「ジョー、登場」『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日 夜
スナックふかよみ
これでやっと『ライフ・オブ・パイ』の続きに戻れるわね。
次はパイが彼女と出会うところ…
あれ? 誰か来たみたいです…
カランカラン♫
(ドアの開く音)
・・・・・
あ、いらっしゃいませ…
おひとり様ですか?
・・・・・
あの… おひとり様ですか?
おひとり様か?って聞いてるのよ。答えたらどうなの?
ジョー…
は?
マイ・ネーム・イズ…
ジョーです…
ジョー?
もしかして…
ミーちゃんの紹介のジョーさん?
そうです…
ミーちゃんって、あのミーちゃんのこと?
そう。昔バイトしてくれてたベトナム人のミーちゃん。
彼女の紹介で今夜から来てもらうことになってたのを、すっかり忘れてたわ。
そんな大事なこと忘れますか普通…
男日照りが続いて、あそこだけじゃなくて脳味噌まで腐ってきたんじゃない?
最近なんかいろいろバタバタしてたからさ…
ところで、ミーちゃんの話ではカンボジア人留学生って聞いてたんだけど…
あなたどう見ても… アジア人って感じじゃないわよね…
本当にカンボジアのジョーさん?
私はカンボジアで生まれましたが、両親はピッツバーグ出身です…
ピッツバーグ? ペンシルヴァニア州の?
ポークビッツ? ペンシルヴァギナ臭の?
さぶっ…
さいてー
ひゃーはっはっは!
ひゃーはっはっは!
ど、どうしたの? ジョーさん…
あ… すみません…
私、しょーもないギャグに大爆笑してしまうクセがあって…
なにそれ? 『8時だョ! 全員集合』の すわしんじ みたい。
・・・・・
アタシ、そういうのありだと思う。夜の仕事に向いてると思うわ。
え? どうして?
だってさ、客の下らないダジャレに笑ってあげるのって、けっこう大変でしょ?
それが自然に出来るって、一種の才能だと思うの。
そう言われれば、そうね…
スナックに来る客なんて、すべるオヤジギャグしか言わないし。
わるかったわね!すべるのがスキーなの!
・・・・・
今のは無反応なんですね。つまり「うまい」ってことか。
ところでさ、なんでペンシルベニア州なんて名前なのかしら。
鉛筆とベニア板が特産品だから?
「ペンシルベニア」はというのは…
「ペンさんが開拓した森の土地」という意味…
ペンさん?
キリスト友会徒、いわゆるクエーカー教徒のウィリアム・ペン。
彼が「シルバ(ラテン語で森)」を切り開いた土地だから「ペンシルバニア」なの。
なるほど。
内藤さんの土地に新しく出来た宿場だから「内藤新宿」みたいなものね。
じゃあジョーさん、早速だけどカウンターに入ってもらえる?
あたしの横で仕事を覚えて頂戴。
遠慮せず会話にもどんどん入ってきてね。
はい…
じゃあ『ライフ・オブ・パイ』の続きをやりましょ。
インドに非常事態宣言が出されて、世間が騒がしくなり始めるところからね。
ぱい?
映画です。ジョーさんは『ライフ・オブ・パイ』を観たことないんですか?
はい…
そうですか。
ざっくばらんに言うと、パイという少年が太平洋をトラと漂流する話なんです。
まあ我々の話を聞いてるうちに、だんだんわかってくると思います。
はい…
では深読みを進めよう…
約2年にわたった非常事態宣言下では、非ヒンドゥー教徒や無神論者・共産主義者への弾圧が行われた。
その影響は教育現場にも及び、パイの通っていた学校も混乱。パイ自身も悶々とした日々を過ごしていた。
そんなある日、パイは女子のダンス教室に、太鼓の代役として参加することになり…
パチンッ!
きゃあ!
ん?
なによコレ!?
て、停電ですか?
大変!アタシちょっと店を見てくる!
カランカラン♫
入ったばかりなのに停電だなんて、ジョーさんもついてないわね。
カンボジアではよくあること。慣れてます…
でも停電じゃないみたいよ。
ビールのショーケースは灯りがついてる。
トイレの電気もついてますよ!
え? じゃあ店内の照明の電球が一斉に切れちゃったってこと?
カランカラン♫
停電じゃなかったわ。外は普通に電気ついてる。
暗いのはここだけよ。
ごめん。電球が切れちゃったみたい。
まったく人騒がせな店ね! さっさと電球を取り換えましょ!
それが… 予備の電球も切らしてて…
は? じゃあコンビニで買ってきなさいよ。
それが…
ハロゲン電球だからドンキまで行かないと売ってないの。
とりあえず、みんなでスマホのライトつけましょ。
ふぅ。少し明るくなりましたね。
あれ? しげしげさん…
はい?
のぶのぶさんは?
さあ。
「さあ」って…
帰っちゃったの? いつ?
そういえば…
さっき外に出た時に、こんなものを拾ったわ…
それは、のぶのぶさんのタイガース帽子!
アンタにあげる。
あ、どうも…
ねえ、深代ママ…
僕がドンキまでひとっ走りして電球買ってこようか?
今夜は岡江クンの誕生日なんだからいいの。
せっかくだからジョーさんに行ってもらおうかしら。
何かあった時の買い出し先も覚えてもらわなきゃいけないし。
ドンキの場所、知ってるわよね?
いいえ… この界隈、初めて来たもので…
じゃあアタシが一緒に行ってあげる。
え? 良介山ママ、いいの?
彼、かなりのトーシロみたいだから。危なっかしくて、見てられない。
買い物がてら、この街をサクッと案内してあげるわ。
じゃあ、お願いしちゃおうかしら。
任しといて。行くわよ。
はい…
カランカラン♫
さて、どうする?
二人が戻ってくるまで、話は止めておく?
いいんじゃない? 進めちゃっても。
そうね。待ってるのも退屈だし。
岡江クンは、よろしく。
うん。
パイは女子のダンス教室に、リズムをとる太鼓係の代役として参加することになった…
そしてアーナンディちゃんに、ひとめ惚れする。
レッスンの後、パイはストーカーのようにアーナンディのあとをつけました。
でも、迷路のような市場の中で見失ってしまい、慌てて周囲を探します。
その頃アーナンディは、市場の外にある大きなガジュマルの木の下で、パイを待ち伏せしていた…
「なぜ付け回すの?」とアーナンディに聞かれ、パイは咄嗟に誤魔化す。
踊りの振付の意味がわからなかった、とね…
鬱蒼とした森の中に咲く「蓮の花」とは、陰毛に覆われた「女性器」のこと。
だからアーナンディは照れ、連れの友人たちはクスクス笑った。
そしてパイの「蓮の花」ポーズは、イングマール・ベルイマン監督の『THE VIRGIN SPRING(処女の泉)』のポーズだった。
パイの故郷「PONDICHERRY」は「CHERRYのPOND」…
つまり「処女の泉」。
詳しくはコチラで。
ちなみに、あのポーズには…
もうひとつ意味が隠されているんだ…
え? もうひとつ? なにそれ?
これだ。
スタア誕生?!
ジュディ・ガーランド?!
さすが深読み名探偵さん…
『ライフ・オブ・パイ』のパイは、『スタア誕生』のヴィッキー…
どういうことなの?
それはまだここでは言えない。
漂流シーンの最後で詳しく話そう。
なんか、すっごく気になる…
うふふ。
そして次は動物園デートね。
パイはアーナンディに「虎のリチャード・パーカー」を見せる。
動物園はパイの実家…
そして、そこの主(ぬし)である「虎のリチャード・パーカー」とは、パイ父のこと…
つまりパイは「あれが僕の父さんだよ」と言っているわけだ。
だからアーナンディはこう言った。
「彼は私たちの話をLISTENしてるわ」
「LISTEN(聴く)」はヘブライ語で「シメオン(シモン)」…
パイのモデルが「シモン・ペトロ」であり「ポール・サイモン」であることのジョークね(笑)
その日の夕食時、アーナンディのことで頭がいっぱいのパイは、父からカナダ移住の話を聞かされる。
政治的混乱の続くインドを離れ、動物たちと一緒に新天地アメリカ大陸を目指すと。
パイの初恋は、あっけなく幕切れを迎えた…
埠頭での切ない別れのシーンね。
ちなみにあれは、ポール・サイモンの初ソロアルバム『Paul Simon song book』のジャケ写の再現(笑)
そしてついに旅立ちの時がくる…
アメリカ行きの貨物船に乗り、インドのリヴィエラと呼ばれた美しいポンディシェリに別れを告げ、運命の船出をする…
パイはずっと無言で、アーナンディがいる故郷を見つめていた…
グスン…
男ってやつは…
哀しければ、哀しいほど…
黙り込むもんよね…
歌っていいですか?
オフコース。
森進一です。
アンタあたしに喧嘩売ってるの?
それでは歌います。
『冬のリヴィエラ』、聴いてください…
つづく
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