見出し画像

2022年J2第37節横浜FC-ヴァンフォーレ甲府「嵐に旗を翻す」

これが出来るのが横浜であり、これしか出来ないから横浜であるともいえる。すっかりお馴染みとなった長谷川から小川へのクロスをヘディングで叩き込む。後半40分、3試合連続の無得点で終わりかけた試合で決勝点を呼び込んだ。後半15分過ぎに伏線はあった。長谷川のクロスに飛び込んだ小川のヘディングは甲府GK河田の正面。走り込んでパンと強く弾いたボールは正面に飛びがちだが、決勝点となったゴールは「面を作り」、乗せる感じでボールを来た方向とは逆の方向に飛ばしてゴール左隅に流し込んだ。

これまでの36試合で一番再現性の高いプレーはこれなんじゃないかという位のホットラインが再び開通した。アウェイの甲府戦、アウェイ千葉戦、ホーム新潟戦と今シーズン何度この形を見てきたことか。確かに戦術的な成熟度や依存度を考えるとチームとしてはもう少しスコアラーは分散した方がよいが、この形で点が奪えている以上小川も長谷川も簡単には下げられないのが現実。その部分に現在の横浜のサッカーの台所事情が見え隠れする。

勝ち点差5

頭の中を逡巡していた。どうしてこんな状況になってしまったのだろうと。ゴールを奪えなくなってきたのは横浜への対策が進んだことで、序盤に発揮できていた個の力がそれだけでは通用しなくなってきたからだ。無論、山口戦のように穴をあけてしまうようなミスを守備陣がすれば獰猛なゴールハンターが口を開けて待っているのだが、中々そうはさせてくれない。

中盤のパスの多くは長谷川を経由する。そのパスコースと受け手を潰せば横浜のチャンスは生まれにくくなる。その証左に、長谷川の左ひざはグルグルに巻かれたテーピングが痛々しい。横浜がボールを奪い返して前線で受けた時に長谷川にはタイトなマークがつく。今シーズン負傷で何度か離脱しているのを知っている人もいるだろう。

山口では2点差を追いつかれて引き分け、栃木には1点を奪うことはおろかシュートを枠に飛ばすことが出来ずスコアレスドロー、山形にはゲームを組み立てさせてもらえず敗戦。3試合で得た勝ち点はたったの2。その間に首位は陥落しさらに勝ち点差も離された。さらに岡山がここにきて猛追。勝ち点差は5となった。

自動昇格圏を争っていた仙台は残留争いの大宮に敗れてから5連敗を喫し自動昇格争いからは離脱。歯車が一つかみ合わないとガタガタと崩れていってしまうのが怖ろしい。西からくる岡山という嵐とどう立ち回るのか。ギリギリのところで凌げるのか、逆にどこかで差が開いていけるのか、あるいは平行線のままなんとか、それとも、、、そんな怖い思いはしたくない。

そういう意味で、ゲームの入りに注目した。前節のようなおびえたサッカーではなく、自分たちでボールを奪ってゴールを目指すサッカーになっていた。横浜は前半10分に長谷川のサイドを突破してボールを中央に折り返すと、待っていたヒアンがシュート。これはブロックされたが跳ね返りを近藤がシュートし、これはGK河田に止められ、その跳ね返りをヒアンが再びシュートを放つもポストに嫌われる。
前線のヒアンは初めてのスタメンでまだ守備は心許ない。ハイネルがスタメンに戻ってきた中盤は守備自体の強度や推進力は上がったが、彼が縦横無尽に食いつきにいった裏にぽっかり空いたスペースを使われる時間が増えていくとゲームは停滞した。

テンションがずっと高いのはハイネル。その怒りや熱さは彼の持ち味ではあるが、それが悪い方向に出てしまう。前半44分に警告をもらうと、怒りが鎮まらず長谷川と亀川が宥めないと今にも主審に飛び掛からんばかりの勢い。このカードで長崎戦は欠場が決定しており、前半でお役御免となった。

4試合ぶり

この日の田部井はいつもと少し違った。山形戦や栃木戦では俯瞰しやすい位置にポジションを取るが、この日はリスクがあるのを前提でポジションをやや前に位置取りし、さらにボールの展開も何となく左足で出しやすいから長谷川へではなく積極的にサイドに大きく散らして幅を取る攻撃ができていた。

甲府は、ウィリアン・リラと長谷川元希を投入。アウェイのゲームではこの2人のプレーでゴールを許している怖い存在。プレーのクオリティだけを考えたらスタメン張る選手だろう。その交代を見てか横浜も山下と渡邉投入。さらに武田も投入。前線での収まりどころを作るのと、サイドはもっといけと燃料再投下。

近藤、山根のクロスはともかく攻撃を仕掛ける姿勢は悪くなかったと思っている。山根は今シーズンで最もよくないと言っていたが、それは突破した後のチャンスメイクのところであって、そもそも攻撃への姿勢はあの位はできて当然位の感覚だろう。サイドの選手はこの四方田サッカーでは疲弊しやすいポジションであると同時に、幅を広く使うことから攻撃の生命線でもある。

そして後半途中から出てきた山下は甲府の守備陣をちぎり続け、おまけにバックスタンドも煽って流れを自分たちに引き寄せ始める。後半甲府はリラや長谷川を投入したが横浜がボールを握って攻撃することに耐えなければならなかった。

勝ち点3

ゲームの流れは横浜にあった。甲府・荒木に危ないシチュエーションでシュートを許したが、枠の外に外れ胆を冷やした。

逆に横浜は荒木が下がった右サイドを山下が蹂躙。右サイドを突破して、左サイドにサイドチェンジのパス。武田のクロスは相手に当たるが、それを回収した長谷川が振り向きざまにクロスを入れると、反応した小川がヘディングで流し込むだけでよかった。試合終了5分前だった。

直後に甲府・リラの強烈なシュートを許すがブローダーセンがセーブして横浜はゲームをクロージングした。岡山が猛追する中、横浜は苦しみながらも4試合ぶりの勝ち点3を手にした。残り5試合で3位とは勝ち点差は5。勝てなければどちらのチームにもプレッシャーがかかる。

2人がいるが2人だけじゃない

長谷川も小川も横浜ではスペシャルな選手であることは間違いない。確かに彼らのホットラインはどのクラブも警戒しているし、実際封じにかかってきている。が、横浜はその2人だけでサッカーをしている訳ではない。彼らのおぜん立てをする選手がいて、その攻撃は成り立っている。

ここまできたら総力戦である。2人以外のニューヒーローを期待する。山下が岡山戦町田戦と気を吐いているが、もっと出てきてほしい。あと一歩を決められない近藤なのか、お膳立てはできているヒアンなのか、あるいはゲームメイカーから脱皮しつつある田部井なのか。横浜にエースは2人いるが、2人だけではない。人生を変えるチャンスにゴールを決められるかどうか。ゴールを決めてもらえるかどうか。

目の前の1試合に

まずは長崎。プレーオフ圏内を争っているモチベーションの高いチームだからこそ、それを絶望に変えていけるか。2019年もそうだったし2006年もそう。終盤になればなるほど全国各地のサポーターの悲鳴を浴びに行くことになる。残酷ではあるが、可能性一つ一つをつぶしていった上で自動昇格がある。昇格できるクラブ、優勝できるクラブは一番残酷なクラブともいえる。非情になれるか。琉球戦以降の数字はまた考えたらよい。次の試合だけにフォーカスできるか。

嵐の晩に、青き旗が翻った。横浜は何度でも甦る。まだ死ねない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?