深読み『千と千尋の神隠し』⑥（第307話）
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2020年 ✕月✕日
南の島
とある施設の中
(´Д⊂ｸﾞｽﾝ
白、カッコいい…
ハクじゃなくてウス。
「白」によく似てるけど「臼」だって何度も言ってるでしょ？
そうだった。ごめん…
あーあ。泣かないでメモリーズ。
目盛り？
涙がたくさんってこと。
女の人には幾千日分もの涙があるってことだよ。
ああ、そういうことね…
それにしても、なぜ臼は、風呂桶や金だらいをドラムセットに見立てて歌った時に「おかっぱ」のカツラをつけていたの？
まるでコシノジュンコやヤヨイクサマみたい…
女装癖でもあったとか？
かもね。
ヤヨイクサマじゃなくてイヌカイヌアカだけど。
あと、歌詞もちょっと…
え？
いや別に歌詞がよくないとかっていうんじゃなくて…
すっごく感動的な歌だったわ…
だけど何だか、ちょっと引っかかるのよね…
どこが？
だって「愛」の歌なのに、孤独とか不安とか…
「愛」って、そういうものじゃないの？
確かに、ある意味そうかもしれないけど…
刃を差し向けたり、血が流れたりするのは？
なぜそんな残酷な状況が「愛」なの？
喩えだよ。
あれは瞳の奥の話だから。
瞳の奥の話？
そう。瞳の奥の話。
瞳の奥はワンダーランドだからね。
ワンダーランド？
ダイアモンドじゃなくて？
それは映画色の街だよ。
映画色の街？ 何のこと？
まだわからない？
大切なものが過去形にすり替わったというのに。
大切なものが過去形にすり替わった？
何の話をしてるの？
いや、何でもない。
この話はまだ、ちょっと早かった。
？
それにしてもさ、人間の目って不思議だと思わない？
不思議？ なぜ？
「目は口ほどに物を言う」って言うじゃん。
僕が見るに、今お姉さんが涙を流しているのは…
あの歌にジーンと来てジワっとしたからでしょ？
そうね… 目は正直だわ…
どんなに誤魔化そうとしても、目は本心を隠せない…
「目は心の窓」とも言うけど…
目を見れば、その人が感じていることが分かるって…
不思議だなあ…
『The False Mirror（偽りの鏡）』
ルネ・マグリット
ほんとに不思議…
だけどごめんね、涙なんか見せちゃって…
ううん。いいんだ。気にしないで。
こればっかりは人間の生理だからしょうがない。
ありがと…
それじゃあ話を進めようかな。
臼の歌を聴いた後、僕はボイラー先生のラボに、お別れの挨拶をしに行った。
この日まで僕が「あぶら屋」でやって行けたのも、何だかんだ言って、ボイラー先生の教えあってのものだから…
君があの歌を贈った「せんせい」ね。
ラボに入ると、ボイラー先生はいつもの番台の上から、僕にこう言った。
「干よ。なぜ泣いているのか」
君、泣いてたの？
そりゃそうでしょ。
辛かったことや悲しかったこと、そしてボイラー先生に叱咤激励されたこと、いろんなことが込み上げて来たから。
そうだったわね。
ボイラー先生って『SPIRITED AWAY』の「カマジイ」そっくりだった。
説教好きで「テンドン」が大好物の変なおじさん（笑）
「天丼」じゃなくて「しんこ付きの天丼」だから。
「しんこ」が有ると無いとでは大違いなんだ。
前にも言ったでしょ？ 間違えないでよね。
あのジャパニーズ・ピクルスって、そんなに大事なものなの？
ベントーにもよく入ってるけど、食べないで捨てちゃう人も結構いるし。
やれやれ。「しんこ」の何たるかを、まるでわかってない。
要らないように思えるモノが、実はとても大きな意味を持っていることって、よくあるでしょ？
オマケどころか、実はメインだったりすることもあるのに…
「テンドン」より「シンコ」がメインディッシュ？
そんなわけないでしょ。
はァ…
大切なものが過去形にすり替わっても気が付かないわけだ。
さっきから何なのそれは？
ま、とにかく。ボイラー先生とのお別れは、どうだったわけ？
それが実は、ちょっとしたアクシデントがあって…
アクシデント？
2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
それでは簡単に『千と千尋の神隠し』の冒頭シーンや、他の重要ポイントについて解説しよう。
「湯婆婆」や「釜爺」や「油屋」についても、説明しておかなければならないからね。
この映画に秘められた真実を、解き明かすために…
ちょっと待って…
あたし、怖くなってきちゃった…
なんだかトンデモナイ話になりそうな気がする…
うふふ。マジでヤバいかも（笑）
ｺﾞｸﾘ…
今度ばかりは、なんだか本当にヤバそうです…
おぬし、それでも日本男児か！
アテヨイカヌ ミユトノケイホウニセッシじゃ！
アテヨイカヌ？ 何ですかそれ？
うふふ。あれは暗号文よ。
『紅の豚』でもジーナが無線を傍受して、軍隊の通信を解読してたでしょ？
そういえば文代さん、ジーナに似てるって言われない？
そんなこと初めて言われた。嬉しい。ありがと（笑）
ホンジツテンキセイロウナレドモナミタカシ！
あ、それは知ってます。
「本日天気晴朗なれども波高し」
必ずうまくいくってことですね。
そのトーリ。
では『千と千尋の神隠し』の冒頭シーンを簡単に解説しよう。
さきほど話した通り、千尋が大切そうに握っている花束とメッセージカードの画から始まった。
「理砂」とは「ハク」のことでしたね。
千尋は全く心当たりのない「理砂」という人物からのメッセージカードを眺めていた。
だけど、引っ越しのショックが大き過ぎて思考が停止しており、そのカードの不思議さについて考える余裕はなかった。
あの紙袋に書かれてる「キノクニヤ」とは？
ああ、あれね。セレブ御用達のスーパーよ。
千尋のママは、いかにもセイジョーイシイかキノクニヤって感じ。
絶対にオオゼキとかマルショウに行かないタイプだわ。
荻野家の車も左ハンドルの高級車アウディだし。
うふふ（笑）
あの「キノクニヤ」が「ニギハヤミ」ね。
ニギハヤミ？ ハクの本名のこと？
そして、あの「白うさぎ」のバッグ…
あれもハクだ。
あのミッフィーもどきがですか？
そう。あれは竜としてのハクの顔…
ま、まさか…
そういえば、なぜか「キットカット」もあったよね…
さすがに「キットカット」はハクに関係ないでしょ？
やれやれ。
ハクと千尋が最後に交わした言葉を忘れたか？
え？
二人は最後に…
「キット」を三度繰り返したんだよ。
千尋「またどこかで会える？」
ハク「うん、キット」
千尋「キットよ」
ハク「キット」
あっ…
そして、つないでいた手を…
「カット」した。
そんな…
まさにキットカット…
何なんですか、これは…
だから言ったではないか。
犯人はハクじゃ。
ハクが全てを仕組んだってこと？
荻野家の車を迷わせて、あのトンネルまで連れて行ったってことなの？
でも、どうやって？
車を運転していたのは千尋の父親です。
さすがにハクが父親に憑依していたとは思えませんし…
共犯者がいたんだよ。
というか、黒幕が。
黒幕！？
い、いったい誰なの、黒幕って！？
決まってるじゃないか。
釜爺だよ。
か、釜爺？！
もう忘れちゃったの？
『千と千尋の神隠し』は元々『煙突描きのリン』という企画だったわよね。
絵描きを夢見るヒロインが不思議な事件に巻き込まれる物語なんだけど、その黒幕は宮崎駿自身が投影された老人だった。
そしてヒロインと老人が恋に落ちるんだけど、さすがにそれはヤバいと、鈴木敏夫プロデューサーがダメ出ししたの…
プロデューサーの鈴木敏夫によれば、リンと敵対する集団のボスは宮崎自身が投影された60歳の老人であり、しかもこの老人と18歳の主人公のリンが恋に落ちる展開が用意されていたという。
『ジブリの教科書 千と千尋の神隠し』より
そうでした…
だから宮崎駿監督は、『千と千尋の神隠し』で自分自身の投影を２つのキャラクターに分けた…
少女が恋する美少年「ハク」と…
少女を見守る事しか出来ない老人「釜爺」に…
つまり、当初のアイデア「黒幕は自分」を、そのまま「釜爺」に当てはめたと？
その通り。
荻野家の車を迷わせ、あのトンネルまで連れて行った犯人は「釜爺」です。
しかし釜爺は、ハクのように現実世界には居ませんでした…
いったいどうやって…
よく考えてごらん。
あの状況下で、道を誤らせることが出来るのは、ただ１つ…
あの「車」だ。
車？ あのアウディのことですか？
そう。あのアウディは釜爺だ。
千尋の父親は、なぜか道に迷うクセがあった。
しかもわざわざ悪路へと…
あのシーンで妻が「やめてよ、そうやっていつも迷っちゃうんだから」と言っていたように、本人が自覚のないままそうなってしまうんだね。
つまりこれは父親のせいではないということ…
そういえばこのシーン、『カリオストロの城』ですよね…
そしてクリストファー・ノーラン『インターステラー』でもある。
んもう！関係ない話をしないでよ！
関係なくはないじゃろう。クリストファー・ノーランは…
もう黙ってて！
つまり悪路好きの釜爺、つまりアウディが千尋の父親を操って、迷子にさせていたと？
うふふ。
宮崎駿同様に悪路好きのアウディ…
ちなみに、あのアウディ・Ａ４クアトロは…
当時、宮崎駿が乗っていた車（笑）
ああ、そうでした…
まさか本当に「アウディ＝釜爺＝宮崎駿」なのでしょうか…
そういえば、映画のラストシーン…
妙なセリフがあったわね…
妙とは？
ほら、父親が車の中を覗いて、こう言うの…
「中も埃（ほこり）だらけだ」
あっ、もしかして…
そう。あれは埃ではなく煤（すす）だったんだよ…
釜爺はボイラー室の番人、ススワタリたちのボスだからね…
そしてアウディ・Ａ４クアトロは「四駆」だった。
釜爺も「四駆」みたいなもの（笑）
確かに釜爺とアウディ・Ａ４クアトロは、よく似てる…
これだけじゃないよ。
両者には、もっと深い共通点があるんだ。
同一であることを証明する証拠が、ね…
同一である証拠？
いったい何でしょうか、それは…
つづく
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