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2023年J1第30節横浜FC-FC東京「衝動が僕らを突き動かす」

浦和戦から約3週間のインターバルがあってJリーグが再開された。その間、私事ではあるが、ラグビーワールドカップとユーロの予選の観戦にフランス、ベルギー、フィンランドに渡航していた。ユーロの予選はこの週が通称Aマッチデーで概ね12日から18日まで試合が組まれていた。日程と予選の緊迫度を考えてベルギー-スウェーデン、フィンランド-カザフスタンを見ていた。サッカーを見たいという衝動が自分を動かしていた。


衝動とは、大きく分けると2つある。1つは、外的な力や影響によって心が動くこと。もう一つは、自分の中で抑制できない強い欲求。今の横浜はどっちだろう。湘南が勝つだろうから自分たちも勝つと思っている訳ではなく、ライバルチーム関係なく勝ちたいと思ったことが大半を占めると思っている。
それが前半優勝もACLもないチームと這い上がりたいチームとの差に出た。

自分を動かす何か

FC東京の3トップの左右は俵積田とアダイウトンと突破力のある選手だったが、アダイウトンは裏抜けだけでゲームを作ろうとして単調な攻撃に終始し、ここを山根と岩武で食い止め、俵積田も内に絞ったり開いたりと工夫を見せるが、FC東京のチーム全体でパスミスが多く彼にボールが良い形で入る事がなかった。仲川が不在とは言え、チーム全体の方向性がバラバラな印象だった。
シーズン開幕直後に対戦したFC東京はもっと怖かったはずだが、このゲームでは全く怖さがなかった。アダイウトンやディエゴ・オリヴェイラのフィジカルやスピードはスペースを与えると怖いが、彼らを使ってそれ以外の選手が決めにかかるような幾重にも折り重なるような分厚い攻撃はなかった。自陣でパスミス繰り返すとカウンターのように長いボールを入れるもそれをミスして失う、外国人選手が強力な分彼らにボールが集まりやすいがそこから展開できないとそれ以上効果的な攻撃はなかった。

逆に横浜は序盤から流れをつかんだ。開始11分のカウンターでカプリーニが抜け出した時にFC東京・小泉がタックルで止めたが、これは本来だとDOGSOでもおかしくないシチュエーションだったと今でも思っている。彼が倒れた時に、その前方にはGK野澤しかおらず場所がペナルティエリア近辺であれば、なぜそれがイエローカードに留まるのか理解できなかった。
ヒアンへのポストプレーもほかのゲームより驚くほど機能している。つまりFC東京の守備は緩かった。縦のボールをあれだけ収めさせてもらえると、中盤の選手は飛び出していきやすいだろう。これまではその足を生かしてのカウンターの旗手でもあったが、徐々にJ1でも足元で収めることができるようになってきている。
また、これは浦和戦でもそうだったが、小川が左のシャドーに入ることでカウンター一辺倒のところにアクセントが効いた。彼が一度受けて捌いてスペースを作ってとライン間でボールを受けられた。前半はほぼ理想的な展開でゲームが進んだ。これは想定外だった。

そして前半32分、カプリーニの縦パスがヒアンに入り、ディフェンスラインに走りこんでいた井上にパスを出すと、左足で持ち替えて放ったシュートは相手選手に当たりコースが変わるラッキーな面もあったが、ゴールに吸い込まれていった。井上の課題はゴールへの姿勢である。確かに守備重視のサッカーで、中盤の底まで上がったことでリスクを考えてしまうのは仕方ないが、上がったらシュートで終われば最悪枠に飛ばなくてもポジションをとる時間は得られる。彼があそこに出て行こうと思ったのは、無理やり立たされた訳でもなくポジションを譲ってもらった訳でもなく、彼がゴールへの衝動が生まれたからである。神戸戦でも最初にパスを探していたし、このゲームでも最初はパスを考えていたという。でもペナルティエリアのライン近くならこうして誰かに当たってもゴールに転がる。サッカーはゴールを奪ってナンボのスポーツ。直接的にゴールを奪う手段をもっと頭に入れると本当に怖くなる。彼の守備の強度はシーズン当初より格段に上がっている。抜かれたらダラダラ戻ったり、コースを切って満足するのではなく、今では自分より大きい外国人選手にも体をぶつけるようにボールを奪おうとしている。外部からの指導があり、メンタルを切り替えて、そして今はボールを自分が奪うんだという衝動で動いている気がする。

前半は1-0で終了。正直前半のパフォーマンスは想定外だし、ゴールへの再現性が低いという意味では想定内でもある。FC東京の動きが悪すぎたが、前半は浦和戦に続いて非常に良い。右サイドの山根の守備が安定してきているのもよい。夏の川崎戦などで後ろからのファウルでPKを献上したり、軽率なプレーも多かったがここにきて安定感も出てきた。

ジリジリと

後半FC東京は非常に圧を高めて前線に迫ってくる。後半12分にはFC東京・白井からアダイウトンに縦の長いボールを通されて、GK永井と1対1の局面を迎えるが永井がシュートをはじき出してゴールを死守する。
FC東京は後半になって長いボールを前線にいれて、サイドからの組み立て中心だった前半と変わって、より直線的に攻撃を仕掛けるが直線的に攻撃をするということは狙いを絞りやすくなる為、横浜にとってはさほどヒヤヒヤするシーンが増えた訳ではなかった。中盤に東と松木を入れてボール保持の時間は増えたが、選手を変えてブロックを作る横浜の牙城を崩すには至らない。
横浜も伊藤や坂本が出場してスタメンほどのゲームコントロールは難しいものの、中盤での運動量を保ち相手の攻撃を寸断していった。晩夏のような暑さだったこの日。ジリジリとした展開が続いた。汗ばんだのは陽気だからか興奮からか。

前節の浦和戦では1-0の状況で75分間リードしていても、怪しい判定でPKを与えて同点にしてしまったが今度は同じ轍は踏まない。明確に跳ね返して長いボールを入れて時間を作っていく。最終的には近藤をこれまで起用してこなかったシャドーの位置で起用し、坂本を1トップの位置に。ポイントを作り時間を作りつつ、チャンスがあれば追加点を狙う積極的な姿勢は好感が持てる。

背中を押されて

後半も45分が過ぎてアディショナルタイム突入。ここで「フリエ オイ!」の大きな圧が生まれた。長年横浜の試合を見ていても、ここまで大きな迫力になったのはダービーですら経験がない。ゴール裏だけでなく、メインスタンドも、バックスタンドも一体となった応援。クラブが求めていた風景はこういうものだっただろうし、それを運営側が用意するコールリーダーなどではなく自分たちでそれを成しえた。いつも静かなバックスタンドもメインスタンドも1つのチャントで一つになった。
声が三ッ沢を揺らした。選手の背中を押しただけでなく、サポーターの背中も押したと思う。そういう衝動を生んだ。FC東京もこの時「俺らがついてるぜ」を歌っていたが、それが明らかに霞む声の圧がそこにあった。あの約1分間はいつもの三ツ沢ではない。そんな雰囲気すら感じた。

アディショナルタイム4分が経過し、試合は終了。1-0で横浜は逃げ切った。勝ち点3を積み上げて、この時点で最下位脱出となった。

勝利を欲している

しかし、それはたった数時間のことだった。17位の湘南の勝利の知らせは、その1時間後飛び込んできた。最下位脱出もつかの間、またしても18位に転落してしまった。

残り4試合で勝ち点1差。直接対決に期待する前に、次の試合に勝ちたい。何が何でも勝ちたい。これは湘南との勝ち点差1を逆転したいからか、それとも今季たったの6勝しかしていないからなのか。答えは外的、内的衝動の両方だ。とにかく勝ちたい。勝ちたい時君はどうする?来ないか、札幌へ。


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