見出し画像

第104回天皇杯全日本サッカー選手権大会3回戦サガン鳥栖-横浜FC「連勝に冷や水を」

試合の行方を暗示するような黒い雲はスタジアムのスタンドから顔を覗かせていた。J2リーグで8連勝中の横浜はJ1で17位の鳥栖とどこまで戦えるかは、今の自分たちの強さが本物なのかを計るには絶好の相手だった。


ボールが回らないのは風のせいなのか

試合後松下は「前半のうちは風も強かったせいか、自分のところにボールが来なくて」と話したのだが、果たしてそうなのか。前半中盤にあった、松板、中村、そして永井と自陣の低い位置でパス回しをしていたシーンがある。リーグ戦だと、松下のポジションは山根が入る事が多い。彼は一人で相手を剥がして前進したり、味方を使ってプレスを掻い潜るのだが、松下はとにかくボールを縦につけずに下げる事ばかりで、中村や永井の負担が増えていった。縦に蹴って前線の選手に当てる選択肢を殆ど選ばず、奪われないように下げてばかりでは相手のプレスを呼び込むだけになる。
中村は彼がボールを前に出さないので、パスとしての選択肢を徐々に諦めたように見えた。22年からの信頼関係と、今年入団の新卒との関係では難しい部分があるのだが、ミスしてでも高い位置を取れないと今後起用出来ないどころか味方もパスを出せない。中村のおぜん立てをするウィングバックでは困る。

右サイドでのビルドアップが徐々に減っていく横浜は左サイドの村田の突破が鍵になったが、カットインは許してもらえたがその先の展開が芳しくなくチャンスらしいチャンスを作れないまま時間だけが流れていく。

先発したGK永井は風の影響で苦しんだ。前半風下で高く蹴ると舞って落下点があらぬ方向になるのをあらかじめわかっていたので、やや低い弾道のボールを蹴ったり、低い位置からショートパスでつなごうとしたが、前者はそれでも結果として直接相手ボールになるケースがあったり、後者は相手のプレスにハマってしまうだけだった。

先週末に行われたJ2の秋田戦からスタメンを11人入れ替えて比較的フレッシュなメンバーで組んだが、これが重くなってしまったのは誤算だろう。試合を作れなかったのは風の影響というよりも、自分たちのミスが圧倒的に多すぎただけと捉えている。

風は横浜に吹かず

前半14分には左サイドからのクロスを鳥栖・堺屋に決められて失点。後半立ち上がりに、ヴィニシウス・アラウージョ、そして手塚に追加点を許して3失点。試合を難しくしてしまった。

岩武は藤枝戦の試合前の負傷から戻ってきたが、まだ本調子ではなく相手のプレーの予測と対応が甘く、特に前半からヴィニシウス・アラウージョを抑え込めていなかった。個人的な推測だが、藤枝戦では右太腿の裏をかなりアイシングしていたのでハムストリングスの軽い肉離れだと考えている。受傷から約1ヶ月なので、まだ本調子ではないはず。常に後手を踏んでしまった。

この日病み上がりで出場した伊藤や岩武、そして武田は試合勘がまだまだ。武田はセンターバック起用もあり彼らしいスプリントは少なくボールを付ける事で精いっぱいだった。伊藤も復帰2戦目ではあったが、彼らしいゲームコントロールやシュートの精度はまだまだだった。

3失点した直後の後半8分には中村のクロスのこぼれ球から最後は髙橋が押し込んで1点を返し、気勢をあげた。横浜はリーグ戦のレギュラーメンバーを続々投入し、鳥栖ゴールに迫る。

後半は雨脚が強くなり、風も依然定まらないまま。鳥栖も横浜に呼応したかのように、ピッタリと修正して5バック気味にして逃げ切りを図ると、横浜の攻撃は停滞してしまった。

攻勢に出てボールは握っているがその先のところで合わず、サポーターとしては悶々としたまま90分が経過。3-1で敗戦を迎えた。

冷や水を浴びせる敗戦

この敗戦は横浜に冷や水を浴びせた。チームもクラブもサポーターも8連勝で何となく浮足立っていた。私は、J2で連勝を重ねた位で変な自信を持つことの方が危ういと思っていたので、この試合は戒めとして丁度良いとすら思った。J1相手に互角に戦える程強くないぞと。
これでルヴァンカップも天皇杯も敗退が確定。もう公式戦はJ2しかない。下剋上やジャイアントキリングとは無縁の同カテゴリーでの骨肉の争いに集中するしかなくなった。前向きに考えるのであれば、目の前の1試合1試合に集中出来る。未知の相手との対戦もなければ、ターンオーバーも考えなくて良い。

これから水戸、千葉、長崎と試合は続く。どこもモチベーションを上げる理由はある。降格圏からの脱出を、プレーオフ圏内進出を、首位独走を狙って横浜を倒しにくる。天狗になっていた鼻をへし折られた横浜がそういう相手の思いをへし折っていくのがこれからの戦いだ。

負けたことは悔しいが、この負けが糧になれば。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?