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2022年J2第33節FC町田ゼルビア-横浜FC「燃ゆる天空の城」

後半の飲水タイムに横浜のサポーターは「Hey,Don't Stop FULIE!」と歌い続けた。サポーターに水分補給を促されるこの時間も、まるで車にガソリンを補給するように彼らはチームにエネルギーを注ぎ続けていた。その思いが10分後、城に火が燃え移り落城することになる。

町田はその陸上競技場が山奥にあることを逆手に取り、そこを天空の城と名付た。城好きからすると、実はその一帯は架空の城ではなく、野津田公園と道路一本隔てた場所に本当に城があったのである。名前は小野路城。小野路城は、小山田氏はこの小野路城とその西にある小山田城を含めこの辺り一帯を支配していた豪族で鎌倉時代になる直前の平安時代末期に築城したといわれている。まあその位の話であれば、ちょっとした小噺であるが、話はそれに留まらない。
大河ドラマ・鎌倉殿の13人ではこれから放送になるであろう畠山重忠の乱にも小山田氏は一枚噛んでいる。小野路城を築城した時の小山田家の当主は小山田有重。その息子は、稲毛重成。畠山重忠が鎌倉幕府に謀反の動きありということで北条義時に討たれるのがこの乱だが、重忠の死後謀反の計画なしで無実だったことが明るみになると、稲毛重成が重忠を陥れようと謀略を企み讒言をしたと罪を着せられて重忠の死の翌日に攻められて彼も討たれている。彼の讒言が嘘であれば無実の重忠を討ち取り都合の悪くなった北条家によるスケープゴートになるだろうし、本当なのであればこの試合は坂東武士の鑑と言われた重忠の弔い合戦でもある。(ちなみに重忠の終焉の地は二俣川。旭区民デーに来場されたみなさんなら知ってるよね。)大河ドラマがどう描くのかそれは後日楽しみにしている。

威風ドゥドゥ

試合開始から横浜は町田のプレッシャーに翻弄されボールを握って自分たちのゲームにできないでいた。長谷川が前節の負傷からだろうか欠場して前線でボールを溜めることが出来ず、町田がセカンドボールを回収しては攻撃を繰り返すばかりだった。
町田の攻撃の旗手はドゥドゥ。甲府でも10番を背負った危険な選手。彼がボールを持って横浜の陣形を乱すところからチャンスが町田には生まれていた。しかし、ドゥドゥはロングボールを中村拓海と競り合ってトラップした際に腿の裏を痛め飲水タイムに交代。岡山戦でもそう感じたのだが、相手の主力選手が負傷などで下がってしまうのは何だか面白くない。横浜サポーターとしては素直に喜べばいいのだろうが、高い次元の相手を凌駕したいのにケチがつく。実際ドゥドゥが下がってから、町田の左サイドはボールをつけるところがなく右サイドに振るばかりで単調なサッカーになった。
横浜も飲水タイムに若干の修正があったか、両サイドの近藤と武田がもう少し下がり気味で5バックを形成したことで相手を捕まえやすくなった。前半、飲水タイム以降はほぼ横浜の流れとなった。

IGNITE 火をつける

後半横浜は自分たちでボールを握って、ボールを動かして町田陣内に切り込む回数も増えていった。後半16分に3人選手を代えて左サイドを俊足の山根と山下を並べた布陣は町田の右サイドを何度も切り裂いた。しかし最後の部分で町田の身体を張った守備に苦しめられてゴールまでは至らない。
町田は前半の様に前線からプレッシャーを掛ける体力がなくなってきたのか、やや引いてブロックを作ってカウンターを狙っているかのよう。事実奪ったボールを細かくパスで組み立てるより、途中交代で入った鄭に簡単にボールを入れるサッカーになった。

後半も飲水タイムに突入。この時に横浜サポーターが注ぎ込んだエネルギーは選手に力を与えたようだ。ハイネルが入り、田部井、和田と3枚が中盤を組み、ハイネルはロングボールのセカンドボール回収で中盤をコントロールし、田部井、和田がスペース間でボールを受け始める。田部井は前半はプレッシャーに負けていたが、後半まるで忍者の様にスペースに顔を出して町田のプレスの網を外し続けた。ハイネルの投入以降は、町田の守備が下がり続け、ハイネルにはほぼプレッシャーがかからないほど横浜は低い位置でボールを動かせた。

後半35分、残り5分で新加入マルセロ・ヒアン投入。タイトなマークの前に中々前を向けなかった小川をここで交代。前節「点が欲しいところで使うつもり」と言っていた新戦力をここで使うことに。

すると投入直後のプレー。ガブリエウのロングボールに抜け出したのは、マルセロ。右サイド斜め後ろからインナーラップする山下をチラッと確認しながらドリブルで前進、町田GK福井が出てきたところで、「諒也が何か叫んで入ってきたのが聞こえました」とマルセロ。ブラジル人FWで初出場、20歳なら自分でシュートを打ちたいところだが、GKを引き付けて後ろから入ってきた山下にボールを出すと、山下は流し込むだけでよかった。横浜が後半36分、ついに町田ゴールをこじ開けたのだった。

アディショナルタイム含めて残り8分はとにかく耐える時間。なりふり構わない町田の攻勢に晒されるが跳ね返し続けた横浜の勝利だった。

IGNITEの幕

IGNITEとは、「火をつける」「燃え上がる」敵の根城を燃え上がらせるだけでなく、まず自分たちが燃える燃え上がる。声出し応援可能に設定されたこの試合で燃え狂った。天空の城、落城す。わずかに残っていた町田の自動昇格の希望も灰と化した。

それでもまだ、何もつかんではいない。残り9試合で3位仙台とは勝ち点差11、1試合消化の少ない4位岡山とは勝ち点差12。岡山が数字上は仙台を上回れることになったので、残り9試合で勝ち点差9と意識した方が良いだろう。3連敗3連勝で得失点差を考えると逆転される。
長谷川が欠場すると途端に中盤でボールをつなげなくなるのは解消されないまま。3試合連続クリーンシートで、ガブリエウが真ん中にいてハイボールへの強さやエアバトルへの心配は減ったのは収穫ではあるが、この試合の様にプレッシャーをかけられた場合への対応は不安が残る。
この時期に関していえばどのクラブも強みも弱みを抱えているからそれが当たり前とも言えるが勝って兜の緒を何度でも締めたい。

天空の城は落した。次は謙介が待つ山口。2019年までの思い出を振り切らないといけない。昇格のために、昇格するために。より一段と大きく炎を纏って。


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