深読み バック・トゥ・ザ・フューチャー vol.17(第187話)
前回はコチラ
2019年9月19日
スナックふかよみ
後世に残る名作とは、こういうことじゃ…
何気ない描写のひとつひとつに、おそろしいまでのこだわりが隠されている…
それを世のため人のために紐解くのが、深読み探偵…
己のためでもあるんじゃない?
そういう生き方しか出来ない人種…
かもしれません…
誰かに強制されているわけでもなく、すべて自分の意志ですから…
「業」ってやつね。
GO!GO!
さむっ。
それでは次の曲『Dig A Pony』に行ってみようか。
速足で行くよ。
今度はジョンのMCではなく、ビートルズのメンバーのやり取りから始まりますね。
1、2、3とカウントした直後、「Hold it」と、待ったの声が入ります。
あれはリンゴ…
吸っていた煙草の火が消えていなかったのです…
まるで音楽コントみたい。
カトちゃんの大きなクシャミで止まるみたいな。
そしてようやく曲が始まり…
Hold it!
はい?
大事なことを忘れてないかい?
大事なこと、ですか?
この録音は、ビートルズの会社アップルの本社ビル屋上で行われたもの。
いわゆる「ルーフトップ・コンサート」というやつだ。
ジョンがカンペ見ながら歌ってる(笑)
ちなみにこれは真冬の1月…
気温は2度だったそうです…
それが何か?
薄着だったジョンは、あまりの寒さに堪りかねて、ヨーコが着ていた毛皮のコートを羽織るが、それでも冷え切った体は温まらない。
そこでジョンは、張り切りマンことポールへの当てつけに、マイクに向かって思いっきり鼻をすすってみせた。
そして、鼻をすすった後に、深いタメ息をつく…
「ハァ…」
げえっ!
何?
これですよ…
『BACK TO THE FUTURE』の主題歌『The Power of Love』のイントロでの大きなタメ息!
あの「ハァ」は『ディグ・ア・ポニー』のジョンの真似だったの!?
間違いないね。
おそらくロバート・ゼメキスかボブ・ゲイルの指示だろう。
歌が始まる前に大きくタメ息を入れてくれ、と…
そんなところまで再現する必要ある?
そういうところが大事なんだよ。
「遊び」は本気でやらないと面白くない。
皆が唖然とするくらいにね…
確かにそうだけど…
そして、BTTF内における『DIG A PONY』の再現は、その精神を地で行くものになっている。
なぜなら『DIG A PONY』という曲のメッセージは、
「世間や常識なんか気にするな!自分が欲することを思う存分やれ!」
というものだから。
何だか見えて来ました…
この先の展開、未来が…
でしょ?
それではまず1番から。
IIIIIII... I dig a pony
Well, you can celebrate anything you want
Yes, you can celebrate anything you want
僕はディグ・ア・ポニー…
「ポニー」とは「小さい馬・子馬」という意味だけど、「小さいもの」全般の呼び名でもある。
つまり「子馬・子供が好き」とか「小さい子にやってやったぜ」という意味だね。
あっ…
あれが「PONY」だ。
マーティが捕まえた「小さい子」は、ハンドルのついたキックスケーター(キックボード)に乗っていた。
ハンドル部分の前方には「馬の口」を模した空き缶が付いていて、インディアンの絵も描かれていたよね。
あのキックスケーターは子馬だったのね…
子馬に乗ったチビッ子インディアン…
そして「欲しいものは何でも自分で誕生を祝うことができる」と歌われる…
マーティは「欲しいもの」を自分の手で生み出したわ…
あの時代にはまだ無かった「スケボー」を…
その通り。
そして1番の後半。
IIIIIII... I do a road hog
Well, you can penetrate any place you go
Yes, you can penetrate any place you go
僕は道路を独り占め
行きたいところは何処でも行ける
イエス!どんな場所でも貫通できる
貫通しました…
ビフの車を…
何なのよコレ…
言ったよね?
歌詞のすべてが完璧に再現されているって。
そしてサビです…
I told you so, all I want is you
Everything has got to be just like you want it to
Because
言ったはずだよね。必要なものは君自身だ
すべては現実のものとなる
まさに君が望むように
なぜなら…
なぜなら…
未来を作るのは、自分自身だから…
そういうこと。
ふぉーっふぉっふぉ。
なんてこった…
まだまだ「本気の遊び」は続くよ。
2番はもっとすごい。
IIIIIII... I pick a moon dog
Well, you can radiate everything you are
Yes, you can radiate everything you are
ムーンドッグを取り上げた?
「ムーンドッグ」とは、アラン・フリードのことだ。
なんか名前は聞いたことあるような気がするんだけど…
誰だっけ?
ミスター・ロックンロール。
「ロックンロール」の、生みの親だよ。
「ムーンドッグ」は彼の別名であり、ロックンロールに憑りつかれた者たちのことでもある。
あっ!そうそう!
ビートルズは最初「Johnny & the Moon Dogs」というバンド名だったのよね。
ジョン・レノンとポール・マッカートニーは、アラン・フリードのラジオ番組「Moon Dog Show」でロックンロールの洗礼を受けたから。
このアラン・フリードという人物が「ROCK AND ROLL」という言葉を発明したのですか?
いや。言葉自体は昔からあった。
黒人たちが「セックス」の隠語として使っていたんだ。激しい腰の動きを表す言葉としてね。
その「ロックンロール」を、アラン・フリードは「ビートのきいたダンス音楽」の名前につけたというわけ。
「ビートのきいたダンス音楽」には名前が無かったのですか?
音楽はあったのに?
「ロックンロール」は特定の音楽のジャンルというよりも「現象」、つまり「ムーブメント」につけられた名前だった。
当時、白人の若者たちが人目を避けてノリノリの黒人音楽で踊っていたんだけど、その「現象」を上手く言い表す言葉が無かった。
なぜなら1950年代のアメリカは、まだ人種差別的な法律や制度が残る社会だった…
「白人と黒人の音楽や文化は別」という価値観が根強かったんだよね…
それをアラン・フリードはぶち破ったんだ。
白人向けのラジオ局で、黒人コーラスグループ、ファッツ・ドミノ、リトル・リチャード、ボ・ディドリー、そしてチャック・ベリーなどの黒人ダンス音楽を「ロックンロール」という名のもとに流しまくって…
まさに「you can radiate everything you are」だわ。
なるほど。アラン・フリードはコピーライターみたいなものですね。
現象は「ある」のに名前が「ない」から、そこにキャッチーな言葉を当てはめた…
よろしく。
これでアラン・フリードは、田舎の無名DJから、ロックンロールのカリスマに成り上がった。
世界初のロック・イベントを開催し、テレビ番組やロック映画をプロデュースして、自分がロックを演奏するわけでもないのにロックの代名詞的存在になっていったんだね。
ちなみにアラン・フリードは、チャック・ベリー主演で『GO, JOHNNY, GO!』という映画を作っている。
こ、この流れは…
そういうこと。
2番の後半でジョンはこう歌う。
IIIIIII... I roll a stoney
Well, you can imitate everyone you know
Yes, you can imitate everyone you know
僕はロックなロールをする
いいかい?知ってる全員を真似するんだ
イエス!全部マネしちゃえばいいんだよ
やられた…
チャック・ベリー、ザ・ベンチャーズ、ジミー・ヘンドリックス、ジミー・ペイジ、ザ・フーのピート・タウンゼント、AC / DCのアンガス・ヤング、そしてエディ・ヴァン・ヘイレン…
だから言っただろう。そのまんまだと。
歌詞のすべてが、映画の中で現実化されているんだ…
I told you so, all I want is you
Everything has got to be just like you want it to
Because
なぜなら…
マーティが、そう望んだから…
マーティが『Johnny B. Goode』を歌ったことにより、「受胎告知」のミッションは完了した。
そして3番だ。
IIIIII... I feel the wind blow
Well, you can indicate everything you see
Yes, you can indicate everything you see
風が吹くのを感じる
君は見たこと全てを記すことができる
イエス!見たこと全てを書き示すんだ
ああ… これです…
そして3番の後半。
もう何が起こるか想像つくでしょ?
IIIIII... I load a lorry
Well, you can syndicate any boat you row
Yeah, you can syndicate any boat you row
僕は荷台つきのヤリ車をゲットした
よし。どんなボートでも連結できる
ヤア!これで愛を独り占めできるんだ
1985年に戻ったマーティは…
恋人ジェニファーを「湖畔のお泊りデート」に連れて行くピックアップトラック、トヨタ・ハイラックスをゲットした…
やだ。露骨ね。そのまんまじゃん。
だって映画の冒頭でマーティは言っていたよね?
あの車を必ず手に入れてみせる…
そしてジェニファーとあの車で…
I told you so, all I want is you
Everything has got to be just like you want it to
Because
だから本当に手に入った…
そして子供もデキる…
なぜなら…
自分がそう望んだから…
Where there's a will, there's a way...
意志あるところに道は開ける…
過去に戻り、母に自分を受胎させ…
現在に戻り、恋人に自分の子を受胎させる…
BTTFとは「受胎」をめぐる物語だ。
なぜなら、それがパワー・オブ・ラブ…
愛の力だから…
そういうこと。
ちなみに『DIG A PONY』は、ジョン・レノンの言葉遊びが駆使された歌といえる。
歌詞はすべて「性と聖」のダブルミーニングになっているんだ。
卑猥な内容のように思わせておいて、同時に真面目なことも歌っているんだよ。
まあ、そもそも「メイク・ラブ」自体が、そういう扱いだからね。
性なる行為であり、聖なる行為でもある(笑)
なるほど、確かにそうかもしれません…
桑田佳祐の『クリといつまでも』もそうでしたし…
日本では、聖夜は性夜だしね…
その通りじゃな。
芸術作品のみならず「人の行い」全般にも言えることじゃ。
なにごとも、まじめにふまじめ…
ふぉーっふぉっふぉ。
そもそも「art」という言葉自体が「人為」という意味ですからね…
やれやれ…
では、次の曲に行きましょうか…
Hold it
え?
これだからデジタル・ネイティブは…
まだ曲は終わっていない。飛ばしたりしないで最後までちゃんと聞こう。
まだ続きがありましたっけ?
そういえば、最後にジョンが何かボヤいてたわ…
その通り。
気温2度の中で演奏させられたので、ジョンはポールや関係者に嫌味を言った。
Thank you brothers.
Put me hands getting too cold to play the chords.
ありがとう、ブラザーたち
あまりの寒さに手が凍りついてコードが弾けないよ
あっ!
マジですか…
ジョンが感謝を述べた「ブラザーたち」もしっかり再現されている。
マーヴィン・ベリー&ザ・スターライターズは全員が黒人のブラザーたちだし…
写真の中のブラザーたちも姿を再び現してくれて、マーティの命は助かった…
どんだけ…
おそるべし、BTTF…
それでは3曲目に行こうか。
『Across the Universe』だね…
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?