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2023年J1第15節セレッソ大阪-横浜FC「繰り返す」

試合の途中ではあるが、頭の中をとある曲が流れ始める。この中毒性の高い曲が頭を駆け巡る時は、概ね試合の展開が芳しくない時だ。
後半セレッソが落ち着きを見せてから横浜の攻撃の回数は増えていったのだが、ゴール前で決定的なシーンを作るまでには至らない。自分たちのボールにはなるが、切り替えが遅くミスをしてはボールを奪われ、セレッソの攻撃を自陣深くまで受け、後手を踏みながらも必死に対応して取り返すか、シュートが枠から外れてマイボールになる。それをつなぐも自分たちのミスで〜の繰り返し。この嫌なループは試合終了間際にセレッソが追加点を上げるところまで続いた。

4連勝への挑戦

2020年、横浜が4連勝をかけて挑んだ相手がセレッソだった。湘南、鹿島、清水を倒して三ツ沢でセレッソを迎え撃つが、ボールを圧倒的に保持しながらも1-2と敗戦を喫し、4連勝は霧散した。

そこから3年の時を経て、リーグ戦ではないが公式戦4連勝をかけてまたしてもセレッソと対戦。柏、川崎、そして広島を撃破して勢いが出てきた横浜。その余勢を駆って長居に乗り込んだ。

しかし、また3年前に味わった屈辱をまたしても味わうことに。0-2の敗戦で4連勝は遠い夢物語となった。3連勝するとセレッソと対戦しては敗戦の繰り返し。何の因果だろう。

ズレ

横浜はミスが多かった。ミスをする理由はたくさんあるが、セレッソのプレスの前に自分たちのリズムでボールを運べなかったのが最大の要因だろう。
プレッシャーを受けて、パスはズレてカットされたり、受け手が苦しい体勢でトラップしたところを狙われてプレスを受けて奪われる。早く出すと味方と合わない。横浜のリズムにならなかった。
プレスを受けてボールを失うとボールの出し手が批判されやすいが、受け手の動きが連動していないと出し手はボールを出せない。そういう意味で、このゲームは右サイドの山根、山下の縦の突破以外ボールを預けられる場所が少なかった。
左サイドは林がセレッソのジョルディ・クルークスとのマッチアップで苦戦を強いられており、左サイドはとにかく低い位置で我慢し続けなくてはならず、そのケアに和田が走ることで中盤も開いてしまう悪循環は前半43分に失点という形で罰が与えられた。

ポリリズム

冒頭で話していた、頭の中をめぐる曲はポリリズム。ポリリズムはPerfumeの名曲のタイトルであるが、ポリリズムとは元々音楽用語で、ざっというと複数のリズムが同時に進行していることを言う。小さい頃に、右手は三拍子で三角を、左手は四拍子で四角を同時に描く練習させられたことを思い出していた。

サッカーでも同様にリズムがある。出したいところに出す。欲しいところに走る。セレッソは各々の選手のリズムは違うのに、香川真司のタクトがそれを一つの旋律にしている。サイドに引っ張ったと思ったら、裏にボールを渡し、クロスを入れると思ったらクサビになってフリーの味方にボールを預ける。パスがズレても自分たちがズレて、味方もズレて、スペースを作り、スペースを突く。合わないように見えて、そのズレは横浜のズレを生み出していた。
いくつものリズムが折り重なってゴールへのメロディを導き出す。幾重にもパスとドリブルを重ねてある焦点にピタリとあわさる。それが決定機だろうか。まさにポリリズム。複数の拍子のズレはズレでなく、ゴールという結節点で合えばそれでよい。

横浜は選手のパスがズレても即座に回収できない。隙を見せると危ないという感覚があった。山下や山根は自分のポジションを放しても奪い返しにいくプレスは見せたが、チーム全体としてミスを恐れて、やや無難なボール回しになっていった結果、チャンスはどんどん消えていった。香川のような攻撃のタクトを振ってまとめる選手がいない。
長谷川はそれができる選手の一人であるが、この試合では全く輝きがなかった。左サイドの守備に奔走した結果なのか、攻撃が右サイド偏重になってしまいそこでロストすることが多かったからなのか、前半から彼がボールを持って前を向くシーンは印象に残らないままだった。

小川航基の苦悩

確かにチームとして勝ってきてはいたが、小川航基抜きで連勝していたのを見ると中々悩ましさもある。特に彼が2トップで誰かと組むとユニットとして機能しなくなる。サウロでもヒアンでも中和されている感がある。

神戸戦でもサウロが途中から入って、チームとしての狙いがロングカウンターなのか、小川航への縦パスを使うのか横並びなのか選手も理解していない感じだった。その神戸戦で感じたモヤモヤをまたこの試合でも感じてしまった。

この試合でもヒアンが入って同じような狙いが曖昧になった感じがある。彼が入って5-3-2とした直後に失点したのはそれを咎められている気がしないでもない。守備の整備をすれば失点が少なくなり勝ち点を得られる可能性は上がる。その一方で攻撃の整理はまだまだ進んでおらず、足の速い選手の単独突破を止められた時に違う方法が見えてこない。

小川航の1トップも攻撃が整備されていない現状だと、どうしてもターゲットとして狙われてしまいここ数戦良い形で彼にボールが入ることも少ない。川崎戦の様に伊藤翔を前において、彼の良さを引き出す意味でシャドーに小川航基を置くのも一つの手かもしれない。彼がそれで満足できるかどうかは別であるし、今の攻守に走り続けるポジションとしてはやや苦しい感じもあるが果たして。

頭の中に流れていたポリリズムが止んだのは、決定的な2点目を横浜が許した時だった。緊張感が切れてしまった。後半40分、セレッソの選手がペナルティエリア内で倒されたかのように見えたところで、守備側の横浜の選手は足を止めてしまった。その間隙を突いて飛び出したセレッソ・カピシャーバが中にクロスを送ると反応したセレッソ・中原は難なく押し込むだけでよかった。これで2-0となりゲームの趨勢は決まったのだった。

最下位のガンバが今節勝利したことで、降格圏までの勝ち点差は2に縮まっった。全員の歯車がほんの少しずつズレているのをどう修正していくのだろうか。そこに今興味がある。5月から現実路線に舵を切り、守備重視で整えたが今度は相対的に再現性のある形でゴールを奪うのが難しくなった。

また降格を繰り返してしまうのか。横浜の毎回最下位で降格するループはもう繰り返さない。
繰り返す。横浜は残留する。横浜は残留する。


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