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ノーランと宮崎駿を結ぶ5つの歌【第8話】紺色のうねりが③「ノーランと ジブリと賢治と 法華経と」

前回までのあらすじ

1989年から現代へタイムスリップしてきたクリストファーは、自分が未来において映画監督となり世界的巨匠とまで呼ばれることを知る。しかもその原動力となったのは、少年時代からの憧れ「宮崎駿」そして「ゲド戦記」への想いだったのだ。クリストファーは自身の映画において「俺のジブリ美術館」計画と「俺のゲド戦記」計画を実行することを知らされる。すべての謎は「5つの歌」の中に隠されていた。「ルージュの伝言」から『インセプション』の物語を、「やさしさに包まれたなら」から『インターステラー』の物語を構築したクリストファーは、「テルーの唄」の”謎かけ”から『インターステラー』の登場人物の名前を考え出す。そして『コクリコ坂から』の挿入歌「紺色のうねりが」に衝撃を受けたクリストファーは、『インターステラー』に壮大なメッセージを組み込むとこを決意したのだった…


今日のタイトルは、シリアスっぽい!

僕は毎回「大まじめ」なんだけどね。

なんだか今回は込み入った話になりそうな予感がします…

そうなるだろうね。

無駄話をせずにさっさと始めようか。

これが未来の君に衝撃を与えた『コクリコ坂から』の挿入歌「紺色のうねりが」の歌詞だよ。


紺色のうねりが

原案:宮沢賢治
作詞:宮崎駿・宮崎吾郎

紺色のうねりがのみつくす日が来ても
水平線に君は没するなかれ
われらは山岳の峰々となり
未来から吹く風に頭をあげよ

紺色のうねりが のみつくす日が来ても
水平線に君は没するなかれ
透明な宇宙の風と光を受けて
広い世界に正しい時代を作れ

われらはたゆまなく進みつづけん
未来から吹く風にセイルをあげよ
紺色のうねりがのみつくす日が来ても
水平線に君は没するなかれ


なんか、あれに似てる…

『インターステラー』に出て来た詩…

せや!

ブランド教授が口癖のように何度も言うとったディラン・トマスの詩や!

穏やかな夜に…

えーと、なんやったけな?

"Do not go gentle into that good night,

Old age should burn and rave at close of day,

Rage, rage against the dying of the light."

です…

訳すと、こんな感じだね。


穏やかな夜に身を委ねてはならない

老境においても決して悟ることなく

激しく情念の炎を燃やせ

怒れ、怒れ、世界の消滅に向かって


「紺色のうねりが」と同じような内容を謳っている。

映画の中でこの詩を「しつこいほど」使ったのは、ノーラン得意の「カモフラージュ」だろうね。

『インターステラー』から「宮沢賢治&コクリコ」臭を消すための…

『インセプション』で、妻モルの秘密行動を隠すために繰り返し使われた「コマ」と同じだ。


ごめんなさい…

過去の君が謝らなくてもいいんだよ。未来の君がやったことだから…

文学部出身の君だったら、こんなベタな詩を物語のキーに使わないよね。僕は映画を観た時にすぐに気づいたよ。これには裏があるな…って。

さて、話を『コクリコ坂から』と「紺色のうねりが」に戻そうか。

せやせや…

あの歌を合唱するシーンは、感動的やったなァ…

文化部の部室が入っとる建物「カルチェラタン」が老朽化を理由に取り壊しが決まって、それに生徒たちが反対して存続運動を起こし、最後は理事会に認めてもらうんやった…

「カルチェラタン」とは「知識・教養のある者が集う場所」という意味だ。元々はフランスのパリで「ラテン語を操る人々が住む地域」として名付けられた。

『コクリコ坂から』では「魔窟」とまで呼ばれていたね(笑)

僕もずっと文化部だったから、彼らの溜まり場が「魔窟」と呼ばれるのもよくわかる。

そして文学&映画&アニメ少年だったノーランは、『コクリコ坂から』を観たのち、宮崎父子による「宮沢賢治オマージュ」に対抗意識をメラメラ燃やし、「カルチェラタン」を自分の映画『インターステラー』に登場させることを決めた…

えっ!?

これが「ノーラン版カルチェラタン」だよ。

これはブラックホール「ガルガンチュア」!

確かにカルチェラタンとガルガンチュアは名前がちょっと似てるけど…

これが…ブラックホール?

1989年当時のブラックホールのイメージとは違うかもね。

これは『インターステラー』が公開された2014年でのイメージだ。しかも「ガルガンチュア」「老朽化したブラックホール」だった…

そして、呑み込まれたら最後、光さえも出て来ることは不可能と言われる「宇宙の魔窟」の中には、不思議な「知の空間」があったんだよね…

まさにノーラン流「俺のカルチェラタン」だ。

なるほど…

僕が「カルチェラタン」に対抗して「ガルガンチュア」って名付けるのも理解できます…

だって『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』は僕の愛読書ですから。『ゲド戦記』の元ネタのひとつでもありますし…

君が2010年に発表する『インセプション』は、フランソワ・ラブレーの『ガルガンチュワとパンタグリュエル物語』の影響をモロに受けているよね。(Wikiはこちら

ガルガンチュワ物語(渡辺一夫訳)@アマゾン

渡辺謙演じるサイト―は「パンタグリュエル」のことだし、ディカプリオ演じるコブは、命を狙われているところをパンタグリュエルに拾われて家来になる「奇妙な考えを持つ男パニュルジュ」のことだ。

パンタグリュエルの口の中に「もうひとつの世界」を作り出すのもそっくりだしね。パニュルジュが、寝取られた妻のことでノイローゼになるところも一緒(笑)


てへぺろ☆(・ω<)

おまえ実はミーハーやろ。

さて、宮崎父子の「紺色のうねりが」は、宮沢賢治の詩「生徒諸君に寄せる」から一部分を抜粋してアレンジしたものだ。

当時、賢治の故郷東北地方は、度重なる災害、特に津波の被害を大きく受けた。ただでさえ自然環境が厳しく貧しい地域なのに、人々の暮らしはさらに困窮していたんだ。そんな故郷の未来を担う子供たちや自分自身を鼓舞するために「生徒諸君に寄せる」は書かれた。『コクリコ坂から』にも出て来きたね…

これだよね!


生徒諸君に寄せる

作:宮沢賢治

中等学校生徒諸君
諸君はこの颯爽たる
諸君の未来圏から吹いて来る
透明な清潔な風を感じないのか
それは一つの送られた光線であり
決せられた南の風である

諸君はこの時代に強ひられ率いられて
奴隷のやうに忍従することを欲するか

今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば
われらの祖先乃至はわれらに至るまで
すべての信仰や特性は
ただ誤解から生じたとさへ見へ
しかも科学はいまだに暗く
われらに自殺と自棄のみをしか保証せぬ

むしろ諸君よ
更にあらたな正しい時代をつくれ

諸君よ
紺いろの地平線が膨らみ高まるときに
諸君はその中に没することを欲するか
じつに諸君は此の地平線に於ける
あらゆる形の山嶽でなければならぬ

宙宇は絶えずわれらによって変化する
誰が誰よりどうだとか
誰の仕事がどうしたとか
そんなことを言ってゐるひまがあるか

新たな詩人よ
雲から光から嵐から
透明なエネルギーを得て
人と地球によるべき形を暗示せよ

 
新しい時代のコペルニクスよ
余りに重苦しい重力の法則から
この銀河系を解き放て

衝動のやうにさへ行われる
すべての農業労働を
冷く透明な解析によって
その藍いろの影といっしょに
舞踏の範囲にまで高めよ

新たな時代のマルクスよ
これらの盲目な衝動から動く世界を
素晴らしく美しい構成に変へよ

新しい時代のダーヴヰンよ
更に東洋風静観のキャレンジャーに載って
銀河系空間の外にも至り
透明に深く正しい地史と
増訂された生物学をわれらに示せ
おほよそ統計に従はば
諸君のなかには少なくとも千人の天才がなければならぬ
素質ある諸君はただにこれらを刻み出すべきである

潮や風……
あらゆる自然の力を用ひ尽くして
諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ

ああ諸君はいま
この颯爽たる諸君の未来圏から吹いて来る
透明な風を感じないのか


なんか「インターステラー臭」がプンプンするで…

「未来圏から吹いて来る透明な清潔な風」「一つの送られた光線」は、まさに時空を超えた世界から吹いて来た透明な風と光線や(笑)

「奴隷のやうに忍従すること」は、科学を否定し、昔ながらの農業に縛られる人々のことだね!

「今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば~」からの部分は、アポロの月着陸が捏造だったという歴史を教えられている子供たち(笑)

「宙宇は絶えずわれらによって変化する」は、高度な科学を持つ宇宙人なんていなくて、実は未来の人類だった…ってとこ。

「雲から光から嵐から透明なエネルギーを得て、人と地球によるべき形を暗示せよ」は、ブラックホールの雲の中に突入した主人公クーパーそのまんまだ(笑)

「余りに重苦しい重力の法則から、この銀河系を解き放て」は、父から託されたマーフの役割…

ちょっとォ!

君は1989年から来たんだから『インターステラー』知らないでしょ!

これまでの話で、だいたい把握できました。僕が子供の頃から宮沢賢治を読んで、頭の中でイメージを膨らませて脳内映画化してたのと、かなり近いものがありますから…

さすがやな…

ああ!こんなのもある!

「東洋風静観のキャレンジャーに載って銀河系空間の外にも至り」!

「東洋風静観」は、僕の映画で何になったかわかりますか?

「東洋風静観」…?

これですよ!

宇宙ステーション「Endurance 号」!

ハァ?

「Endurance」とは「耐え忍ぶ」こと。

つまり「忍耐」、まさに「東洋風静観」の姿勢です!

ズコっ!

「増訂された生物学」は、人類の進化の可能性をクーパーが知ったことだね。

「ただにこれらを刻み出すべきである」は、時計の針に刻んだことだ(笑)

「潮や風……あらゆる自然の力を用ひ尽くして」は、異次元空間から3次元空間に情報を伝達するために、引力・重力や風など、さまざまな力を利用したこと…

もう『インターステラー』のアイデアは、ほとんどこの詩から来ていると言っていい。

ここまでパクりまくったのに、誰にもバレんへんかったとは、たいしたもんやなクリストファー。お前は天才やで。

ありがとうございます…

でもきっと…まだまだこれだけじゃないと思います…

なんやて!?

さすがだね、クリストファー。その通りなんだ。

君は宮沢賢治が描いた「絵」を映画の中に登場させた。

えっ!?

賢治の…絵?

宮沢賢治の絵は、詩や物語ほどは有名ではない。

でも印象深い絵をいくつか残しているんだ。

未来の君は、賢治の絵を『インターステラー』の中で再現した。

まずはこの絵。タイトルは「手の幽霊(仮)」もしくは「ケミカルガーデン(仮)」

手の幽霊?

ケミカルガーデン?

そう。この絵は名前が2つあるんだ。

『インターステラー』でも、両方の名前バージョンで使われた。

「手の幽霊」は簡単だね。これだ。

そして「ケミカルガーデン」。

こちらはNASAの植物実験室のシーンで、絵の構図ごと見事に再現された。

おお…確かに…

別にこのシーン要らなかったもんな…

そしてもうひとつ。

こちらは「月夜のでんしんばしら」という絵。

これはどこで再現されたかわかるかな?


これはわかった!

ラストのクーパーステーションだ!

なぜか光をバックに電信柱が意味ありげに映し出されるシーン(笑)

これも必要ないシーンやったもんな。

そしてこんなことまでやっている。

ジョン・リスゴー演じるクーパーの義父と、マイケル・ケイン演じるブランド教授が電信柱越しに空を見上げるシーン。

これは『銀河鉄道の夜』でジョバンニとカムパネルラが立ち並ぶ電灯を眺めるシーンへのオマージュだね。

こうゆうことしとるから「ノーランの映画は長い」って文句言われるんやで。一部の観客に疎まれ、劇場主には敬遠されてまう。ダンケでちょっとは反省したみたいやけどな…

聞いとんのか、少年!

はい…

だからと言って、ボクが将来簡潔な映画を撮ってしまったら、歴史を変えてしまうことになります…

そんなこと君は気にしなくていい。自分の好きなように撮ればいいんだよ。

僕たちが言ったことは忘れて思う存分やればいい。

いや、忘れられないでしょ…

さて、まだまだこれだけではないよ…

君は宮沢賢治の「詩」や「絵」だけではなく、「賢治自身」までも映画の中に登場させたんだ。

マジですかぁ!?

きっと…

マシュー・マコノヒー演じる主人公クーパーが、宮沢賢治の投影ですね…

イグザクトリー。

ということは…

クーパーを支える相棒「TARS」が…

おっと、そこはまだ触れないでおいてくれ。

順を追って説明していくから。

気になる!

もったいぶらないで早く教えろ!

主人公クーパーはね、「宮沢賢治そのもの」なんだよ。

もうね、『インターステラー』って作品は、全編にわたって「宮沢賢治ネタ」でギッシリなんだ。

DIY精神が旺盛だったり、科学が大好きなんだけど農業に勤しんでいたり、「肥料の講習会の講師をする」って話が出てきたり、税金の使われ方に憤ったり、父と”宗旨”をめぐって口論したり、父が結婚を勧めているのに全く聞く耳を持たなかったり、そのくせちょっとタイプの女性(アメリア)と初めて会った時には冗談めいて「俺の知ってるブランド博士は、君みたいに美人じゃない」なんて甘い言葉を吐いてみたり…

これ全部、宮沢賢治ネタなんだよね。

どおりで!

冒頭の流れで「死んだ妻以外の女に興味なんか無い!俺はまだ彼女を引きずっているんだ!」みたいに思わせといて、アメリアに会ったら急に色目を使うんだよね(笑)

なんか変だなって思ったんだ!

特にクーパーとアメリアの初対面シーンは、父・政次郎から賢治への忠告「はじめて女のひとにあったとき、おまえは甘い言葉をかけ白い歯を出して笑ったろう」の忠実なる再現なんだ。

そしてクーパーは家でいつもビールを飲んでるんだけど、それは賢治がいつもクスリ代わりにビール酵母を飲んでいたことへのオマージュだね。

さらに言うと、クーパーが娘マーフに「人類を救うことになる秘密」を伝えた時に「自分が選ばれたんじゃなくて、選ばれたのはマーフだったんだ!」って言うのは、死の間際の賢治が父に向かって「国訳の妙法蓮華経を一千部つくってください。私の一生の仕事はこのお経をあなたの御手許に届けることなのです」って語ったことへのオマージュなんだ…

どんだけ~~!

そして賢治と言えば、避けて通れないのが…

そう、法華経…

『インターステラー』では、この法華経が…

ホケキョー!?

そうかァわかったでェ!

『インターステラー』は『ホーホケキョ となりの山田くん』やったんや!

確かにジブリだけど…

どうやってオマージュすんだよ…

『とな山』も『インステ』も、女だけ三代にわたって描かれとるやんけ!

なるほど…

こういうことですね?

ホントだ!しげさんと老女マーフが似てる!

…じゃなくてクリストファー!

こんなことに付き合わなくていいから!

てか、何で知ってんだよ山田くん!

法華経について話したかったんだけどな…

『インターステラー』は賢治が深く帰依した法華経もベースになってる物語なんで…

法華経がボクの映画に?


ー第9話へ続くー



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コクリコ坂から(セル)





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