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E23:なぜに、その試練を我に? その1

小さい頃は、自分が「ケーキ大好き人間」だという自覚がなかった。
それは、母親の方針でもある。ケーキは特別な時に食べるもの、という「暗黙のルール」が我が家には存在したからだ。

大阪環状線の駅前に、今もある老舗の洋菓子店。
そこの黄色い包装紙を見ると、その日が「特別な日」であることを自覚して、僕たち兄弟は手を取り合って喜んだ。でもそれは、ケーキが嬉しいと言うよりも、今日は特別な日であることを実感した「はしゃいだ気持ち」だったと思う。
だから、おやつに「ケーキ」が出てくる家=お金持ち、という認識が、
なんとなく僕にはあった。

母親は勝手に「うちのお兄ちゃん(=僕)は、甘いものを積極的に食べないから」なんて周りに話していたし、
駄菓子屋さんで1番好きなものは? と聞かれたら迷いなく「カレーせんべい」と答えていたから、とり立てて「ケーキ大好き〜!」という子どもではなかった気がする。


状況が一変したのは、一人暮らしを始めてから。

ある夜、急にはっきり目が覚めた。
時計を見ると深夜2時。
何かイライラする。はて、このイライラはなんだろうと、しばし考えた。
次の瞬間、がばっと起き上がると、着替えもそこそこに僕はアパートを飛び出した…。
サンダル履きで小走り3分。バイト先のコンビニに着いた。

「どうした? 源ちゃん」
夜中、突然駆け込んできた僕を見て、目を丸くするバイト仲間。
「うっす!」
挨拶もそこそこに、ある売り場に一直線。
商品をつかんでレジまで行くと、バイト仲間がまじまじと僕の顔を見つめる。その時の彼の表情と会話を、今もはっきり覚えている。

「どうしたん? 酔ってる?」
「しらふやで」
「なんで?」
「なんでって、…なんや無性にこれ食べたかってん」
「でもお前な、夜中の2時やで。」
「そやで、変…かなぁ?」
「夜中に走ってくるから何事かと思うやん?
 で、『まるごとバナナ』て、お前…」

僕の切羽詰まった顔と、「まるごとバナナ」を交互に見て、彼は笑い転げた…。
(そんなに変な事した…?)
当時20歳。

その後上京して、文学部に入ったから、周りは女の子だらけ。
「源ちゃん、大きいパフェ食べに行くけど、どう?」
「行く!」

彼女たちの素晴らしい情報網をもとに、美味しいスイーツの店をハシゴする「スイーツ男子」になるまで、そんなに時間はかからなかった。
甘い幸せに、しっかり浸かった。

僕の記事に「スキ」を入れてくださった方ならご存知かと思うが、写真は甘いものでいっぱいだ。


ただし…。


実は、小さい頃から少しだけ心に引っかかっていたことがある。
僕は、その材料を特定はできないものの、「ある種のクリーム」を食べると口の中が、「微妙にくすぐったい」のである。でも、それ以上においしさが勝るので、今まで気にしないように生きてきた。

母親や、ツレにも、時々話すけれど、
「この生クリームを口に入れると、こちょばい(=関西弁でくすぐったいの意味)んよね〜」
と言っても
「変なの〜」と笑われて終わりだった。

親族以外の人にも時々この話をするけど、誰にも賛同を得られないまま、何十年もの時が経った。

僕はものを考える時、時々インターネット検索して、「今自分が考えていること」と、同じことを考えている人が世界にどれくらいいるのだろうか、と思って調べることがある。自分の考え方が世間とズレていないこと確認して、それで安心するためだ。

その日、
暇だった僕は、なんの気なしにググった。
「クリーム ケーキ くすぐったい」

Yahoo知恵袋がいくつかヒットした。
なんだ、けっこういるじゃないか。

…ん?

はい?



「乳アレルギー…」
「窒息することもあり…」
「最悪の場合……に至ります」


(万一、僕と同じ症状の方がいらっしゃいましたら、笑い事ではありません。くれぐれもお気をつけくださいませ。僕も以後、慎重に食します)





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