見出し画像

超ハードルを上げて読書してみた(原宏一「床下仙人」)

この本を手に取ったきっかけ

帯です。

「これを『面白くない。』というならば、もうおすすめする本はありません!」という強気な推薦文。そして、それに対する道重さゆみちゃん(個人的に大好き💛)のそれでも「無事に面白かったー!!」という言葉に惹かれ、それなら読んでみようと手に取りました。

超ハードル上がってるけど大丈夫だろうな?!とドキドキしつつ。

内容

「家の中に変な男が棲んでるのよ!」念願のマイホームに入居して早々、妻が訴えた。そんなバカな。仕事、仕事でほとんど家にいないおれにあてつけるとは!そんなある夜、洗面所で歯を磨いている男を見た。さらに、妻と子がその男と談笑している一家団欒のような光景を!注目の異才が現代ニッポンを風刺とユーモアを交えて看破する、“とんでも新奇想”小説。(「BOOK」データベースより)

という表題作含め全5篇の短編集です。手を出しやすいですね。

順番に感想書いていきます。「個人的に好き」ランキングも添えて。

オチ以外はネタバレありなので、これから読む方は上の目次から「最後に」に飛んでもらったほうが良いかと。この本はまっさらな状態で読むことをお勧めします。

床下仙人

個人的に5篇中第4位なんですが、平均点が高いだけで、この話もすごく好きです。最初に読めてよかった。この本全体に漂う緩い空気とか、オチのひねった感じとか、一番「らしさ」が出ているのがこの話かなと。この話こそ、この本の自己紹介代わりというか。これが合わない人は全編通して合わないと思いますし、これハマる人はこのまま読み進めて良いですよ~というリトマス試験紙的役割。

全体的にですが、2001年初版なので会社の描写が古いですね。働き方改革前の、奥さんが一人で家庭守るのが当たり前の時代。上司の怒るポイントとかも極端ですし、まあフィクションなのでエンタメとしては気になりません。

途中からオチが読めましたが、オチて欲しいところに落ち着いた感じ。

てんぷら社員

田所さんのキャラが、藤子・A・不二雄の「ブラックユーモア短編集」とか「笑ゥせぇるすまん」に出てきそうで、完全に好みなので第2位!

「てんぷら社員」というネーミングと、スカッとするオチが好き。でも最後の会話はちょっとクサイかなあ。

気が強くて美人ではないのに男好きする顔の京子とか(いるよねこういう人)、他の登場人物も魅力的でした。イヤミっぽい白井課長は「床下仙人」の「課長」と同一人物なのか?気になるけれど読み返すほどではない。笑

戦争管理組合

個人的に第5位。よくわからなかった。ただ終わり方はちょっと好き。

派遣社長

始まり方が興味を引くし終わり方もすっきりしています。そして起承転結がきれいで、考えさせられるテーマだったので個人的第1位。登場人物も魅力的。倉垣かわいいよ倉垣。

倉垣のやり方を見ていて思ったのですが、作者はアイデアマンタイプですよね。突拍子がないので実社会で有用なアイデアマンかは不明ですが、新しいビジネスとか解決策を考えるのが好きな方なのかな。社会人経験はあるのでしょうか。気になるところです。

「派遣社員はあるのになぜ派遣社長はないのか」というワードとか、劇中後半の展開(社長も社員も派遣で正社員がほぼいない「派遣尽くし会社」が乱立する)とかについては、ふと読み進める手を止めて考え込んでしまいました。2001年の小説なのに発想が新しすぎる。

とはいえまだまだ正社員強しの時代ですし、派遣社員が優遇されるような「派遣尽くし会社」の時代は遠い未来のことでしょうね。とはいえベンチャー企業を中心に実力主義の会社や個人のスキル・市場価値を高めようという価値観も広まってきているので、ひょっとしたらひょっとするかも…?

シューシャイン・ギャング

個人的同率2位。展開はまさにお手本のような起承転結ですし、オチもまあそうなるよなあといったところ(それはそれで心地良いというのはありますが)で、展開は断然「床下仙人」のほうがひねっているのですが、前述したような作者のアイデアマンっぷりがよく出ていて、そこに感動したので。

「半ば無理やり道行く人の靴磨きをして付加価値を付けたらどうだろう?」「ビジネスとして成立しないかな?」って並の発想じゃないと思います。素晴らしい。そして、二番煎じの劣化版が出てくるくだりも面白かったです。実際、新しいビジネスが注目を浴びるとそういう輩が出るらしいですから、その通りなんですよね。

「シューシャイン・ギャング」が発生するくだり、彼らの持つ布切れの汚れ具合がステータスとかいう小ネタ、そして「ナンパ系」が発生するくだりなんかもう最高です。

最後に

調べたらロングセラーの小説のようですが、まだ読んでいない方にはめちゃくちゃおすすめです。面白いし読みやすいし普段本読まないよ~って方にも薦めたいですが、特に

・藤子・A・不二雄「ブラックユーモア短編集」、「笑ゥせぇるすまん」

・世にも奇妙な物語

が好きな人はハマりそうです。あと無限ループものが好きな人。

正直、人並み程度に読書が好きな人であれば予想できる展開もありますが、ベタなのが気持ち良いときってありますし、ゆるくて変な登場人物たち、哀愁漂う社会風刺、そして2000年代前半の描写のノスタルジックさだけで読む価値あります。あと、突拍子はないけれどつい考えさせられてしまう作者のアイデアマンっぷりとユーモアのセンス。

読んでいるとき、海野つなみさん原作の「逃げ恥」を思い出しました(みんな高校生のうちに出産したら良いんじゃない?とか、結構すごいアイデアがちりばめられた漫画でしたよね)。

それはたぶん、作者が海野さん同様、世の中のいろんなことにアンテナを張っていて、ユニークな発想でそれの解決策を考えるのが好きな方なのかな~なんて思ったからだと思います。

作者の他の作品もぜひ読んでみたいです。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?