第109話「ポール・サイモンが阪神タイガースの帽子を被っていた2つの理由」『深読みLIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
いったいどういうことなのでしょうか?
なぜポール・サイモンは、1982年5月から1988年7月の2270日間、「阪神タイガースの帽子」を被り続けていたのか…
少年時代からニューヨーク・ヤンキースの熱烈なファンであるにもかかわらず…
そして、それがなぜ『ライフ・オブ・パイ』と関係があるのか…
私にはサッパリわかりません…
それでは聴いてほしい…
ここからが本当の謎解き…
本当の深読みだ…
・・・・・
そういえばさ…
阪神タイガースとNYヤンキースの帽子は似てるというけど…
ヤンキースの帽子って「濃いネイビー」に「NY」のロゴマークよね?
あっ、そうじゃん!
ポール・サイモンが野球少年だった頃、ジョー・ディマジオとミッキー・マントルの時代も「濃いネイビー」に「NY」マークよ!
Joe DiMaggio&Mickey Mantle
確かに「白地に黒のピンストライプ」のヤンキース帽子なんて見たことありませんね…
100年前は、そうだったんですよ…
え?
「NY」がヤンキースのマークになったのは、今から約100年前、1912年のこと…
それから十数年間は、あなたが被ってる阪神タイガースの帽子のように、「白地に黒のピンストライプ」に「NY」マークの帽子だったのです…
NYヤンキース 1912年モデル
あっ、ホントだ。
余談だけど…
あの「NY」マーク、元々はニューヨーク市警のために作られたもの…
デザインは、あのティファニー…
だからアメリカでは、有名人やセレブも普通にヤンキースの帽子を被ってるのね…
ついでに言っておくと…
阪神タイガースの帽子が「白地に黒のピンストライプ」に「HT」マークだったのは、1982年から2000年まで…
それ以外は「黒地にHTマーク」よね。
そういえば、最近あまり見かけませんもんね、このデザインの帽子って…
ポール・サイモンがこれを手に入れたのは1982年の5月だったから、当時はちょうど最新モデルだったわけか。
それにしても、どうしてポール・サイモンは「あの帽子」を被り続けたのかしら?
大好きなヤンキースの戦前モデルそっくりだったから?
だけど、それならヤンキースの戦前モデルの帽子を被ればいいことです。
わざわざ阪神タイガースの帽子を被り続ける意味がわかりません。
そうよね…
やっぱり「あの帽子」には、何か深い理由があるのよ…
ポール・サイモンにとって、あのデザインが重要だったんだ。
「白地に黒のピンストライプ」に「HT」マークというデザインだったから、ステージ上やメディアの前で被り続けたんだよ。
多くの人たちの目に入るように…
あのデザインを? 多くの人に見せたかった?
いったいどういうこと?
考えてみて。
「阪神タイガース」を知らない外国人が、あのマークを初めて見た場合…
まず何を連想するだろうか?
あの「HT」のマークで?
えーと…
下の線がない「田」?
外国人は漢字の「田」なんて知らないでしょ!
あ、そっか。
もっとシンプルに考えてごらん。
シンプルに?
うーん…
十字架?
そう。
何も知らない人からすれば、あれは「枠の中にある十字架」に見えるよね。
キリスト教国の国旗みたいに。
なるほど…
確かに阪神タイガースの「TH」マークは「枠の中の十字架」に見えます。
だけど「田」も、あながち間違ってはいないわよね…
え?
「藤田 田」って人、知ってる?
ふじた… でん…?
日本にマクドナルドを広めた人だっけ?
そう。「藤田 田」は日本マクドナルドの創業者…
彼の、とても珍しい「田」という名前には…
「口」に「十字架」で「よい言葉(福音)を語るように」という意味が込められている…
お母さまがクリスチャンだったから…
名前が「田」って、かなり変わってるって思ってたけど、「口」に「十字架」って意味だったんだ!
お母様の発想力と、そのアイデアを押し通した信念、かなり凄いと思う…
だけど十字架じゃなくて、ユダヤ人のお金儲けの本で有名よね。
余談ついでに言っておくと、「田」と同じように「迅」も「囲まれた十字架」を想起させる名前として使われることがある。
先日放送された『his ~恋するつもりなんてなかった~』の主人公の名前が「迅」なのも、そういう理由から…
あっ!これアタシの好きなドラマ!
若い頃のこと思い出して、マジ涙が止まんなかったわよ!
あたしも観た。後日談が映画化されるのよね?
すっごく楽しみなんだけど…
話をポール・サイモンと「阪神タイガースの帽子」に戻しますが…
世間に「十字架」をアピールしたかったということは…
ポール・サイモンは、自分がクリスチャンであることをアピールしていたということですか?
ポール・サイモンはユダヤ人家庭に生まれ、ユダヤ人として育てられたはずでしたが…
少なくとも80年代までのポール・サイモンは、クリスチャンではない。
同い年で、全く同じバックボーンをもつボブ・ディランは、1978年末にキリスト教に改宗し、80年代前半にかけてキリスト教をテーマにしたゴスペル三部作を発表して世間を驚かせたけど、ポール・サイモンは改宗していない。
もしかしたら90年代以降に「した」のかもしれないけど、洗礼を受けたら公表すると思うから、たぶん、してはいないだろう…
どういうこと?
クリスチャンじゃないのに、なぜ十字架をアピールしてたの?
「憧れ」だよ。
ポール・サイモンは、少年の頃からずっと、イエス・キリストに憧れていたんだ。
憧れ? イエス・キリストに?
そういえば…
『ライフ・オブ・パイ』の主人公パイも、12歳から13歳になる夏にイエス・キリストを知り、強い憧れを抱きました…
そして父に向かって「洗礼を受けたい」と言い、困らせていましたよね…
あの後どうなったのかしらね?
パパが困った顔をして、それを見たママがクスクス笑って、そこで終わってしまったけど…
結局、パイは洗礼を受けたのかしら?
大人になったパイは、食事の前に祈りを捧げて「アーメン」と言っていたから、洗礼を受けたのではないでしょうか?
だけど洗礼を受けたかどうかはわからないじゃん。
非クリスチャンでも「アーメン」を口にする人は多いわ。そもそもヘブライ語で、ユダヤ教の礼拝で使われてた言葉だし。
そうですけど…
教官はどう読みますか?
その件に関しては、はっきりとはわからない…
なぜならパイのモデルはポール・サイモンだから。
そこもポール・サイモンなの?
そう。
パイは何から何までポール・サイモン。
『ライフ・オブ・パイ』では「ユダヤ人・ユダヤ教」が「インド人・ヒンドゥー教」に置き換えられて描かれていた。
ヤン・マーテルの原作小説に至っては、パイの風貌はポール・サイモンそのものだからね…
ちなみに、ボブ・ディラン、ポール・サイモン、アート・ガーファンクルの3人は、同じ1941年生まれ…
ボブ・ディランはミネソタで、ポール・サイモンとアート・ガーファンクルはニューヨークで育ち、同じ1954年にユダヤ教徒の成人式「Bar Mitzvah(バル・ミツワー/ミツバー)」を済ませました…
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』で若い頃のハン・ソロを演じたオールデン・エアエンライクが世に出るきっかけとなったのも、このユダヤ成人式だったのよね?
娘と一緒に参加していたスティーヴン・スピルバーグがエアエンライクを見て映画界にスカウトし、そこからハン・ソロ役まで登り詰めた…
でもやっぱりハン・ソロはハリソン・フォードよね!
ちなみにアート・ガーファンクルは、このユダヤ成人式「バル・ミツワー」において、ヘブライ語聖書タナハを天使のような歌声で詠唱し、多くの参加者を魅了したそうだ…
タナハって「TANAKH」のことでしたよね。
ん? TANAKH?
ちょっと待って…
何ですか?
「TANAKH」って、縮めたら「TH」じゃない?
TH?
それに、バル・ミツワーの時の正装って…
あっ! 白地に黒のピンストライプ!
『Bar Mitzvah』オスカー・レックス
よく気付いたね。
ポール・サイモンが「阪神タイガースの帽子」を被っていた理由の「もう1つ」が、これだ。
「白地に黒のピンストライプ」と阪神タイガースのロゴマーク「TH」は、ポール・サイモンの「ユダヤ人」である出自、ルーツを想起させる…
ユダヤ人として育てられながら、イエス・キリストに憧れていた少年時代…
自身の信条を明らかにしたボブ・ディランと違い「どちらか」はっきりさせなかった80年代…
そんなポール・サイモンの複雑な心境を表すのにピッタリだったのが、あの阪神タイガースの帽子だったのですね…
そういうこと。
いわゆるひとつのシンク・トゥー・マッチです、はい。
うーん…
やっぱりあたしの深読みし過ぎかも…
何言ってんの!
アンタこの店の主でしょ?スナックふかよみの主なんでしょ?
それならもっと自分の深読みに自信を持ちなさいよ!
あ、ごめんなさい…
あたしったら…
うふふ…
・・・・・
さて、話を戻そう。
アート・ガーファンクルの天使の歌声を聞いたポール・サイモンは、アートとデュオを組むことを決意。
二人は「身長差」を自虐ネタにして「トムとジェリー」というコンビ名で活動を始める…
そういえばさ。
サイモン&ガーファンクル名義の最後のオリジナル曲って、二人が出会った頃を歌ったものじゃなかった?
その通り。
1970年の『明日に架ける橋』リリース後に事実上「解散」したS&Gは、1975年に突然「再結成」して新曲『MY LITTLE TOWN』を発表した。
顔を合わせることなく別々に録音しているから、厳密には「再結成」ではないんだけどね。
二人はそれ以降、何度も「再結成」してコンサートやツアーを行っているんだけど、なぜかオリジナル曲は発表されないまま…
結局、45年も前の『MY LITTLE TOWN』がS&G最後のオリジナル曲になっている…
なんだか変わった歌詞ですね…
アンタもそう思う? アタシも昔からそう思ってた。
なんか変なのよね、この歌詞…
二人が過ごした地元の街を歌ったものらしいんだけど…
嘘だよ。
はい?
この歌は、二人が育った街ニューヨークを歌ったものではない…
歌詞を書いたポール・サイモンは、典型的な「信頼できない語り手」だ…
マ、マジで? どういうことなの?
『ライフ・オブ・パイ』の主人公パイが嘘つきなのは…
モデルがポール・サイモンだから…
まさに、この歌のように…
く、詳しく教えてよ、岡江クン!
いいだろう…
つづく
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