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2023年J1第18節京都サンガ-横浜FC「あのぅ」

久しぶりの亀岡である。前回亀岡に来訪した時は、笑路城(わろうじじょう)に向った時だった。阪急池田からバスに乗り牧バス停で降り、徒歩で府境を越えて京都に入り、神地バス停からバスに乗るという中々なルート。そして到着する頃には土砂降りの雨が降り出して標高414メートルにある山城攻略を諦め撤収した記憶がある。明智光秀も手を焼いた丹波攻めの如く、中々面倒な記憶としてこの亀岡は記憶に残っている。

さて、亀岡には穴太寺という寺がある。ここには身代わり観音の逸話が伝わる。昔丹波の役人が仏師に聖観音像の制作を依頼し、その褒美として自身の名馬を与えた。ところが名馬が口惜しくなり、仏師を弓で射殺し聖観音像を奪って、自宅に持ち帰ると聖観音像の胸にその矢が刺さっていて、持ち帰ったはずの馬も消えてしまった。後悔したその男は出家して、仏教に帰依して、その聖観音像を穴太寺に安置したと言われ、これが身代わり観音伝説であった。

前半終了間際の三田の退席劇は、亀岡の地で横浜勝利への身代わり観音になってもらうしかないと考えていた。

身代わりか、裏切りか

前半終了間際、京都・山崎と岩武がこぼれ球に競り合い、最後は山崎が出した。ところが5メートルも離れていない目の前にいた副審の判定は京都ボール。
横浜の控え選手達はアップエリアにいて、それが副審からほど近い場所にあった。何人かの選手は副審に抗議の意を示した。その際にである。三田が副審に触れた。積極的に触れよう、何かを阻止しようという意図はなかったが、副審が歩みを進めた方向に彼がいた。そして副審は旗を降る。これは良くないシグナル。

池内主審は、副審と言葉を交わし三田にレッドカードを提示した。VARで確認したのは、接触の状況だろう。スローインの判定にVARは介入できない。VARはあくまで、ゴールかノーゴールか、PKかPKでないか、退場か退場でないか、警告退場の人間違いのみに適用される。そのため、このVARは三田の行為が退場に該当するかどうかの特定の確認をしていたのだろう。VARでも退場となることが確認されて三田はベンチから退くことになった。この遠因として、先日扇谷審判委員長が選手の暴力根絶について言及したのもあって審判へのリアクションは厳しめにとろうとしたのではないかと推測している。この試合が終わってからSNSでは、浦和川崎戦の今村主審が川崎・家長のジェスチャーに対してのイエローカードが話題になっていた。

三田へレッドカードを提示すると同時に、スローインは横浜だと池内主審はシグナルを出している。単純に副審の判定ミスと、それを起因とする退場は別に対する判断は別々に行ったにすぎないのだろう。スローインに関して、主審が副審の判定を変えるのはよくある光景である。
もっとも、副審の目の前のジャッジミスがなければ、抗議はおろか三田の退場もなかったと思うと、あの判定は余りにも杜撰である。たった数メートル先の目の前に起こったトラップを判断できないのは、副審の問題としか思えない。
もう1つは、主審の判断表明が遅い点である。副審の判断と主審の判断が異なる事はよくある。その場合は主審の判断が最終判断である。そういう意味では、副審の判断が主審の判断と異なっているのであれば速やかに対応すべきだった。なぜあんなに長時間も主審は判断を明確にせず流していたのだろうかも疑問である。

不満を漏らしながらも引き上げていく三田。その姿を見守るしかできないが、彼の退場を身代わりにしてでも勝つ。彼を裏切りものにしてはいけない。横浜は高まった。

我慢の丹波平定

鳥栖戦から続けているシステムがハマってくれない。5-2-3的なシステムで前線からプレスをかけてサイドに誘導してボールを奪って逆襲したいのだが、前線の京都・木下と豊川にボールを収められて中々自分たちのボールにできない。特にこのゲームでは左サイドの林のミスが目立つ。ボールを取り返しても、その次のプレーや次のトラップでボールが足に付かずプレッシャーを受けてボールを再奪還されてしまい徐々に後手を踏んでしまう。
右サイドの京都・木下には山根と吉野で蓋をして、チャンスらしいチャンスを作らせていなかったが、左サイドは思うようにコントロールできずにいた。本来だとマテウスがもう少し豊川を見てもよかったのだが、気を利かせた岩武が左右の対応に追われることもあり、外に開いて対応できずにいた。

攻撃に目をすると左サイドを押し込まれている手前、持ち上がることができたのは右サイド。山根は何度もアップダウンを繰り返して右サイドからクロスを上げ続けたが、真ん中に合うことは一度もなかった。彼自身が「クロスが課題」と言っていたように、スペースに飛び出し、クロスを上げるチャンスもある中でボールは明後日の方向に行くのでは中々苦しい。前線からのプレスというより、後ろで奪いきれなかったことが問題だった。

そして、前半終了間際の三田の退席。やはり一筋縄ではいかない。

丹波の紫鬼

後半、横浜も京都も前線にテコ入れをしていく。横浜の交代は概ね想定通り。坂本、伊藤、そしてサウロ・ミネイロと前線の選手を代えて京都ゴールに迫る。

そして訪れたのは後半29分の歓喜。課題と言っていた山根のクロスに反応したのは伊藤。低空で飛んできたボールに頭で合わせてゴールを射抜いた。これで横浜が先制。

残り15分守り切れば勝ち点3が得られる。足を攣った山根に代えて中村、中盤でボールを引き出していた井上に代えて西山を入れて90分をクローズさせようとした。
本来であれば井上に代えて三田を入れて、中盤でボールを散らして相手のラインを下げてクローズさせたかったが、退場でそれが叶わずセンターバックの西山をボランチに起用せざるを得ない状況に。

これが影響したのか、この交代から立て続けに2失点してゲームはひっくり返されてしまった。サイドの守備は粘り強さがなく、中盤では相手の嫌がるスペースを突いたり、出てきた選手をはがすことができないまま相手の流れに飲み込まれてしまった。
クロスに対して、カットインして相手選手の前に入るのはこれもセオリー。鳥栖戦でも、マテウスと武田の間を使わて失点している。5人が揃ってスペースを埋められるが、空けたスペースに飛び込まれた時は1対1。クロスに対してFWがどこで当てたいかを察知して先に体を入れないとこうなってしまう。京都・パトリックくらいのタフな選手であれば、より速く強く入らないといけないのだが。

三日天下

結局そのままタイムアップ。横浜は先制点を挙げながらも2-1の痛恨の逆転負け。

奇しくも3分間でひっくり返されたのは、三日天下と重なる。三日天下とは明智光秀が本能寺の変で時の権力者織田信長を討ち山崎の戦いで討たれるまでの短い間天下にあったことを指す。このゲームもリードしたのはたったの10分という短い時間だった。ちなみに本能寺の変が起きたのは6月21日。明智家の家紋は「水色」桔梗。横浜は討たれる暗示だったか。

目下、残留圏を争う相手との戦いに敗れてしまった横浜。15位の新潟とは勝ち点差が5となった。実質2勝差は厳しいが、それでもまだ16試合ある。井上は試合後頭を下げたまま少し動けなかった。先制しての逆転負けはダメージも大きい。

天王山の戦いは終わったのか。否、一つのゴールで天下を取ったと思い上がった気持ちへの罰だった。16位のチームが思い上がるなと。

謙虚に戦えばまた天王山は必ずやってくる。小川航基も長谷川も近藤も不在の中で、今は耐えるしかない。

※穴太寺は、歴史に詳しい方なら穴太衆(あのうしゅう)から「あのうじ」と読んでしまいがちだが、「あなおじ」が正式名称である。



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