の第三部の登場人物「パイ、チバ、オカモト」の三人の名前が、読者を「神を信じるようになる」というゴールへ導く役割の一端を担っていることだけを押さえておいて欲しい。
パイの名前にも?
そう。
第三部は、孤児になったパイが、日本政府外交員の聞き取り調査を受け、海難事故の被害者であることが認定され、多額の保険金を受け取るという内容…
実は《パイの物語》の語り手《PI PATEL》の名前には、もうひとつ秘密が隠されている…
「PIP A TEL」もしくは、左右反対にして「LET A PIP」と読めるんだ…
ピップ?
おしっこのピッピじゃなくて?
英語で《PIP》といえば、イギリスの文豪チャールズ・ディケンズの長編小説『Great Expectations(邦題:大いなる遺産)』の主人公のこと…
この小説の語り手PIPも、パイ同様に、親兄弟を失った孤児だ。
PIPは《救世主》から与えられた多額のお金で、故郷を離れてロンドンで勉学修行に励み、海を渡ってエジプトで成功を掴む…
本名は《Philip Pirrip》なんだけど、まるで冗談みたいに聞こえる名前なので、物語を通してPIPという愛称で呼ばれる…
パイの本名《Piscine Molitorl》がパリにあるプールの名前で、英語だと小便(Pissin')みたいに聞こえるから、PI(パイ)と呼ばれたように…
PIPには、初代教皇(Pope)の使徒ペトロが投影されているわよね…
PIPは、鍛冶屋の弟子から、社会の指導的地位ジェントルマンに出世した…
ペトロも《魚をとる漁師》から《人をとる漁師》に出世した…
そして物語の冒頭シーンは、クリスマス・イブの墓地…
PIPは、後に《救世主》となる罪人と出会い、逆さに吊るされ、リンゴを奪われる…
これは《ペトロの逆さ十字》と《十字架の下に眠るアダム》を想起させるもの…
つまり『ライフ・オブ・パイ』という作品は、ディケンズという巨人の肩に乗って書かれたものでもある…
福音記者やドストエフスキーの肩だけではなく、いろいろな巨人の肩に乗ってるわけですね…
それでは第三部を解説しよう。
まず、運輸省の役人である二人の日本人オカモトとチバが、パイの奇跡の生還というニュースを聞き、カリフォルニア州ロサンゼルスのロングビーチからレンタカーで、パイが入院するメキシコの医療施設まで向かうシーンが描かれる。
二人は目的地の町の名前を読み間違って出発してしまったため、予想外の長距離ドライブとなってしまった。
カリフォルニア湾を渡り、約2600kmの道のりを41時間かけてドライブしたんだ…
この長距離ドライブは、映画版では全く触れられていなかったわよね。
そしてようやくパイのいる医療施設に辿り着くと、作者のヤン・マーテルから、インタビューシーンの特殊な表記法について説明がなされる。
オカモトとチバのセリフの中で太字になっている部分は日本語であるという説明だ。
つまり二人は英語と日本語を織り交ぜて喋っているというんだね。
これが『ライフ・オブ・パイ』第三部における最重要ポイントになっている。
「YES」は「イエス」、「LUNCH」は「メシヤ」、そして「THANK YOU」も…
「THANK YOU」は「SANK YOU」のダジャレじゃなかったの?
「あなたを沈めた」だから「洗礼を授けた」というダジャレ。
日本語でも駄洒落になってるんだ。
サンキューの駄洒落? 39?
そこは後ほど解説する。
さて、二人はようやく病室でパイと面会することができた。
まず上司であるオカモトが代表して自己紹介をし、今回のインタビューの主旨を説明する。
日本企業が所有する貨物船TSIMTSUM(ツィムツーム)号が、なぜ航行不能に陥り、深い海底に沈んで消えてしまったのか、その謎を解くヒントになりそうな情報を聞かせてほしいというお願いだ。
貨物船の名前 TSIMTSUM は、ヘブライ語で《縮小》という意味だった…
本来無限である神が、自らを収縮させて世界創造の場を与えたという思想を表す言葉…
そして TSIMTSUM を左右反対に読むと「MUST MISSED」と読める…
「いなくなって寂しい」という意味よね…
ああ、船の名前も逆さ言葉になっていたのか…
いやー。ことばってほんとうにおもしろいですねー。
しかも「いなくなって寂しい」って…
船の前方に高々と掲げられている、主が消えた十字架のことみたい…
オカモトの説明を聞いたパイは、こんなふうに返事をする。
オカモト「…というわけで、TSIMTSUM号に乗っていた君から、ぜひいろいろ話を聞きたい。今それは可能だろうか?」
パイ「Yes, of course(もちろんイエス)」
あ…
「TSIMTSUM号に乗っていた君」って「十字架に掛けられていた君」という意味になってるわよね。
だからパイは「もちろんイエス」って答えたんだわ。
だね。だけどこの部分はまだ英語の会話。
パイの「YES」は「Jesus」と完全なイコールではない。
だからこのあとオカモトは、チバに日本語で話しかけるんだ…
オカモト「サンキュー、感謝します。さて、アツロウ君。君は新人だ。だから集中して話を聴き、積極的に学びを見つけてくれ。」
チバ「イエス、オカモトさん」
日本語で「YES」と「Jesus」は、全く同じ「イエス」…
チバは、いきなり答えを言っちゃってます…
そう。チバって面白いの(笑)
しかも冒頭でチバの役割がオカモトから指示されてるじゃん。
集中してパイの話を聴き、積極的に学びを発見する役割…
ですね…
第三部におけるチバの言動は、すべてこの指示に基づいたもの…
ここを見落とすと、ボケまくるチバが「ただの頭の悪い人」に見えてしまいます…
その通り。
そして二人の日本語による会話は続く…
オカモト「テープレコーダーは録音されてるか?」
チバ「イエスですそれは」
オカモト「よし。しかし今日は疲れる!」
《パイの物語》の内容は『ヨハネによる福音書』とほぼ同じ内容...
つまり、このインタビューで録音されたものを文書に起こしたら『ヨハネによる福音書』になるということ…
だからチバは「イエスですそれは」と答えたのですね…
そしてオカモトが「今日は疲れる!」と言ったのは、長旅のことだけじゃない…
第三部が、英語と日本語の駄洒落をクロスオーバーさせて進めていく《ややこしい手法》だから、思わず愚痴をこぼしてしまったの…
メタ・ジョークね(笑)
そして「神を信じるようになる」というゴールに向けての布石が打たれる…
この導入部のシーンで一番大事なところだ。
オカモト「えー、この録音の日付は1978年2月19日。ファイルナンバー250663。消えた貨物船TSIMTSUM号の事案について。パテルさん、心の準備は大丈夫ですか?」
パイ「Yes, I am. Thank you. And you?」(私はイエス。あなたたちに洗礼を授けます。そちらも心の準備は出来ていますか?)
オカモト「私たちも準備OKです」
うわあ…
ヘビーな布石のあとは、軽妙なリズムでジョークが連発される…
パイ「遥々東京から来たのですか?」
オカモト「我々はカリフォルニアのロングビーチにいました。そこから車で」
パイ「いい旅でした?」
オカモト「素晴らしい旅でした。快適そのもの」
パイ「僕の旅は想像を絶するものでしたけどね」
オカモト「イエス。ここに来る前に警察の人と話しました。空のライフボートも見せてもらって…」
パイ「少し、おなかが空いたな」
オカモト「クッキーでもいかがですか?」
パイ「Oh!YES!」
オカモト「では、どうぞ」
パイ「Thank you!」
オカモト「やけに食いつきがいいですね。だけどこれはただのクッキーですよ…」
クッキーに「オー!イエス!」と叫んで大喜びするパイ…
そして「これはただのクッキーですよ」とツッコミを入れるオカモト…
《パイの物語》における最重要トリック《人間の肉を食べる》への布石ですね…
『これは私の肉』
その通り。
そして第三部の導入パートは、こう締めくくられる…
オカモト「さて、パテルさん。あなたの身に起きた一連の出来事を、可能な限り詳細に聞かせてほしいのですが、そこは問題ないですか?」
パイ「YES。私も話したかったんです…」
そしてパイは《トラとの漂流話》を語る…
そこから問答が始まるのね…
すべりまくりの珍問答が…
そう。
パイのボケに反応し、さらにボケを被せて話を展開させるチバ…
そして、そんな二人に忙しくツッコミを入れるオカモト…
往年のドリフに例えるなら、パイとチバが志村&加藤で、オカモトが長さんだ…
ゴクリ…
なんだか凄いハナシになりそうね…
つづく
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