第133話 ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ②「ハーツ・アンド・ボーンズ」前篇~『深読み ライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
なんだか…
ホントに全ての謎が、解き明かされそうな気がしてきた…
「解き明かされそう」じゃなくて「解き明かされる」んだよ。
このアルバムによって。
やっぱりこのアルバムのタイトル、『HEARTS AND BONES』じゃなくて『THINK TOO MUCH』のほうがよかったんじゃない?
1曲目からポール・サイモンの「考え過ぎ」が炸裂しまくり。
僕もそう思う。
それでは次の曲へ行こうか。
2曲目は問題の、表題曲になってしまった『ハーツ・アンド・ボーンズ』だ…
zzz... zzz...
ん? いびき?
あら、ヒロノブさん…
寝ちゃってる…
zzz... zzz...
うふふ…
名探偵さんの深読みが中々終わらないもんだから、とうとう眠っちゃったのね(笑)
すみません…
だけど見事なバランス。
あのポーズのまま、よく寝れるわよね。
zzz... zzz...
イスから落ちなければいいんですけど…
zzz... zzz...
あ、揺れ出した…
あぶな…
ドスンっ!
お、落ちましたっ!
ヒロノブさんっ!
すごい音がしましたが… 大丈夫でしょうか…
ここはアタシに任せて。
こう見えて昔、ライフガードやってたの。
血とか出てない?
流血は無いみたいだけど…
なんだか、ぐったりしてる…
しっかりしなよ、あんた!
もしかして…
息をしてないんじゃ…
ええっ!?
は、早く、人工呼吸を!
OK!じゃあ、行くわね…
だ、大丈夫です…
騒ぐことは... ありません...
しゃ、しゃべりました!生きてる!
命はあります…
ああ、よかった…
ホントどうなることかと…
ひとつ... お願いが…
何? どうしたの?
お腹が… すきました…
何か食べるもの... ください…
おなか? お腹がすいたのね?
わかったわ。ちょっと待ってて。何か作るから…
今すぐにです...
今すぐ? じゃあこのパンでもいい?
あたしの夜食用、アップルパイ風のパン…
ありがとうございます…
パイ風のパン... 大好物です…
モグモグ…
・・・・・
んもう。いつまでアタシに抱かれてるつもり?
あんたは良ちゃんのダーリン…
アタシの胸の中には、いてはいけない人…
それ食べたら、席に戻ってよ。
わかりました...
モグモグ...
・・・・・
あれ?貝は?
あんたの武田久美子の貝、どこ行った?
つ、つけてないの!?大変!
あっちに、転がって行きました…
そこのあなたの足元に…
どうか、わたしの貝を、ひろってください…
うへえ…
(大きな貝をつまみあげて)
はい... どうぞ…
そのままわたしの…
ゴールドマンの上に… そっと…
じ、自分でやってください!
・・・・・
岡江クン…
どうかしましたか?
・・・・・
いくらジロジロ見ても
このパイ風パンはあげませんよ(笑)
ヒロノブさん…
もしや、あなたは…
・・・・・
シンク・トゥー・マッチ、してますか?
・・・・・
どうしました?
わたしに何か言いたいことがあったのでは?
いえ… 特に…
それにしても、細部までキレイに金色に塗ってあるんですね…
ホレボレするなあ…
神は細部に宿る…
真のプロフェッショナルは手を抜かないんです…
毛は抜いてますが…
僕も脱毛しようかなあ…
うふふ(笑)
岡江クン!岡江クンったら!
ハッ!
あれ?僕は今何を?
男子の脱毛の話なんか、どうでもいいの!
今はボール・サイモンの話でしょ!
深代ママ…
ボールじゃなくてポールです…
あらやだ。あたしったら…
さあさあ。お遊びはここまで(笑)
深読みに戻りましょ。次は大事な大事な曲でしょ?
そうでした…
それでは始めます。
『THINK TOO MUCH』と入れ替わってアルバムの表題曲になった『HEARTS AND BONES』…
『ライフ・オブ・パイ』の秘密の鍵を握る、重要な歌の深読みを…
Paul Simon『HEARTS AND BONES』
歌詞はコチラです。
今まではサラッと聞き流していたから気がつかなかったけど…
この歌、いきなり凄いフレーズで始まるのね…
こんな出だしの歌、聞いたことない…
One and one-half wandering Jews
Free to wander wherever they choose
Are traveling together
1と1/2のさまよえるユダヤ人
何の制約もなく、どこにでも行ける
二人は一緒に旅をしている
この二人、誰のことか、わかるわよね?
ポール・サイモンとキャリー・フィッシャーに決まってるじゃない。
ポールは両親ともにユダヤ人で、キャリーは父親がユダヤ人。
だから「1と1/2」のカップル。
Paul Simon & Carrie Fisher
ポールは、レコードの売上枚数世界記録をもつ怪物デュオ「サイモン&ガーファンクル」のひとり…
キャリーは、こちらも興行収入の世界記録を塗り替えた怪物映画「スター・ウォーズ」のヒロイン、レイア姫…
しかも、あの名作『雨に唄えば』のヒロイン、デビー・レイノルズの娘です…
二人はセレブ中のセレブ。何の制約もないに決まってます。
世界中どこに行っても顔パスでしょう。
だね。
そして歌詞は、こう続く…
In the Sangre de Christo
The Blood of Christ Mountains
Of New Mexico
On the last leg of a journey
They started a long time ago
サングレ・デ・クリストにて
キリストの血、山々、ニューメキシコ
なにこれ?
スペイン語で「キリストの血」を意味する「サングレ・デ・クリスト」とは、ニューメキシコ州にある山脈の名前だよ。
「キリストの血の山」って…
凄い名前をつけるのね…
雪で覆われた山頂部に夕日が当たると、山脈の稜線が「血に染まったキリストが横たわる姿」に見えるから、そう名付けられたらしいです…
それ知ってる!
サンタフェの、あの山のことね!
血の山...じゃなくて篠山紀信が宮沢りえちゃんを撮った、あの山!
武田久美子といい宮沢りえといい、出てくる例がちょっと古過ぎませんか?
平成生まれの私には、ちょっとついていけません…
ゆとり世代は黙ってなさいよ!
そもそもメインテーマのポール・サイモンの歌が古いんだから、しょうがないでしょ!
そうですけど…
余計なこと言わずに、話を進行させることに集中!
は、はい…
つまり、この歌は…
ポール・サイモンとキャリー・フィッシャーが、ニューメキシコ州のサンタフェへ旅行した時のことを歌ったもの…
ということでいいでしょうか?
だけど、それだと変じゃない?
長い旅の最後に、辿り着いた地
出発したのは、遥か昔のこと
って歌ってるわ。
気軽な旅行とかじゃなくて、すっごく長い旅だったって。
なるほど…
少なくとも、年単位の旅って感じですね…
どういうことなの、岡江ッチ?
「さまよえるユダヤ人」である二人は、まさしく「長い旅」の末に、あの山へ辿り着いたんだよ…
サングレ・デ・クリスト・マウンテン…
キリストの血が流れた山へ…
ん? これって別のこと言ってない?
ホントにニューメキシコ州?
この歌のトリックは、ちょっと複雑だ。
詳しくは後で話す。
まずは歌詞の続きを見ていこう。
ポール・サイモンは「二人の愛」について、こう表現する…
The arc of a love affair
Rainbows in the high desert air
二人の愛は円弧を描く
砂漠の空に浮かぶ虹のように
すごくロマンチックで壮大な愛ですね。
二人で円を描くって…
「ウィトルウィウス的人体図」的なプレイかしら?
『ウィトルウィウス的人体図』
レオナルド・ダ・ヴィンチ
んもう!どんなプレイよ!
それに、これは二人じゃないでしょ!
ひとりが手足を動かしてるだけ!
え?そうなの?
もうひとりが背後からドッキングしてるんじゃなくて?
そんな解釈、初めて聞きました…
あらそう? わりと有名よ。その筋では。
いずれにせよ、二人は見事なハーモニーで愛を重ね、まるで空の虹のようにパーフェクトな「円弧」を描いたとポール・サイモンは歌った…
そして1番は、こう締めくくられる。
Mountain passes
Slipping into stone
Hearts and bones
山を過ぎ、岩の中へと、滑りゆく
心と骨が、二人の体が
こんな感じ?
深代ママって詩心ありますね。
短歌みたいです。
何が詩心よ!
山を過ぎて岩の中に入って行くって、どういう意味?
わけわかめなんだけど!
「stone」には2つの意味がある…
1つは「岩石」という意味…
そしてもう1つは「大麻などのドラッグをキメる」という意味だ…
前のアルバム『ワン・トリック・ポニー』でも、ポール・サイモンは「J」という隠語を歌詞に使っていましたね。
演奏の合間に、ちょっと外で吸うみたいな感じで…
その通り。「joint」同様に「stone」もよく歌に使われるんだ。
レイ・チャールズの『Let's go get stoned』とか、ボブ・ディランの『Rainy Day Women』が有名だね。
そういえば、キャリー・フィッシャーが書いた小説って、自分の薬物中毒を赤裸々に描いたものじゃなかった?
確か映画化もされてるはず…
メリル・ストリープがキャリー・フィッシャー役で、シャーリー・マクレーンが母親のデビー・レイノルズ役だったわ…
原題は『崖っぷちからのはがき』なのに、映画の邦題は『ハリウッドにくちづけ』なんですね…
なんかB級恋愛映画みたいで、全然印象違う…
これについては、ここでは深入りしない。
ポール・サイモンは、次のアルバム『グレイス・ランド』で、彼女を心配し、警鐘を鳴らす歌を書いているから…
今回は「山を過ぎ、岩の中へと、滑りゆく」が重要なんだ。
我ながら、やっぱり名訳よね。
どーせ「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」をパクったんでしょ!
奥飛騨慕情かっつーの!
奥の細道です…
どっちも似たようなもんでしょ!
別のが来るかと思ってヒヤリとしました…
何よ「別の」って?
1番の歌詞の謎はひとまず置いといて、『ハーツ・アンド・ボーンズ』の2番に行くよ。
2番は、さまよえる二人のユダヤ人が、長い旅に出る「きっかけ」となった出来事が歌われる…
Thinking back to the season before
Looking back through the cracks in the door
前の季節に戻って考えてみよう
ドアの隙間から覗き込むように
時が戻って、ポールの回想シーンが始まるってことね。
そう。
そして、ある二人が「結婚した」と歌われる…
しかも、その「行為」は、ポール・サイモンに言わせると…
Two people were married
The act was outrageous
アウトレイジ!?
ヤバい人が集まる結婚式だったの!?
参列者がこんな人たちばっかりの結婚式だったら大変ね(笑)
北野武といえば『血と骨』という映画もありました。
「これは、父と子の物語である」というナレーション…
そして予告編の最後のセリフ「いっぺん死んだらええ」…
つまりこの映画は…
はいはい。それはまたにして。
今はポール・サイモンの『HEARTS AND BONES』でしょ?
そうでした。つい…
「outrageous」っていうのは「とんでもないもの」ってことだ。
悪いニュアンスの言葉を「すごい」という意味で使うことってあるよね?
あ、なるほどね。
「チョベリバ」みたいなものか。
何ですか、それ?
これだから、ゆとり世代は…
「ヤバい」みたいなものよ。ロンバケでタクヤが流行らせたの。
この出品者、玉光堂さんには、よくお世話になってます。
そしてポール・サイモンは「花嫁」について回想する…
The bride was contagious
花嫁は伝染病の保菌者だった?
どういう意味なのでしょう?
病気だったのはポール・サイモンじゃなかったっけ?
1曲目で「僕は病気だ」って歌ってたじゃない…
ん?
この回想シーンって、ポール・サイモンとキャリー・フィッシャーの結婚式のことなの?
だね。
1983年8月16日に行われた、二人の結婚式のことだ。
ちょっと待ってよ…
アルバム『HEARTS AND BONES』がリリースされたのは1983年の11月4日だったでしょ…
つまり、結婚式が終わってから、レコードが発売されるまでの短い間に、この曲を作ったってこと?
そうなるね。
レコードをプレスする期間があるから、9月から10月中旬の間に録音したんだろう。
つまり「前の季節」とは、結婚式が行われた「夏」のことを「秋」から見て言ったことだったのか…
この曲は本当に特別なんだ。
アルバムの他の曲は、この曲と違って一二年前に作られたものばかり…
1981年のセントラルパーク・コンサートで歌われていたものもあるし、それ以外の曲も1982年から1983年にかけて行われたワールドツアーで普通に歌われていた。
だけどこの曲だけは歌われていなかった…
なぜなら、ワールドツアーが終わってから作られたものだから…
花嫁のキャリー・フィッシャーを伝染病ってひどくない?
「喩え」だよ。それくらい周囲に様々な影響を与えたということ。
だからポール・サイモンは、こう続けたわけだ…
She burned like a bride
彼女は花嫁みたいに燃えた?
「燃える花嫁」ってインドみたいじゃん…
もっとひどいわ…
確かにそう思っちゃうよね。
だけど「burn」というのは「キラキラ光り輝く」という意味もあるんだ。
「まるで花嫁のようにキラキラ輝いていた」という意味。
「まるで花嫁のように」って、花嫁なんだから当たり前じゃん。
何考えてるの?ポール・サイモンは。
この表現は「鍵」になってるんだよね…
この歌に仕掛けられたトリックを、読み解く鍵に…
なにそれ?
その話は2番を最後まで見てからにしよう…
These events may have had some effect
On the man with the girl by his side
ポール・サイモンは、こう歌う…
これらの出来事が「the man with the girl by his side」に、何らかの作用を及ぼしただろうと…
まどろっこしい表現だわ。「僕に」ってスッキリ言えばいいのに。
ここにもちょっと事情があるんだ。
「the man」は、ポール・サイモンだけのことじゃないから…
え?
そして2番は、こう締めくくられる…
The arc of a love affair
His hands rolling down her hair
Love like lightning shaking till it moans
Hearts and bones
重なり合う愛の円弧
彼の両手が円を描いて彼女の髪に触れる
やっぱり「ウィトルウィウス的人体図」的プレイじゃん!
だからあの図は二人じゃなくて一人なんです…
後ろに人は隠れていません…
嘘だと思うんならフィギュアで確かめてください…
あんた、しつこいわね…
そこまで言うなら、作者本人に確かめたわけ?
レオナルド・ダ・ヴィンチが「これは一人の男じゃぞ。ふぉっふぉっふぉ」って言ったわけ?
しつこいのは、どっちですか…
どう見ても一人に決まってるじゃないですか…
いつレオナルド・ダ・ヴィンチがそう言った?
何年の何月何日何時何分何秒?地球が何回まわった時?
誰か助けてください…
ふぉっふぉっふぉ。
うーん…
やっぱりどう見ても一人だわ…
一人なのに二人なんて、ありえない…
ふぅ、やれやれ…
そして最後のフレーズは、こうだね。
愛とは、稲妻のように光り、揺れ動くもの…
苦しみや悲しみのうめき声をあげるまでは…
心と骨、二人の体
完璧な愛のハーモニーを奏でると歌われた二人なのに、悲惨な終わりが予告されてる…
いったいどういうことなの?
結婚したばかりだというのに…
まさかポール・サイモンは、翌年に訪れるキャリー・フィッシャーとの破局を予感していたとか?
まあポール・サイモンはバツイチだから、ラブラブの日々がその後どうなるかは、ある程度予測はできていただろう…
だけど、それだけじゃないんだ…
やっぱり別の意味が…
またダブルミーニングになってるのね…
ダブルではない。トリプルだ。
トリプル!?
それでは、この歌のトリックを解説しよう。
トリックさえわかれば、この歌の本当の姿が、ハッキリと見えてくる…
謎めいたCメロと3番の意味も、理解できるだろう…
つづく
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