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2024年J2第9節横浜FC-いわきFC「白羽の矢」

翔と翔

彼の事を思い出していた。「熊川翔」彼は2020年に1年だけ横浜に所属した選手。2019年J1昇格を決め、2020年にJ1に挑戦した際に右サイドの補強で白羽の矢が立ったのは彼だった。柏の育成組織時代に下平監督に指導を受けており、当時東北1部に所属していたいわきFCからJ1に一気に個人昇格した。入団時に熊川のスクワット195キロの動画を見て、どんなフィジカルモンスターがやってくるのかと色めき立った。

しかし、熊川はJ1では2試合計21分の出場に終わりそのまま契約満了となった。20分出場した川崎戦は彼にとってのJ1デビューでもあったが、当時の川崎はその後日本代表の中心となる選手を多数揃える最強集団に近く、特にマッチアップした三笘に翻弄された。それでもフィジカルに特化した上に、戦術理解やスキルの高い選手を揃えた時、当時から一貫してチームの強化戦略があったいわきFCはいつか怖い存在になると考えていた。

前半16分に村田が与えたFKを直接決められてしまう。コースはなかったが、ファーサイドの警戒ばかりでニアへの対応が遅くゴールを許してしまった。ただ、この1分後に横浜はすぐ取り返した。失点につながるファウルを犯した村田が左サイド深くに侵入すると、中にいた中野にパス。中野はいわきの選手に絡まれるが、フリーだった「伊藤翔」にパスをし、伊藤はこれを難なく決めて同点となった。「翔」は「かける」ではなく、「しょう」と読むんだよと、熊川翔と入れ代わるように入団した伊藤翔の目覚めの一発。

想定内と想定外

前半1-1で折り返したチームは、後半早々に逆転ゴールを生み出す。前線からのプレスでいわき・西川のパスがずれたところを三田が見逃さずカットして、敵陣に侵入。ドリブルして相手がプレスに来ないとみると、左足を豪快に振り抜き鮮やかにゴールネットを揺らした。辛かっただろうし苦しかっただろう。その思いは、ゴールした後に空に向かって叫んだ姿で伝わる。今年は惜しいミドルシュートを放っている。仙台戦でもそれはクロスバーを叩いていた。この位出来るからゴールは想定内だ。むしろもっと決めていないといけない立場でもある。低い位置でボールを捌いて終わりではない。まだまだ出来るはずだ。

しかし、その4分後の後半8分、村田が相手選手をペナルティエリア内で倒してしまいPKを献上。それをいわき・照山に決められて同点に。前半から彼の守備の拙さはずっと感じていて、それがPKとなって直接的に露呈してしまった形だ。チームとしては想定外なのだろうか。彼のプレーのクオリティの問題もあるが、ずっとケアしてこなかったチームの問題もある。

試合内容としては、この2つのゴール以外決定機はほとんどなかったに近く、圧倒的に後半は横浜がボールを支配して、ゲームを優位に進めていたのだが、肝心なゴールが奪えないまま2-2で引き分けた。

見立て

監督の采配には必ず意図がある。見立てというべきか。「こうしたい」戦略の中で、相手との組み合わせや選手のコンディション、調子を見て戦い方を決める。これはどのリーグでも、結果を出せる出せていないに関わらず監督は見立てがある。

この試合に関していえば、大多数の方が村田と中野の位置は逆ではないかと思ったに違いない。それは一種結果論で、結果を出していたら四方田采配的中、村田のポジション適性を増やしたと言っていただろう。

なぜ村田をこのポジションで起用したのだろうか。後半8分、ペナルティエリア内で相手選手と競り合った村田が相手の足を引っかけてしまいPKを与えてしまう。村田は、この試合のいわきの1点目となったフリーキックを与えるファウルも犯しており、実質彼のプレーは2失点に絡んでいる。
前兆はあった。前半最初に相手と対峙した際も一瞬気を抜いたところを抜かれてファウルを与えてしまった。コースを切っていたので来ないと思ったのか、目線を逸らした時に突っかけられていた。守備の拙さは感じていた。

一方で、村田は本来攻撃の選手である。横浜の1得点目は村田が左サイドから仕掛けて生まれたもの。後半もカットインしてシュートを放っており、ボールを持って仕掛けさせる攻撃の面で目をつぶろうとしたのか。このゲームでは、その起用の良い面と悪い面両方が出てしまった。諸刃の剣。

ただ、中野と村田は逆ではダメだったのだろうか。相手選手との関係で村田を置いたとするなら、瞬間的なスピードは村田の方が中野よりある。その部分を買って起用した可能性はあるが、村田の瞬間的なスピードはウィングバックに求められるような、長い距離を上下動する豊かなスピードよりも、スピードのキレだと思っている。攻撃面ではそれが良い方向に出たが、守備ではそうならなかった。

また、左のウィングバックはそもそも中野でもフィジカル面で不安が残るし、そのドリブルは攻撃で使いたい。ではなぜ武田がベンチにもいないのだろうか。負傷の可能性を除外すれば、あくまで攻撃で圧倒したかった思いがある。これは三田の起用も同じで、守備よりも攻撃でそのセンスを発揮する三田をこのゲームで先発起用したのも、攻撃に比重がありそれはゴールという形で実る。その代わり中盤の守備は、ユーリが駆けずり回ることになってしまった。

さて自分の推測でいえば、攻撃でよいところを出して圧倒したい。ただし、相手のサイドの選手を封じるにはスプリントできる選手を置きたかった。小川も中野も水曜日の岡山戦でスタメンで出場している点も加味し、中野がウィングバック、シャドーに小川という組み合わせにしなかったのかもしれない。
左のポジションは取り替えが激しい。裏返すとまだ軸が定まっていない気がする。私がこれまでの練習試合で見ている限り、レオ・バイーアは出遅れているし、橋本は違うポジションで起用されているのを見ると、左ウィングバックが定まっていない中で村田を起用することで起用の幅を広げようとした意図もあるのかもしれない。

高橋が加入したことで、1トップは高橋、伊藤、櫻川で回せそうだが、シャドーが手薄になる。小川とカプリーニ、中野とそして伊藤。コンフォンはワールドカップ予選も負傷で離脱し帰国しており全治は伝わってこない。室井も全体合流は3月中旬。プレースタイルを見ている限りでは宮田はシャドーではなくやはりFW。思っているより野戦病院か、それに近い状況で復帰した選手への信頼性が高くなっていないのではないか。

そういう中で、ここ数戦キレのある動きをしていた村田にウィングバックとしての白羽の矢を立てたのなら、結果はともかく理解はできる。ただ、求めていた結果が想定通り手に入らないのがサッカーである。引き出しも増えて、相手を圧倒して勝てば官軍だが、失点に絡んでしまい方向転換するか我慢するか。それこそが監督の采配の見せ所でもあると思う。

「白羽の矢を立てる」は本来は、犠牲者を選ぶ意で使われていた。村田が失点に絡んでしまったのは残念ではあるが、この痛みで彼が成長してさらに大きくなることを祈るし、初めての実験的な采配が次に生かされることを期待する。引き分けで勝ち点1を得るに留まったのは反省点だが、幸いJ2は毎年恒例の団子状態。この試合を犠牲にした結果、上にいけるのであれば何も言わない。勝てた試合を落としたと思える時もあるが、その逆もまた然り。次からはシーズンのいわば第2クールが始まるといえる(9+10+9+10=38試合)。そこにどう生かされていくのかしっかりと見ていきたい。

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