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梅雨という「季節」

 この原稿を書いている六月中旬は、暦では立夏を一カ月以上過ぎて夏も盛りだが、世間では今の季節は何かと問うと、梅雨という答えが多い。民間気象情報会社の「梅雨の季節感調査」によると、九十七%の人が梅雨は「季節の一つ」と思っているとの結果がある。春と夏の間に梅雨という季節を置いているのが社会通念のようだ。テレビの気象情報でもこの季節、「夏が待ち遠しいですね」などとアナウンサーが言っている。
 梅雨はこれだけ季節の一つに定着しているようだが、どういう訳だか「春梅雨夏秋冬」「五季折々」などという言い方は寡聞にして知らない。この梅雨に関する日本人の季節感をどう説明すればよいのだろうか。
 季節の分け方は、気象学的なものと、暦によるもの、そして社会通念で異なっている。
 気象学的には、「春季」「夏季」「秋季」「冬季」に加えて、梅雨前線が停滞して雨天が続く「梅雨季」、そして夏季と秋季の間に秋雨前線によって雨天が多い「秋霖季」を加えた六季に分けられている。
 太陽暦での春夏秋冬は、大雑把にいえば太陽の運行をもとに夏至と冬至を定めて春夏秋冬を四つに分けているものだから、梅雨は含まれていない。「暦の上では夏」という言い方は、現在の太陽暦に基づいた二十四節気の立夏を過ぎている、ということを言っている。ただ、雑節の中に六月十日頃を入梅としている。暦では、梅雨は季節としてみなされていないが、彼岸や土用と同じく年中行事として確たる地位を占めている。
 一方、社会通念上の梅雨は、始まりと終わりを気象庁が発表してくれる特殊な「季節」である。けれども、「梅雨明け」の発表で夏の始まりはわかるが、秋、冬、春はいつからなのか明確な基準がない。他の季節は、「夏になったから暑くなる」のではなく「暑くなったら夏」というように、気温でのみ季節を分類しているようなので、暑さが過ぎて寒くなるまでの間が秋で、その逆が春という具合である。だから、夏はいつからか、となると梅雨が明けたらとわかるが、ほかの季節の境目ははっきりとは誰も言えなくなっている。
 梅雨という「季節」は、気象学的には明らかであり、暦の上でも社会通念でも認められてはいるが、その定義が太陽暦に基づくものではなく、また、気温の高低によるものでもない。だから、どちらにおいてもいつまでも一人前の「季節」の仲間に入れてもらえないでいる。「季節の一つ」と認識されていながら「五季」と呼んでもらえないのもそのあたりに訳がありそうだ。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』2013年8月号)

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