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[pH1]なんでハードサイダーなん?

アメリカのりんごの発泡酒であるハードサイダーを秋田でつくっております、阿部です。今号は私たちがハードサイダーをつくるに至った経緯のお話をば。

この数年、ハードサイダーはシードルではない!なんならノンアルではない!と叫んで参りました。りんごの発泡酒、というとやっぱり甘―いイメージがついてまわる、「ハード」とつくと強炭酸か強アルコールなのかな、と思ってしまう。まあややこしい、謎に包まれたこのハードサイダーを布教し続けてきたのは、とにかくこの自由なお酒の魅力と可能性に私たちがどっぷりハマってしまっているからです。

はじまりは、横手の果実沼

そもそも私は、ビールが一番好きです(どん!)。地元横手市でホップ栽培が盛んということを知ってからは、いつかこのホップでクラフトビールを作るぞ!と思っていました。Hostel & Bar CAMOSIBA(※1)という場所を作り、高校まで過ごした秋田のこと、全然知らなかったことに気づくわけですが、その中の一つが横手の果樹栽培の豊かさでした。“りんご”といったら“ふじ”一辺倒だった私に、近所の酔いどれ農家たちは沢山の品種名と共に知らなかった美味しさを夜な夜な持ち込んでくれました。それはりんごだけでなく、さくらんぼ、桃など多岐に渡ります。

そうして知られざる横手の果実沼に踏み込んでしまった私、でもビールへの愛は捨てきれず、絶対美味いフルーツビールも作るぞ!というところに一旦落ち着きました。ただ当時IPA狂いだった私は正直フルーツビールにテンション上がらずで、だったらシードルか?とシードルを集めまくっていた時期もあったり。でもなんかしっくりこない。その頃醸造業に乗り込むぞ!とジョインしてくれた松橋と共に唸る日々でした。

そもそもなぜこのタイミングで酒を作ろうと思ったかというと、CAMOSIBAを始めて1年経つか経たないか、の時点で私が目標としていた景色が見れちゃったんです、贅沢にも。ありがたいことに私の周りの環境は想像以上に真新しいものへの順応性が高く好奇心旺盛な方々ばかりで、地元の人と旅人が交わる空間を目指して、と思っていたけど、あれ、これもうこれじゃん。みたいな。この環境のポテンシャルを見誤っていたわけですね、本当失礼しました。つまりまだまだここで出来ること、沢山あるなーと、もっともっと面白くなるなーとこの時教えてもらいました。この気づきは最近ようやくのことなんですけど、今思うと、ひっそりこの時スイッチ押してもらってたなあと思います。

シードル?サイダー?ハードサイダー?

さてそんな頃、ぼーっと眺めてた海外のシードルのインスタアカウントの投稿で、ホップのイラストのボトル。そして“Hopped Apple”の文字。りんごとホップを使ったシードル?サイダー?ハードサイダー?という飲み物がこの世にあることを知ってしまい、さあ大変。アメリカのクラフトビールはもちろん大好きでよく飲んでましたが、ハードサイダーにまでは辿り着けていなかった。

それから数日後、近くのスーパーのクラフトビールコーナーに目をやると、あるではないかハードサイダーが!なんで今まで気づかなかったんだろう(むしろなんであったんだろう、奇跡、感謝。)!それが私たちとアメリカ・ポートランドのサイダリー「Reverend Nat’s(※2)」との出会い。彼らのRevivalというフラッグシップを飲んだ瞬間、2人で顔を見合わせて “あぁこれだ”となりました。

そこからの動きは早いもんで、たまたま数ヶ月後、そのファウンダーであるNatさんがイベントで来日すると見かけるや東京へ会いに行き(ここでサノバスミス(※3)の兄さんたち達にも初対面)、ポートランド来なよ!と言われて1ヶ月後にはポートランドに飛んでいました。

ポートランドで見つけたもの

個人的憧れの街の筆頭だったポートランド。街中にあるブルワリーやタップルームは言わずもがな、ファーマーズマーケット、ビンテージショップ、友人の庭で食べたハンバーガー。抜群の気候の中、ただひたすらに気持ち良い一週間をそこで過ごしました。

古きも新しきも、様々な時代とカルチャーが互いに生かし合い、混じり合う環境で息づくハードサイダーというものに改めて魅了されました。ポートランドのハードサイダーは、とにかく自由で、一見りんごと合うのか?と思うようなものまで、想像をはるかに超える数のフレーバーがあり、その懐の深さに毎日朝から晩まで圧倒されて帰国。

これこそが、原動力

こんな感じで息つく間も無く繋がりを辿り、私たちが目指すべきはこれだ、と確信できたこの時期があったからこその今です。クラフトビールが愛される場所で肩を並べるハードサイダー。少しずつクラフトビールのブルワリーが増え続けている日本でもきっと同様のシーンが広がると感じたし、りんごが身近な我々だからこそ、この未知なる美味しさを楽しめるだろうな、と。そして何よりこの心地よい日常ごと、持って帰りたいと思ったのが大きいです。だから私たちは自分たちの暮らす町に醸造所を構えたい。ただの工場としての機能を超えてそこで沢山の美味しいもの(人、空間含め)との出会いのきっかけを生み出したい。“住む人も訪れる人もみんな混ざって笑顔になれる場所をつくる。”これこそが最大のモチベーションであり、この混沌の数年間を生きた原動力です。

終わりが見えない移動制限、隣国の戦火、そして先日の地震。当たり前ってびっくりするほど一瞬で無くなってしまうものなのだと思わずにはいられない時間が続きますね。守りたいと思える日常がここにあることにちゃんと感謝して、その日常を彩ってくれる人々に還元できるように。誰かを想う乾杯を担うお酒をつくっていきたいです。つくります。

2019年に醸造所予定地となる物件に初めて足を踏み入れてから3年、2022年春、ようやく我らのサイダリー、着工できそうです。OK,ADAMの冒険は、まだまだこれから。

(※1)Hostel & Bar CAMOSIBA
阿部が2017年に地元横手市で開業したゲストハウス兼バー。http://camosiba.com/

(※2)Reverend Nat's
ポートランドを代表するサイダリーで、日本国内でも多くのファンを持つ。http://reverendnatshardcider.com/

(※3)サノバスミス
長野県にあるサイダリー。ハードサイダーを日本国内に広げたパイオニア。
http://www.hardcider.jp/


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