深読み バック・トゥ・ザ・フューチャー vol.24(第194話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
それでは2番を見てみよう。
こちらも非常に興味深い内容になっている。
1分47秒からだ…
2番の出だしはこうね。
Sweet Loretta Martin thought she was a woman
But she was another man
可愛いロレッタ・マーティン、彼女は…
ちょっと待った。
はい?
そうじゃないんだよね。
そうじゃない? どこか間違ってた?
歌詞は間違っていない。
ただ…
ただ?
コンマ(カンマ)を1つ入れるんだ。
そうすると、BTTFで再現された内容になる。
Sweet Loretta,
Martin thought she was a woman
but she was another man
愛しのロレッタ
マーティンは考えていた
彼女は「大人の女性」だと
だけど彼女はまるで別人だった
あっ!マーティが主語になった!
もちろん「ロレッタ」は「ロレイン」のこと。
改変前のマクフライ家の食卓シーンでは、こんなやり取りがあった。
マーティの恋人ジェニファーが何度も電話を掛けてくることに不快感を示したロレインは、娘のリンダにこんなことを教え諭す…
「女から男に電話をかけるなんて。私が若かった頃は、女が男を追いかけるなんてありえなかったわ。女は《その時》が来るのを信じて待っていればいいの。必ず運命の人は現われる…」
大噓でした…
そう。
1985年のマーティは母ロレインの言うことを信じていたけれど…
1955年に行ってみたら…
18歳のロレインは、まるで「別人」だった…
男に電話をかけるどころか…
男を押し倒して強引に唇を奪う肉食系女子…
そして歌詞はこう続く。
All the girls around her say she's got it coming
But she gets it while she can
いつもロレインと一緒にいた、取り巻きガールズのことですね。
彼女の周りの女の子たちは言う
彼女は当然の結果になると
だけど彼女はやれるうちにやると
意味深…
「have got it coming」は「当然の報いを受ける・罰があたる」という意味…
ロレインがゲットしようとしたマーティは実の息子…
幸い、キスの段階で異変に気付いたけど、あのまま最後まで行っちゃってたら、禁断の近親相姦だった…
まさに、このサビがピッタリだね。
無事に「あるべきところ」へ収まり、ジョージが家まで「GET BACK」してくれて良かった。
Get back, get back
Get back to where you once belonged
Get back, Loretta
そして曲が終わり、最後にポールとジョンの声が…
『GET BACK』の演奏部分はアップル本社内の地下スタジオで録音されたものだけど、それ以外の部分は屋上での録音。いわゆる ROOFTOP CONCERT(ルーフトップ・コンサート)でのものだ。
『GET BACK』が終わると拍手が起こり、リンゴの妻 Maureen(モーリーン)が「イエーイ!」と歓声をあげます。
そしてポールはお礼を言いました。
Thanks, Mo.
これは駄洒落になっている。
ダジャレ?
Maureen(モーリーン)の愛称「Mo」と、Momma(ママ)の「Mo」の駄洒落だ。
なぜ、ここでママ?
映画『LET IT BE』のエンディング曲でもある『GET BACK』ルーフトップ・バージョンでは、曲の終盤でポールがアドリブのジョークを言う。
「Momma」を使ったジョークをね。
「Thanks, Mo」は、そのジョークを踏まえた駄洒落になっているんだ。
ポールはどんなジョークを?
怒られることを知りながら屋上ライブを強行した自分たちを「ママの言うことを聞かないイタズラ小僧」に喩えたジョークだよ。
You've been playing on the roofs again,
and you know your Momma doesn't like it,
she's gonna have you arrested!
また屋根に上がって遊んだのか
ママが嫌がることわかってるだろう?
きっとお仕置きされちゃうぞ!
ん?
どうしたの?
未来の母ロレインに別れを告げる際、マーティが似たようなこと言ってました…
「君たちの子供が8歳になった時、火遊びをしてカーペットを燃やしてしまっても、あまりキツく叱らないであげて」と…
あっ…
ちなみに、ポールがあんなジョークを言ったことには理由がある。
ルーフトップ・コンサートは、近隣にも警察当局にも誰にも知らせず、ゲリラ的に行われた。
ビートルズの自社ビルがあるところはロンドンのビジネス街。ファンではない人たちからすれば迷惑以外の何物でもなく、当然のことながら警察に苦情が殺到することになった。
「音が大き過ぎる」と…
まあ仕方ないわよね。
あんな場所で無許可の爆音ライブなんて普通に迷惑行為だから…
こうなると警察も動かざるを得なくなる。
だけどもしビートルズ逮捕なんてことになれば世界中が大騒ぎになってしまうので、警察も慎重にならざるを得ない。
だからすぐに屋上へは乗り込まず、介入するタイミングを「待って」いた。
ビートルズはビートルズで『God Save the Queen』を演奏し、社会や体制に反抗しているわけではないことを、半分ふざけながらアピール…
そしてコンサートの最後の曲『GET BACK』が始まったところで、ようやく警察は屋上へやって来る…
思い出したわ!
驚いたスタッフがギターアンプをオフにしたのよね!
その通り。
演奏が始まって24秒後、ギターの音が消える。
しかし警察も野暮ではないから強制終了させなかった。
ジョージは自分でギターの音を復活させ、『GET BACK』は無事に最後まで演奏され、スタッフや関係者の拍手で終わる。
そしてジョンが、こんなジョークで締めくくった。
I’d like to say “Thank you” on behalf of the group and ourselves and I hope we passed the audition.
グループを代表して感謝の意を表します
このオーディションに合格しますように
オーディション?
ビートルズはEMIからのデビュー前に、DECCA(デッカ・レコード)のオーディションを落ちている。
そしてこのレコーディングは、ポールが提唱した GET BACK(あの頃に戻ろう)というテーマのもとに行われたので、ジョンはこんなジョークを最後に言ったんだ。
「あの頃みたいに酷い内容だったな」とね(笑)
ギターの音が大き過ぎる…
そしてオーディションに落ちる…
まさか…
これ?
その通り。
マーティのバンド「The Pinhead」のオーディション・シーンは、これが元ネタになっている。
マーティのギターが「黒」なのは、「音が大き過ぎる」という苦情によってギターの音を消されたジョージへのオマージュだね。
背後のグレーのレンガ模様も、よく似てる…
そういえば…
審査員としてカメオ出演していたヒューイ・ルイスは…
マーティのギターに対して「音が大き過ぎる」と言いました…
しかもヒューイ・ルイスは最初に「Hold it!」と言っている。
これはルーフトップ・コンサートの『DIG A PONY』で、リンゴ・スターが演奏を止めさせた時のセリフだったね。
だけど、この「音がやかましい」は、ヒューイ・ルイスが『WE ARE THE WORLD』で言われたセリフだと何かの記事で読んだことあるけど…
リハーサルの時にプロデューサーから、そう言われたって…
「うるさい」と言われたのはヒューイ・ルイスではない。
ヒューイ・ルイスの隣で歌っていたシンディ・ローパーだ。
え?
この日シンディ・ローパーは、大きなアクセサリーをいくつも首からかけていた。
そして彼女が動くたびにジャラジャラと音が鳴り、それをマイクが拾ってしまうので、プロデューサーのクインシー・ジョーンズはリハーサルを中断させたんだ。
だけどその理由に気付いていないヒューイ・ルイスは、自分のせいだと思いこみ、「僕が悪かったんだ」と反省し始める…
なぜですか?
実はヒューイ・ルイスが歌っていたパートは、プリンスが歌うはずだった。
だけどプリンスが出演を辞退したので、代役としてヒューイ・ルイスに白羽の矢が立ち、マイケル・ジャクソンの隣で、次のパートを歌うことになったんだ。
だからこの日、ヒューイ・ルイスはとてもナーバスになっていた。
しかも少年時代のアイドル、レイ・チャールズやボブ・ディランが目の前にいて、極度の緊張状態だったらしい…
なるほど。それは確かにものすごい重圧ですよね…
だけどNGの理由が「シンディ・ローパーのアクセサリー」だとわかり、スタジオ内に大爆笑がおこる…
このリハーサル風景動画の11分30秒あたりから、その様子が描かれているんだけど、ヒューイ・ルイスの緊張がこちらにも伝わってくるよ…
ホントだ…
ヒューイ・ルイスは「うるさい」とは言われていない…
あのオーディション・シーンのセリフは、ビートルズの映画『LET IT BE』へのオマージュだったんだよ。
「Hold it!」も「音がうるさい」も「ギターが途中で止まる」もね。
そして…
椅子に座ってバンドの演奏を聴いていた審査員の4人も…
審査員の4人? そんな人たち、居たかしら?
あっ!居ましたよ!
特等席に4人が並んで座っていました!
オノ・ヨーコとリンゴの妻モーリーン、そしてビートルズのマネージャー…
そういうこと。
ちなみにルーフトップ・コンサートの「審査員4人」はどんな特徴かな?
右から2番目の人だけ性別が違います…
そして髪の色が、一番右の人だけ違います…
それがBTTFでも、ちゃんと「再現」されている。
髪の色というか、あれは…
だからヒューイ・ルイスは、怪訝そうな顔をして、左右を見ていたんですね…
おそらく、こう思ってる…
「うちら男女逆じゃね?」
そして極めつけは…
審査員の背後、アリーナの壁だ…
わ、ワーゲン・ビートル!?
なんてことなの…
この映画の元ネタがビートルズであることの「しるし」が、壁にちゃんと描かれていたなんて…
これだけじゃないよ。
1955年のドクの屋敷でのシーンにも…
あっ!4人の肖像画!
だけど、横並びだと誰が誰なのかわからないわ…
『LET IT BE』のジャケットは、4人が田の字の中に置かれているから…
右端の白シャツはジョージだと思います。
そして中央の2人がジョンとポール…
どっちがジョン?どっちがポール?
うーん…
ジャケの配置と同じく、左がジョンで右がポールのような…
それはこのシーンのセリフを追って行けばわかる。
まず暖炉の部屋に移動する際、ドクはこう叫んだ。
「Great Scott!」
これは、人生最大のピンチに追いこまれていたポール・マッカートニーが、スコットランドの大自然の中で「GET BACK プロジェクト」を思いついたことが元ネタになっていたね。
そしてドクは、1枚の肖像画を手に持ち、話しかける。
「1.21ジゴ・ワットだと!?教えてくれトム!どうすればいいんだ?そんなの無理に決まってるだろう…」
おそらく「トム」はポールですね。
この「ジゴ・ワット」って「ギガ・ワット」の間違いなんでしょ?
脚本家のボブ・ゲイルが発音を勘違いして、そのまま撮影されてしまったと聞いたわ。
そんなわけないだろう?
映画には多くのプロフェッショナルが関わっている。そんな初歩的なミスに誰も気がつかないなんてありえない。
いちおうSF映画なんだから、それくらいの知識を持つ人物は必ず居たはず…
じゃあ、なぜ?
おそらく「リバプール訛り」だ。
リバプールのアクセントは、イギリスでも有名なくらい独特だからね。
あっ、なるほど…
そしてドクは「トム」を「あるべき場所」に戻す…
つまり「get back to where you once belonged」するわけだね…
そしてドクは「トムの左隣の肖像画」の前でマーティにこう伝える…
「残念だが君はこのままだ。元の世界には戻れない」
それってジョンのこと?
つまり…
4人の肖像画は…
左から、リンゴ、ジョン、ポール、ジョージ…
これにて一件落着。ふぉーっふぉっふぉ。
まさかアルバム『レット・イット・ビー』がBTTFの元ネタだったとは…
しかも全曲の歌詞と全セリフがBTTFの中で再現されている…
フランク・シナトラにも驚いたけど、こっちはこっちでまた別の衝撃…
ビートルズもBTTFも超有名なのに、今まで誰もこの事実を指摘しなかった…
お見事だったわ。深読み探偵さん(笑)
どうもありがとうございます。
それではポール・サイモンのアルバム『HEARTS AND BONES』に戻りましょうか。
あっ、そうだった。すっかり忘れてたわ。
最後の曲は『The Late Great Johnny Ace』…
今は亡き、偉大なるジョニー…
ポール・サイモンによるジョンの追悼ソングだ…
つづく
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