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よき正月を過ぐしてよとや《Can you celebrate?な夜》第11話

 正月中、隣人は外泊していたので、静かな夜を過ごすことが出来た。
正月が終わると隣人は戻ってきた。男性が、その場で駆け足という感じで
足を踏み鳴らすという行動をよく取るようになった。正月に何かよい出来事
でもあったのだろうか。私の部屋からは遠い側のエリアだったので、私に
とってはうるさくはなかったが、下の階は堪らないだろうなと思った。

 この建物は構造上、キッチンの換気扇から出る排気が換気口から逆流しや
すい。それで、隣室に近い側の上部換気口は常に『閉』にしていた。換気口
をすべて閉じるわけにもいかないから、隣室から離れたところにある換気口
は開けていた。
 隣室はニンニクか、ガーリックパウダーをふんだんに料理に使うようだった。それから、炒め物系が多いようで、油の匂いもよくした。匂いがキツイものは、侵入してくる気体が僅かであってもよく匂うのだ。どちらかというとコッテリ・クドイ系の匂いがよく侵入してきた。そんなものを夜遅くに食べるから、なかなか眠くならなくなって、騒いでしまうのではないかとよく思っていた。
 それから、チキンライス系の匂いもよくした。それがオムライスに発展 するのかどうかまでは分からなかったが。まあ、そんなことはどうでもいい。

 そして土曜日がやって来た。午後11時半過ぎから隣室がザワザワし始めた。何か良くないことが起こりそうな、悪い予感がした。ニンニクとニラを炒めているような匂いがしてきた。それに何か強烈なものがプラスされていた。もしかして、『マカ』?。たとえ騒がなかったとしても、匂いだけで 覚醒してしまっていただろう。南側の換気口はすべて閉じた。代わりに寒い冬の間は閉じている、北の部屋の換気口を開けた。すべてが閉じた状態だと具合が悪い。しかし、匂いが強烈なので、窓の隙間などから侵入してくるようだ。
 午前0時を過ぎて宴が始まった。音量の方は、『ごくたまに』ウルサイのであれば、ギリギリ許容範囲かなという感じだった。なにせ、頻度が高過ぎるから。                                    強烈な匂いと音とで、すっかり目が覚めてしまった。寝床の中で考えた。これまでは、隣人達のことを『DINKS~』と感じで、遊びまわりたい、騒ぎまくりたい人達なんだと思っていたが、もしかして『赤ちゃん』を望んでいるのだろうか。
 そして、午前2時半を過ぎた頃、突然ボリュームが上がった。なにやら    盛り上がり始めた。私は寝床から起きてパソコンを立ち上げた。パソコン類は隣室との境側の壁に並んでいる。私がキーボードをカチャカチャやっていると、隣人たちはその音に気づいて、ボリュームを下げ、どこか壁から遠い
場所に移動した。ちなみに使っているキーボードは、どちらかというと
カチャカチャ音が小さい方だと思うが、壁に防音効果はないし、夜中だし。
でも『enter』を叩く時は若干大きな音がするか。
 管理会社への文面には、
『朝は遅めの出勤とはいえ、夜遅くまで騒いだりすると生活のリズムが乱れ、仕事にも支障が出るのではないでしょうか。』
との一文を付け加えた。
 さすがに、
『妊活には早寝早起きの規則正しい生活がよろしいのでは?』
などと書くわけにはいかなかった。

※難波潟 短き葦の 節の間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや           作者 伊勢 (姫)第十九番



 


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