見出し画像

E97: 「焼け野原」みたいな教室で3

今日は12日目です

「ほどほど」に憧れたことがある。

ほどほどに手を抜き、ほどほどの成績を取り、
ほどほどに遊び、ほどほどに付き合い、
ほどほどの結果を得る…

ほどほどに手を抜いているから
褒められることもないかわりに
怒られもせず…

でも
僕はそういうことができない。
やるまでは、いろいろ悩んでしまうが
一度決めたらとことんまでやってしまう。

たとえそれが
「授業中に寝ること」だとしても…


これまでにも授業中にうとうとする事はあった。
でも今回は「寝ようと決めた」のである。



よし、決めた、寝る

そう決めて、とことんそれを実行した。
その結果

国語で初めて赤点を取った。

…コイツ、阿呆である。
まだ最終成績ではなかったのが救いであった。



あれは、自分で先生のところに行ったのか、
それとも名指しで呼ばれたのか、
もう細かい事は忘れてしまったが、

とにかく、ある日
なぜか僕は中村先生(仮名)と1対1で話をすることになった。
さすがに授業完全無視でぐぅぐぅ寝ていたら、
そして、その結果が「見事な赤点」だったら、
そりゃ怒られるだろう…



二人っきりになると
先生はこちらの言葉を待っているような感じがした。
沈黙に耐えられず、僕は先に口を開いた。

源「あ。あの…僕の点数…」
先「うん、まあ。悲惨だったね」
源「…すみません」
先「いや、謝らなくてもいい」


ある程度、怒られる事は覚悟した。
自分が悪いのだから。

でも、表面上は反省の言葉を口にしながら、
心の中では生意気にもこんなことを思っていた。

さぁ、怒ればいいさ。
ただし、説教は短めにしてね。 
あんまりガミガミ言われたら、【授業つまんねぇし】くらいのことは言ってやろう…

ひどい生徒である。中学以来の教師不信は、この高校に来て徐々に和らいていたが、やっぱり根強いものがあった。


僕は、適当に、短時間で
その場をやり過ごすことだけを考えていた。
高圧的な説教ほど不快なものはない。

ところが…先生のトーンはまるで違った。


先「私は、君のいつもの答案が見たかったな」
源「……は、はい?」
先「心配してたんや」
源「心配?」
先「最近、体調は大丈夫なの?」
源「はぁ…」
先「君は最近、ずっと寝ている」
源「…はい」
先「体の不調を抱えているのかと思って心配してたんや。調子悪いんやろ?」
源「……最近、よくお腹を壊します。力が入らないことがあります」
先「そうか、それは大事にせなアカンな」

腹の調子が悪いのは事実である。
ただ、それが今回の理由でない事は、自分がよくわかっていた。この流れでは、こう言うしかなかった。


(はぁー…ベテランて、こういう叱り方をするのか!)

自分が叱られる立場でありながら、妙に感心してしまった。

こうやって生徒をやる気にさせるのか…。

1人で感心していたら、
最後に先生はこうおっしゃった。

「まぁ頑張ってくれよ。君の答案は、なんだか面白い」 

…え?


解答にウケを狙っていたわけでもなく
面白いことを書いたわけでもなく
さりとて
特段成績が良いわけでもなく
ただ、窓の外ばかり見ていた生徒である。

しかし、思い返せば
よく目は合った。

当時は、聞くタイミングを逃したが
今になって、noteを書くようになって、
「社会人」になって…

前のめりに、じっくり聞いてみたいのである。

「先生、私の答案って、いったい何が面白かったんですか?」


あと先生、「…いろいろと…ごめんなさい」


数年後、教育実習で戻ったのに
先生は、嘱託で残っていたのに

満面の笑みで迎えてくれた先生を前に
僕は何も言えなかった…。

どうしようもない男である…。

読んでいただき、ありがとうございました。
【66日の12日目】

この記事が参加している募集

忘れられない先生

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?