マガジンのカバー画像

コーエン兄弟・徹底解剖

62
運営しているクリエイター

2018年6月の記事一覧

『ブラッド・シンプル』徹底解剖8「デボラと星」(最終回)

さて『BLOOD SIMPLE』の解説シリーズも、いよいよ最終回だ。 「名前のついた登場人物」の秘密は全員解読し終わったから、今回は残った謎を全部片付けてしまおう。 前回を未読の方はコチラ! ちょい待て。 まだ「名前のついた登場人物」は残っとるやろ。 マーティに塩対応したツンデレブサイクのデボラや。 彼女の名前「デボラ」は偽名だから… 後のシーンで明らかになるんだけど、彼女の本当の名前は「シルヴィア」というんだ。 黒人バーテンダーのモーリスには別の白人女性

『ブラッド・シンプル』徹底解剖7「私立探偵ローレン・フィッセルって何者?」

さてメインキャラクター深掘り解説もいよいよこれで最後だ。今回は私立探偵のローレン・フィッセルの話をしようか。 前回を未読の人はまずコチラから! せやけど、M・エメット・ウォルシュ演じる探偵フィッセルは、ミケランジェロの絵の中にはおらへんな。 ここまで「BAR ネオン・ブーツ」関係の連中は全部説明できたのに残念や… おっさんの唱える「ブラッド・シンプル=アダムの創造」説も、ここまでやで。 ふふふ。そうかな? 何度も言うようだけど、コーエン兄弟と僕を甘く見ないで欲

『ブラッド・シンプル』徹底解剖6「なぜ黒人バーテンダーのモーリスはバーカウンターの上に立つのか?」

さて、コーエン兄弟のデビュー作『ブラッド・シンプル』の登場人物に隠された秘密と、ミケランジェロの名画『アダムの創造』との関係性をどんどん暴いちゃおう。 絵画ミステリーとか『ダヴィンチ・コード』とか好きな人は必見やな。 前回を未読の方は、まずコチラから! 今回はまず、バー「ネオン・ブーツ」の黒人バーテンダー、モーリスの秘密に迫ってみよう。 謎の存在やな。周りが白人だらけのテキサス社会で暮らす謎のアフリカ系の男や。 実際、モーリスの他に黒人はひとりも登場せえへん。群

『ブラッド・シンプル』徹底解剖5「アダムとリリス」

さて、前回はバー「ネオン・ブーツ」のオーナー「ジュリアン・マーティ」について深掘りしたね。 今回は、その妻アビーと従業員レイについて深掘りしてみよう。 問題の二人だね。 問題なのはアビーや。 旦那の店の従業員モーリスと浮気して、それを旦那に勘付かれ、探偵に尾行されとることを知っとったにもかかわらず今度は別の従業員レイと浮気した。 その通り。浮気問題に関して言えば、アビーは確信犯だ。 夫の店の従業員と立て続けに肉体関係をもち、夫に自分を諦めさせようとした。「もう

『ブラッド・シンプル』徹底解剖4「HE'LL HAVE TO GO」

前回は、アビーとレイがハイウェイ沿いのモーテルで一夜を過ごすところまで解説したね。 映画『BLOOD SIMPLE』の登場人物相関図はコチラ! そんでもって朝、部屋に電話がかかってくるんやったな。 レイが電話に出ると男の声がして、すぐに切れた… レイは無言で立ち上がり、閉め忘れていたカーテンから外の景色を見つめる。 その後ろ姿からは「怒り」と「覚悟」が複雑に絡み合った感情が見てとれた。 彼の想いを代弁すると、こんな感じだろうね… やっぱりあの車は俺たちを尾行

『ブラッド・シンプル』徹底解剖3「Sex, Picture, and Coffee service」

さて、私立探偵ローレン・フィッセルの「語り」による導入部が終わると、夜の雨の中をドライブするレイとアビーが映し出される。 その前に、前回を未読の人はこちらを先にどうぞ! 人間関係図も貼っとこか。 メルシーボークー、ナンボク。助かるよ。 ええんやで。ムッシュムラムラや。 イミフ… さて、車中の二人はお互いの心を探り合っていた。 アビーは夫から最初の結婚記念日のプレゼントに銃をもらったことを話し、レイに対してこんな風に探りを入れる… 「その銃であの人を撃って、

『ブラッド・シンプル』徹底解剖2「ローマ法王、アメリカ大統領、そしてマン・オブ・ザ・イヤー」

さて、映画『BLOOD SIMPLE』のデジタル・リマスター版は、架空団体「フォーエバーヤング映画保存協会」のジョーク映像で始まり、その後に本編が始まるんだったね。 私立探偵ローレン・フィッセルの語りによるプロローグシーンなんだけど、これも実によく出来ている。 前回を未読の人は、まずコチラからどうぞ! ハードボイルド小説風の語りやったな。 たとえアンタがローマ法王でもアメリカ大統領でも同じことだ…とか言っとった。 せやけど別にこれといってオモロイ内容でもなかった

『ブラッド・シンプル』徹底解剖1「フォーエバーヤング映画保存協会」

さて、コーエン兄弟のデビュー作『BLOOD SIMPLE(ブラッド・シンプル)』を解説するよ。 この自主製作映画でコーエン兄弟は一躍名を上げたんだけど、それもうなずける。実に脚本が素晴らしいんだ。 ざっくりと映画の概要をまとめたプロローグ編を未読の人は、まずそちらからどうぞ。 ポイントは、この映画が旧約聖書『士師記』の「デボラの歌」をベースにした物語になっとる…っちゅうところやったな。 映画の予告編動画も一応見ておこうね! まずは主な登場人物を紹介しよう。 ジ

コーエン兄弟の初期作品とカズオ・イシグロを結ぶ点と線 ~予告編~

なんだこのタイトル? 次はコーエン兄弟のデビュー作『ブラッド・シンプル』編じゃなかったの? 何言うとんねん。 そもそも『バートン・フィンク』の解説を始めたんは、カズオ・イシグロの『日の名残り』と『夜想曲集』を理解するためにどうしても必要やったからやろ? 中断しとる『夜想曲集』徹底解剖『第3話モールバン・ヒルズ』編を再開させるべきや。 『ブラッド・シンプル』だよ! カズオ・イシグロや! まあまあ君たち、ケンカはやめたまえ。 あんたがチンタラやってるからだろ!

『バートン・フィンク』徹底解剖~エピローグ後篇~「ヘイル、〇〇〇ー!」

とうとう本当の最終回だな。 終わるの寂しい? 何ならもっと書こうか? 全セリフ、全描写を解説してもいいよ。それに値する作品だから。 いや、もうええ。 映画『バートン・フィンク』の素晴らしさはようわかった。今回で区切りを付けて、次いこや。 そうだね。 未完のまま中断してるシリーズもたくさんあるし。 エピローグ前篇を未読の人は、こちらをご覧ください。 エピローグ前篇「大淫婦バビロン」 さて今回は、なぜコーエン兄弟がラストシーンで『猿の惑星』を引用し、「自由

『バートン・フィンク』徹底解剖~エピローグ前篇~「大淫婦バビロン」

前回の「Qの証明」は面白かったな。 さあ♪かき鳴らせ♪証明の歌~♬ 第30回「BARTON FIN”Q”」 よう発見したわ、マジで。 なにげに映画解説史に名を残すんとちゃうか、このシリーズ。 『Q資料』で全てのピースが収まったよね。 最初っからバートンは、ゴーストライターになる運命だったんだ。『Q資料』の作者みたいに… 人類史上最も有名な聖典に、あんな隠された経緯があったなんて驚いたな! そこ重要だよ。 コーエン兄弟は、エピローグに「そのネタ」を引用した