「American Tune」ー映画『LIFE』解説・最終回
さて最終回の今日は、ラストシーンに隠された本当の意味を解説するとしよう。
あの短いシーンの中に、制作陣がこの映画で描きたかったことの全てが凝縮されていると言っていい。
前回までを未読の方はコチラをどうぞ!
これまでも散々ネタバレして来たけど、今回はラストシーンの徹底解説やさかい、ネタバレとかそうゆうレベルのハナシとちゃうで。
映画を未見の奴は引き返したほうがええかもな。「読んでから見る派」の猛者は大丈夫やと思うけど。
では始めるよ。
生き残った二人は脱出ポッドに乗り込んだ。
デヴィッド・ジョーダンはカルビン君を連れて、地球とは反対の宇宙空間へ向かい…
ミランダ・ノースは全てを知る「生き証人」となるために地球へ向かう…
カルビン君、あんな可愛い姿じゃなかったけどね(笑)
しかしミランダはポッドの切り離しに手間取ってしまう。
遅れて出発したミランダは、地球着陸時の「万が一」に備え、カルビン君が如何に人類にとって危険な存在なのかということを音声データとして録音する。
だけどその直後にトラブルが発生し、ポッドの軌道が変わってしまうんだ…
すべてカルビン君の予定通りやろ。
前回の「映画のストーリーは『キリスト教網要』によって予定されていた」説によれば、ミランダに定められていた役割は「師伝」や。
カルビン君を地球へ導く「導者」はデヴィッド・ジョーダンやさかい、ミランダは報告を録音した時点で「お役御免」っちゅうことやな…
その通り。6人全員の「決定されていた最期」を貼っておこう。
ミランダがポッドの切り離しに手間取ったのは、おそらくカルビン君の仕業だね。
カルビン君はテレパシー能力があるから、彼女の操作を遅らせることが出来たんだろう。
しかも「発進後に障害物と接触するタイミング」で出発させたんだ…
あの接触事故もカルビン君の仕業なの!?
カルビン君がミランダのポッドに残骸をぶつけたってわけ?
そうだろうね。
ただカルビン君は「物体」を動かす能力は持っていない。あくまで生物の意識にコネクトする能力なんだ。
でも神レベルの計算能力で、無数に散らばる残骸の全軌道を読むことが出来た。だからドンピシャのタイミングでミランダを発進させたんだね。
恐ろしい子…
こんな神レベルの生物が地球に入って来たら、人類を始め既存種はひとたまりもないね。
というか、なぜヒューイ以外の乗組員はそこに気が付かなかったんだろう?
明らかに心を読まれ、カルビン君の掌の上で転がされていたのに…
地球人がカルビン君に唯一勝てる方法は、意識を消して無我の境地で戦うしかないのか…
もし続編が作られるとしたら、禅マスターの出番だな…
さて、このラストシーンにおける前半部「ポッド脱出シーン」は、ある歴史的事実をもとにして作られている。
実際にあった出来事が元ネタなんだ。わかるかな?
歴史的事実?
なんだろう?
「カルビン」と共に「脱出ポッド」で宇宙を渡る…
しかも2つのうち片方は軌道を外れる…
ま、まさか…
ピルグリム・ファーザーズ…
その通り。
このラストシーンは迫害を逃れて大西洋を渡り、新天地アメリカへ辿り着いたピルグリム・ファーザーズを描いているんだね。
『ピルグリムの乗船』Robert Walter Weir
あれ?
この絵って映画の中に出て来なかった?
アホ言え。出て来るわけないやろ。
いや、ええじゃろうの言う通りだ。
クルーが娯楽室みたいなところで歓談してる中、デヴィッドが小難しい本を朗読するシーンがあったよね。
あのシーンに『ピルグリムの乗船』が投影されていたんだよ。
口の悪いローリーがこんな皮肉を言った。
「その本は1枚も絵が無い(よくそんな本を読めるよなw)」
これはあの絵の中にあるように、ピルグリム・ファーザーズが乗船の時に聖書を朗読したことに因んだジョークだね。
ピルグリム・ファーザーズはピューリタン、つまり宗教改革で誕生したカルヴァン派の中で最も理想主義者である分離派と呼ばれた人たちだ。
堕落した英国国教会からの分離を求めた彼らは、英国王ジェームズ1世によって徹底的に弾圧され、オランダへ逃れた。でもオランダでも安心して暮らすことは出来ず、彼らは旧世界からのエクソダス(脱出)を試みたんだね。
かつてモーセが紅海を渡って「約束の地」へ向かったように、大西洋を渡って「約束の地アメリカ」を目指したんだ。
映画ではメイフラワー号が脱出ポッドに代わったのか。
どちらもエクソダス(脱出)だもんね。
だから最初は「2つ」あったんだ。史実通りにね。
メイフラワー号って2つあったの!?
いや、メイフラワー号は1つだ。
でも当初「脱出計画」は二隻の船で行われる予定だったんだよね…
だけどアクシデントで一隻になってしまったんだ…
もう一隻の船スピードウェル号は、海を渡ってアメリカに行くことが出来なかったんだよ。
そうだったの!?
二隻の船でイギリスのサウサンプトンから出航しようとしたんだけど、スピードウェル号が水漏れのアクシデントで出航に手間取ったんだ。
なんとか修理して出航に漕ぎ着けるんだけど、やっぱり水漏れアクシデントが発生し、スピードウェル号はアメリカ行きを断念した。
一説には、大西洋横断というハイリスクな仕事を嫌った乗組員が「わざと」水漏れ事故を起こしたとも言われている。
実際、メイフラワー号がピルグリム・ファーザーズをアメリカで降ろしてイギリスへ帰って来た時には、乗組員の半数が亡くなっていたからね…
厳しい旅だったんだな…
そしてカルビン君がミランダの脱出ポッドを「わざと」事故らせたのも、史実通りだったんだ…
こうゆうことやな。
さて、デヴィッド・ジョーダンの脱出ポッドは、カルビン君の「強い意思」で地球へ向かうことになった。
大気圏を通過する際に摩擦熱で非常に高温になったポッドは、成層圏に出てもまだ赤みを帯びていたよね…
よく見るとハートみたい。
ホンマやな。燃える心臓みたいや。
「みたい」じゃなくて、ホントに「燃える心臓」なんだよ。
へ?
現在のマサチューセッツ州ケープコッド岬の先端に辿り着いたピルグリム・ファーザーズは、同地の先住民インディアンの墓を荒らし、埋められていたインディアン・コーンの種を盗んでしまった。
埋められてたインディアン・コーン?
この地に暮らすインディアン部族は将来の食糧不足の時に備え、墓の中にトウモロコシの種を一緒に埋めていたんだよね。厳しい土地で生きるための知恵だ。
それをピルグリム・ファーザーズたちは盗んでしまったんだよ。
これによってケープコッド・インディアンとの関係が微妙になり、より良い環境の入植地を求めてプリマスへ移動する。
それ、火星の土の中から仮死状態の生命体を盗んだ人類と一緒やんけ。
あれは宇宙版インディアン・コーンやったんか。人が喰うんじゃなくて喰われる方の。
ねえねえ…
ケープコッドの形って、どっかで見たことあるんだけど…
そう。
まだ凶暴じゃなかった頃のカルビン君だね。
ピルグリム・ファーザーズは先住民の保存用乾燥コーンを盗んだけど、まだ先住民を殺したり完全な敵対関係になったわけではなかった。
だからこの形の時のカルビン君は何となく友好的にも見えたわけだ。
うまく出来てるな(笑)
さて、ピルグリム・ファーザーズはプリマス沖合にメイフラワー号を停泊させ、小舟で上陸し、入植の拠点を探索する…
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