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水【連載インタビュー】『本の話をしよう。#1』by和田賢征さん


みなさん、お久しぶりです。

新年明けましておめでとうございます!

昨年は、たくさんの方にご協力をいただき、この「水」をスタートすることができました。本当にありがとうございました。

今年は、より多くの方とのインタビューを通して、それぞれに異なる日常や物事へのまなざしに触れながら、それらをより楽しく皆さんのもとに届けられたらと思っています。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!

さて、この度「水」では、新しく「連載企画」を始めようと思います。

一つ目の企画は、『本の話をしよう。』

初回のゲストは、和田賢征(わだ けんせい)さんです。

筆者の通う大学の先輩で、最初に”本好きの人”で思い浮かんだ人。

冊数もジャンルも絞らずに、ただ「好きな本を持ってきてください」とだけお伝えし始まったインタビュー。
和田さんは、いったいどんな本と来てくれたのでしょうか……?


さぁ、一緒に会いにいこう!

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______本はお好きですか?(唐突に)

(笑)。そうですねぇ。好きですかね。


______いつごろから?

もう小学生の時には好きでしたね

図書室の本はあまり読まなくて、兄が一人いるんですけど、兄の本棚の本を読むようになったのがきっかけです。


______私も姉の本棚が最初でした。

あ、そうなんですね!


______ではさっそく、持ってきてくださった本をご紹介ください!

はい(笑)。だいぶ迷ったけど、(本を並べて)この4冊です。


______いろんな種類の本ですね。気になるチョイスです!それでは一冊ずつ、ご自由にお話ください。

最初に紹介するのは、江國香織(えくに かおり)さんの『泳ぐのに安全でも適切でもありません』という短編集です。

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これを買ったのは、もうだいぶ前で四年くらい前かな。だいぶボロボロになっちゃうくらい何回も読んでいて。大体の内容はわかってるから読み直す必要が無いっちゃ無いんですけど、でも、なんかたまに本棚から取り出して読みたくなっちゃう。…というより、手にしたくなっちゃう。

どこかに出掛ける時とか、特に知らない場所、初めていく場所、ちょっと緊張することとかがある時に、バックにこの本を入れて電車とかで読んでいると安心できるような。


______お守りのような?

そうです。お守りみたいな感じです。


______お守り効果は、この本の内容が関係しているのでしょうか。

そうですね、多分、内容が。江國香織さんは、いろんな小説とかエッセイとか書いているけど、これはちょっとこう人生の紆余曲折だったり、悲しい出来事、好きな人と別れたり、そういう切ない話が入ってるんです。他にも、江國さんのハッピーな本もあるけど、それは読んだけど今はもう手放しちゃって。でも、この本だけはいつも持っておきたいなって。でも(なぜお守りになっているのか)それは、僕にはわからない(笑)。この先も手放さないと思うなぁ。


______本を最初に読むときに、「これは自分にとって大切な本になる」と感じたりしますか?

最初に読んだとき、そうだなぁ。最初に読んだときには、まだ自分にとって大切かはわからない。いつも、これ読みたいって手に取るんですけど、一年くらい経ってだんだん本棚から溢れ出ちゃったものはどうしても古本屋さんに持って行ったりするんです。でも、どの本も最初に手に取った時には長い付き合いになるだろうなって(笑)。

この本を初めて読んだ時は、線とか引いたりして(笑)。多分、大事だなって思うところに線を引いてたんですね。だから、2年前とかに引いた線に「お前そんなとこに線引いてんの」ってちょっと驚いたりします(笑)。


______「あとがき」も読まれるのですね。

あとがきとか面白いですね。全部読んでます。


______今度読んでみよう…それでは、お次の本も教えてください。

どれかなぁ、次は。これかな。これは、この中で一番最近に買ったものです。

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______最近のものがランクインですか!珍しい。

ふ(笑)。そうですね。レオス・カラックスという映画監督のインタビュー本です。大学近くの古本屋さんで見つけました。もともとこの人の映画が好きで、これは良いもんみっけ!と買っちゃいました。

この監督は、結構なんかもう映画作りに全部を注いじゃう感じで。映画の中で使われるセット、橋とか街とかを映画のためだけに作っちゃうんですよ。映画のために、街そのものを作っちゃうなんてすごいなって。


______映画は何という作品を観られたんですか?

『汚れた血』とか『ポンヌフの恋人』とか。


______ハッ…ずっと観たかった作品です!

そうなんですね(笑)。岡本さん(筆者)にとっても面白いと思います。これらの作品を結構前に見ていて、かっこいいなぁと思っていて…。この本では、結構なんか不器用な監督みたいで。例えば、ヒロインに応募してくれた女優さんとカフェで配役について喋ろうみたいな(打ち合わせ)があるんだけど、一言も喋らないらしくて(笑)。なんなんこの人みたいな(笑)。

なんか偏屈じゃないけど、ちょっと変わっていて。でも、作る映画はやっぱりすごい!っていうので、おぉ…って惹かれちゃう。

この本に限らず、映画監督の本がすごい好きで。今回どの本をお話ししようかなって本棚を見たら、園子温とか押井守とか他にもたくさん映画監督の自分語りのようなインタビュー本が多くて。そういうの好きだなって改めて。


______作り手の背景や人柄を知りたいという感覚ですかね。

そうですね。映画よりも、そっちの方が面白かったりして。


______私も気になってきました。では、お次も教えてください!

次は……、こっち(笑)。

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______お、「対話集」?

対話集ですね。これは一番パワーが強いというか(笑)。


______パワーですか?(笑)。

だいぶ怪しいというか(笑)。


______怪しい!?(笑)。

怪しくはないか(笑)。タイトルが怪しいっていう(笑)。


______このお二方はどのような関係なのですか?

この二人は、建築家(荒川修作)と作家(小林康夫)で。三鷹にも、荒川さんの建築があって。


______どのような対話なんでしょう?

それが…わからないんですよ(笑)。


______えっ!(笑)。

よくわからない(笑)。

この本を買った経緯は、岐阜に大学の先輩が仕事をしていて去年の春休みごろに遊びに行って。まだコロナとかが忙しくなる前にギリギリに。

で、この建築家の方が山の中にすごいでっかい大人向けのアスレチックみたいなのを作っていてちょっと興味があったんですよこの人に。なので見に行って。

そしたらすごい感激して。その帰りに、そこのショップに寄ってこの本を買いました。


______実際にこの方の作品を見てからこの本に出会ったんですね!

そうです。いやぁ、これがぁ…(笑)。ちょっと現代アートとかのことなんで。小林さんと荒川さんがいろいろ作ったりして、小林さんなりに解釈して荒川さんとお喋りする…。おじさん二人の…。


______二人の対話のなかで面白い場面はありましたか?

よくわからないんですけど、このおじさん二人がすごい熱く語ってるのがわかるんですよ(笑)。なんか対話の熱みたいなのが(笑)。語られている単語とかもすごい難しくて。この本の5%くらいしか僕は読めてないなっていう気がするんです(笑)。

作品を見た後にこの本を買って、帰る前に駅のカフェでちょっと読んだんですけど。何だろう、なんかこう、「すごいおもしろい……。」みたいな(笑)。なんかわからんけど、「すごい」っていう。その、「すごい」ってだけのことで。なんか熱量みたいな。


______そのすごさ…気になります(笑)。対話のテーマがどれも難しそうですね…。

たまにこういう本買っちゃうんですよ(笑)。全然理解できていないんだけど、でも「この本すごい面白い」っていうのがあるんです。


______全然理解できていないけど。

全然理解できてないです。「なんかすごいことが書いてある」っていう感じで(笑)。ちょっと(今回の紹介に)入れておきたいなって。


______そのような本の選び方もあるんですね。

なんかビビッと。「今ここで買わなかったら後悔するぞ」っていうのがあって、もう手に取っちゃいますね。


______私にはあまりない選び方です。

岡本さんはどうやって本を買いますか?


______私は、まず後ろのあらすじですね。そこで私の門を開いたら、つぎに中に入って、最初の三行くらいがダメだったら返します。本に関しては自分にフィットするかが厳しいんです(笑)。

はは(笑)。あ〜、でもわかります。最初の一行、二行、大事ですよね。


______いろんな選び方がありますね。話を戻しますが、この対話集から「荒川さんへの印象」は何か持たれましたか?

荒川さんのテーマは建築なんですけど、人間がもっとこう楽しく生きるためには、「床が平面なのが悪い」とかって言い出すんですよ(笑)。床が真っ平らなのが人間を不幸にしている、ってくらいまで。その荒川さんが作った建築というか、おっきいテーマパークみたいなものなんですけど、山を一つくり抜いて、わざと歩きづらい場所だったり迷路を作ったりして。その中で人間が本来持っていた身体感覚を取り戻していく。

そのコンセプトもすごい好きですし、荒川さんのDVDとか見たんですけど、すごいなんかいつも怒ってるんですよ、喋り方が(笑)。熱量がすごくって(笑)。で、聞いてる人もびっくりして、わぁ…こわいってなっちゃうんですけど(笑)。でも、それくらいの「熱量を持ってバシッと言える」ってすごいかっこいいなって思いますね。


______信念がある方はかっこいいですよね。でも怒ってる(笑)。

なんか怒ってるんですよね(笑)。


______これまた気になります。では、最後の本をご紹介ください。

もうそっか、最後。こんな感じで大丈夫ですか?(笑)。最後は、これもどちらかというと、最近かな。

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飴屋法水(あめや のりみず)さんという演劇をやられている方なんですけど、その人に娘が生まれて、娘との対話みたいな話ですね。これは、amazonで買いました。


______amazonでご購入されたということは、この方をご存知で検索されて?

あ、そうですね。どうやって知ったっけな。あっ、そうだ。もともとこの人の書いた演劇の戯曲(ぎきょく)、演劇の台本みたいな本があって、それがすごい面白くて。それで、この人の本もっかい読みたいなと思って。


______へぇ!すごい。深掘りしてしまいますが、この方の戯曲との出会いは?

それは、たまたま武蔵小金井のくまざわ書店で見つけて。この人の本、他に何書いてるのかなって感じで。


______面白いですね。和田さんは、その筆者の「お仕事」から「プライベート」に興味を持たれることが多いんですね。

は〜〜〜〜〜…そう、そっか(笑)。あっ確かに、そう言われればそんな感じですね。……確かに(笑)。


______この本は、「日記」でしょうか?

これはですね、ん〜…。


______「日々」のような?

あ、そうですね。娘との「日々」が、だんだんこう時間が経っていく、っていうのが語られていて。ほんとにこの人の写真付き。娘さんの写真が。最初は赤ちゃんの頃の写真から。


______ほんとだ! えっ。「洗う」って書かれてる(笑)。

っっふ……そう(笑)。「洗う」(笑)。飴屋さんのキャラクターもまたいいんですよね(笑)。

(ページをめくりながら)これは、ちょっと(娘さんが)大きくなってますね。だいぶ大きくなってますね。だんだん大きくなって、その中での娘との対話みたいな。娘さんがくるみっていうんですけど。


______娘さんとの対話では、どのようなことが語られているのでしょう?

なんかこう、「ふとした疑問」というか「素朴な疑問」なんだけど、でも「実は誰も答えられないような疑問」とか。

例えば、ここですね。「お父さんはさ、何でお母さんを選んだの?。彼女の問いに、いつも彼は答えられない。そんなこと説明できるほど、彼は何一つ理解をしていない。」…みたいな感じで、娘からの問いに「何でだろう」って立ち止まりしながら一緒に考えていく、みたいな本ですね。


______面白そうです。

面白いです。飴屋さんは、今はもうやってないみたいですけど、珍獣屋?すごい珍しい動物とかを仕入れて、ペットショップをされていたみたいで。ナマケモノとかテナガザルとか。その中で、人間と動物と何が違うんだろうとかって。そんな彼のもとに娘が生まれて、娘とのちょっと不思議なやりとりがあったり。


______本質的なことを、ぐるぐると語り合うような。

そんな感じですね。小学校四年生くらいまで、10年間の娘との対話ですね。

この辺の対話も良くて。くんちゃん、娘さんですね、「“お父さん”なんて言っといてなんだけど、お父さんの子どもって思ったことあんまりないんだよね」。


______すごいですね…!

すごいんですよ、切り込み方が。「じゃあ誰の子どもなの?」「そうだね、一体誰の子どもなんだろうね。」

「まぁ、くんちゃんはくんちゃんだね。もともとはくんちゃんではなかったし、たぶんお父さんの子でもなかったんだけどね。」「え、それどういうこと?」


______それは、びくっとしますね。

そうなんです。飴屋さんは演劇とかに携わっている人なんですけど、その中で、「どこまでが作り物で、どこまでが本当か」みたいなことを問うていて。そういう自分の哲学を、娘さんとも話すような。なんか寝る前とかに、二人が喋る時間があるらしくて。


______「死」についてもお話しされていますね。

そうですね、この本の中で飴屋さんのお母さんさんが亡くなるのかな。それで、娘さんとも一緒にお葬式に行くんです。そんな話も語られていて。

なんかこの「父から娘へ大事なものを受け渡していく」やりとりは、読んでいて面白いですね。


______このような会話って、普段私たちはなかなかしないじゃないですか。でも、人生を始めたばかりの娘さんとの会話だからこそ最初に戻れるような、改めて考えるきっかけになるのかもしれませんね。

普段しないですよね。そうかもしれませんね。やっぱり、飴屋さんが自分の娘を、娘なんだけども、父娘という関係性だけじゃなくて一人の独立した人間として接しているからこそ、難しいような話とかもちゃんとするし、敬意というか、そういうのを持っているのかなって思いますね。


______当たり前になってしまっていることも、改めてなんでだっけと考えちゃいます。

普段だったら流しちゃうようなことを、二人で立ち止まって会話しているというのは読んでいて良いなぁと思います。

これは不思議な本で、ほとんど実話なんですけど、最終的には自分が亡くなった後まで書いているんですよ。自分が亡くなった後に、娘のくるみがもっと成長して、自分、お父さんのことを振り返るっていうところまで書いてあって。だから、最後フィクションが入ってきてそこでハッとさせられて。


______演劇をされている方らしい終わり方ですね。ご紹介いただいた4冊、どれも興味深いお話しでした。最後に、和田さんにとって「本を読む時間」はどんな時間ですか?

こういうの聞かれるかなとおもっていたんですけど、用意してなくて(笑)。岡本さんはどうですか?


______私は、恋愛小説が専門なんですけれど。

自負してらっしゃるんですね(笑)。


______今は、どれだけ面白い恋愛が読めるかってところを重視しているんですが、最初に読み始めた時は人生の練習という感覚で読んでいました。

面白いですね。


______ いつか誰かと恋愛をしたときに、いずれ悲しむだろう、いずれどうしたらいいかわからない時が来るだろうと思っていたので、その時のために知っておこうということで、恋愛小説を。でも、和田さんはいろんな本を読まれますよね?

前は、結構小説とかよく読んでたんですけど、最近は本棚を見ても小説は減ってきちゃったなって。いまは、実際の人の話とかを読むようになって。なんなんだろうな。


______でも、本って別に読まなくてもいいわけじゃないですか、生きるには。

えっ、あ、そっか。読まなくても良いのかな。いや、読まずには生きられないですね、俺は。だって…なんでだろう。「娯楽」というよりも深いレベルで欲している感じがありますね。


______和田さんは、本を物としても好きそうな感じがあります。

前に、Amazon Kindleを買ってこれでめちゃめちゃ読むだろうなって思ってたんですよ。でも、全然読まなくて。やっぱりなんか、触って、ページがある印刷されたやつの方がいいんだなって気づいて。

あれだと、まずインターネットに繋がっちゃっているんですよ。本を読み終わった後に、他にもこんな本がありますっておすすめとかされるんですけど、そういうの全然求めてなくて。一対一のやりとりっていうところが。


______なるほど。一対一の関係ですか。

なんか、これを書いた人たちが、この世界にいる、もしくはいた、そのことがなんかすごい嬉しいっていうか。その人の話を聞くじゃないけど。そういう感じかな。こういうことを書く人がいることがすごく嬉しいんです。

あとは、生身の人間だと、毎日遊ぶ相手だったり、自分の親だったり、いろんな自分と関わりのある人がいるけど、やっぱりこう大事な話ってなかなかできないよなって思ったりして。でも、本はそういうことが出来る時間というか。そんな感じがして。


______和田さんの本を通した「人との関わり方」の一つのような気がしました。

そうかもしれないですね。一つの本の向こう側に人間がいるっていうのをイメージしているのかもしれないです。今日とかも、自分ち帰るまでに本屋さん寄っちゃうと思います。絶対何か取っちゃいますね(笑)。


______どんな出会いが待っているのか楽しみです!和田さん、本日はありがとうございました。


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【今回、和田さんがご紹介してくださった本】

・江國香織『泳ぐのに、安全でも適切でもありません 』(集英社文庫)
https://www.amazon.co.jp/dp/4087477851/ref=cm_sw_r_awdo_navT_a_QDRMR78RD2JZCCNKEW05

・鈴木布美子『レオス・カラックス―映画の21世紀へ向けて』 (リュミエール叢書)
https://www.amazon.co.jp/dp/448087173X/ref=cm_sw_r_awdo_navT_a_7GRF0WP8N6HAV8X1EH4J

・荒川修作 小林康夫『幽霊の真理―絶対自由に向かうために 対話集』 (水声文庫)
https://www.amazon.co.jp/dp/4801000886/ref=cm_sw_r_awdo_navT_a_13Y7CY9AAYQ7VJ1AGJRR

・飴屋法水『彼の娘』 (文藝春秋)https://www.amazon.co.jp/dp/4163906967/ref=cm_sw_r_awdo_navT_a_KPE0BRKV4VE380MNQTFZ


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水【連載インタビュー「本の話をしよう。」vol.1】
取材協力・タイトル文字:和田賢征さん
企画・取材・撮影・編集・本イラスト:岡本彩江


次回もお楽しみに!



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