2023年J1第13節柏レイソル-横浜FC「太陽王と青白革命」
浦和とガンバ大阪の試合を見ていた。ガンバ敗戦。これにより横浜は最下位を脱出することになった。ガンバは浦和戦ではボールを保持するのも難しく、支配率でも負け、試合でも敗戦。ガンバの試合を見て、ああ自分たちもこんな風に失点したよなと一種の懐古をしていた。強化の仕方はクラブによって異なるので、結果が出ないから解任、休養として監督を交代させるのが正しいかといえばまたこれも難しい。つなぐサッカーが一種神格化されているが、一時期バルサ化を目指した神戸がその象徴であるイニエスタを起用せず、脱バルサ化としてカウンターからの速攻を志向してから今年結果が出ているのは皮肉である。
ズッ友か盟友か
日立台に向かうのは実に4年ぶりのこととなった。久しぶりに感じてしまうのは、横浜が昨年J2にいたからというだけではないだろう。2021年は瀬古(現川崎)の退場やドロップボールの距離近すぎたのではないか論争があったり、2020年は再開直後で斉藤光毅(現スパルタ・ロッテルダム)が先制点を決めて勝利したゲームだったりと何かと記憶に残る日立台でのゲームは、コロナ禍の影響によりJ1にいた2年間は少なくともアウェイゴール裏のチケットは発売されず、待望の日立台でもあった。
2019シーズンといえば横浜と柏はJ1に昇格したシーズンでもある。考えてみると横浜の過去3度のJ1昇格のうち2回は柏との同時昇格。柏側から見ても、過去3シーズンしか所属していないJ2リーグのうち2回横浜と昇格するのは、J2でのズッ友だろうか。あるいは盟友なのだろうか。共同戦線を張った訳ではないが柏がJ2にいるということは、横浜の昇格の可能性が高まるシーズンになっていたかもしれない。
しかしそれはJ2での話。今年はJ1からの降格枠は1しかなく、一緒に残留することはできても、残念ながら一緒に降格することはできない。最下位の横浜にとっては、J2での盟友と残留争いをするのは辛いが横浜は柏を押しのけて残留しなければならない。
今節は、Jリーグ30周年のイベントでFC東京と川崎、鹿島と名古屋が国立でゲームを行ったり、比較的ダービーと呼ばれる試合が組まれリーグとしても盛り上げようとしていた。Jリーグ創設当時どちらもJリーグに所属していなかった横浜と柏の試合は、何の関係もなさそうではあるが、実は柏レイソルがJリーグに加盟して、初めてのホームゲームは横浜フリューゲルスだった。リーグもそのあたりを考慮してのマッチメイクなのだろう。ご縁がこんなところにも。
湿る太陽王
今年何度目の雨の試合だろう。先週の神戸もスタジアムは屋根で覆われていたとは言え、外は大粒の雨。柏レイソルは、スペイン語でレイ(王)とソル(太陽)を合わせた造語で意味としては太陽王であるのだが、その太陽王の威光は見る影もなく、空からはパラパラと雨は降り続く。
試合は前半から互角のペース。決定機は柏の方が多いが、横浜もマイボールになった時に小川航へのパスを収めさせてくれるので、チャンスが生まれやすかった。また、前節負傷で退いた小川慶のポジションには伊藤翔を起用。小川慶ほどスピードはないが、ボールをキープして前を向く、ライン間でボールを受けるなど状況判断に優れておりボールを握ろうとする柏との相性は悪くないはず。
堅守速攻、ロングボールが好きなチームだとスライドしながらその対応を求められるのでシャドーの選手も足の速い選手が求められるが、横浜がカウンター仕様にチームを変えると柏のボール回しがゆっくりに見える。4枚のディフェンダーに横浜の前線3人で制限をかけると柏としても中々攻撃が嵌らない。
ただ、横浜は右サイドを何度も突破されてピンチを迎える。岩武の対応が甘く柏・小屋松とのマッチアップで後手を踏んでしまった。ここを起点にマテウス・サヴィオからの展開で何度もピンチを迎えた。彼の放つシュートをGKブローダーセンが弾き、その跳ね返りを押し込まれても吉野やボニフェイスが体を投げ出して食い止める。第13節にして、勝ち点計算したサッカーではなく死力を尽くした戦いを目の当たりにする。特に柏は前半だけで10本以上のシュートを放っていたようだ。
横浜も井上や林がシュートをするも、柏のゴールを脅かすまでには至らない。左サイドは、山下の突破はあるが林との良いコンビネーションでの突破は少ない。横浜は前半だけで3枚ものイエローカードをもらいその段階で累積警告によりユーリララ、小川航の次節欠場が確定。そうなるとこのゲームは否が応でも勝たないといけなくなっていく。
不格好だけれども
後半も前半に近い展開が続いたが、後半24分に山下が前線に持ち上がると追い越していく林にパスを送る。林は中央へのクロスをあげたところで、柏DF片山の腕に当たり、横浜はPKを獲得。これを小川航が決めてゲームが動き出す。前半、林から山下へのボールは幾度もあったが、その逆は少なかった。この形が生まれると、山下が相手のサイドバックと対峙した時にさらに大外で林がフリーになれる。
横浜は運動量が落ちてきた右サイドをテコ入れにかかり、坂本と山根を入れる。柏は巨漢FWフロートをいれて前線へ。後半34分は両チームとも2選手を交代する采配で、横浜は前線にサウロをおいてカウンター主体にして逃げ切りに、柏は山田と武藤をいれてアタッキングサードを支配してゴールを目指した。
横浜としてはこれは好都合。マテウス・サヴィオが低い位置に下がり、FW細谷はベンチに退いた。ターゲットはフロートだけ。ここでボニフェイスが身体を張ってフロートへのボールを跳ね返した。後半怖かったシーンは、マテウス・サヴィオのポストを叩いたミドルシュートと左のサイドネットの外側に当てたミドルシュートくらいで、ほとんどのシュートは放たれても枠をとらえきれないものばかり。マテウス・サヴィオは使われてこそ輝ける選手だと思うが、山根のカウンターを見てその対策として彼の位置を下げたのだとしたら横浜にはよい風が吹いている。
アディショナルタイム5分が経過して、坂本が大きくボールを外に蹴りだしてタイムアップを迎えた。今季2勝目。0-1での逃げ切りとなった。内容的には守りきれたことだけで、終盤は押し込まれる一方でカウンターの先鋒として起用したサウロすら守備に回る羽目になったのは誤算だった。
横浜はPKの虎の子の1点で逃げ切りを図り、柏は打てども打てども枠をとらえ切れず空砲に終わるお粗末にもレベルの高い試合とは言えなかった。横浜はPK以外の見せ場も少なく、後半の終盤は受けに回ってしまった。この相手だから助かっていたのかもしれない。
それでもだ。外野にJ2レベルだろうと何言われても勝たなければ残れない。不格好かどうか関係ない。
美しいサッカーだけど勝ち点0と不格好だけど勝ち点3なら私は後者を選ぶ。勝利こそ最良の薬である。振り返ってみるとここ3試合で2勝している。それで前向きになる方が良い。
競技場の誓い
歴史を知っていると、太陽王といえばレイソルではなくブルボン王朝のルイ14世がすぐに頭に浮かんだはず。ブルボン王朝の最盛期を迎え、そして70年を超える在位を誇った王。しかし、その彼も戦争のし過ぎで国家財政を逼迫させ、彼の死後2代でブルボン王朝は倒れその終焉を迎えた。ブルボン王朝はフランス革命によって倒れたのだ。
横浜が掲げる青と白の革命。それは太陽王を脅かした。試合後「ここで勝たないでどこで勝つ?」なんて声も柏側から聞こえてきた。確かにそうかも知れない。最下位が相手ならさぞかしボーナスステージ気分だったろう。だが、そうやって見下しているうちに勝ち点はスルリと抜けていくのだ。
見下していた民衆という存在がいつの間にか集まって力を貯めて、それが一気に爆発する。まさしく革命である。フランス革命は、バスティーユ監獄の襲撃から始まったとされるが、その前には妨害にあっても国民会議を解散しないと球戯場の誓いを宣言し革命を続けていく意思を示した。
まさしく日立台で高らかに響いた青と白の革命はまさに競技場の誓い。青き民衆は待ち望んでいるのだ。最下位からの逆襲を。青と白の革命を。
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