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裁判所で出会ったヤバい奴(強制わいせつ) 傍聴小景 #15(後編)

今回の話は、前後編後編となります。
前編は過去最高の閲覧をいただいております。ありがとうございます!
前編をご覧になっていない方は、まずはそちらをご覧願います。


さて、普段は傍聴記を書くときに初めての方にも配慮しつつ書いているつもりなのですが、前編を読んでいる人が前提というだけで、こんなにも気が軽くなのでしょうか。
今回もどうか、僕にというか、被告人の彼の暴走にお付き合いください

さて、前回の話の終わりは、
2回目の公判の始まりに被告人がカメラの配線を手伝うというところまででした(この文章だけだとさらにカオスですね)。
しかし、この前にちょっと話をしておかなければなりません。

この2回目の公判の一週間ほど前、1回目の公判からは一週間ほど経った時期です。

被告人とまた裁判の傍聴で同席しました。

そのときはヤバい奴として顔も名前も覚えていたので、思わず「あっ、〇〇だ」と声に出そうになりました。
「いや、お前マジなんなん」と、インタビューしたい思いでいっぱいだったのですが、残念ながら、途中退席してしまいました。

ちなみに、今回彼と一緒に傍聴した裁判は「路上痴漢」の裁判でした。
彼と同じような罪状なのは、偶然ではありますが、彼にとって「本当にいい意味で」裁判を受けるものとして正しい姿勢が身につくものなら良かったのですが、
残念ながら、この裁判も被告人のキャラが激烈だったので、悪い影響にしかならなそうです。この件は、そのうち記事などにすることもあるでしょう。


さて、2回目の裁判の当日、開廷のギリギリに到着した被告人。
まさか、直前まで別の裁判を傍聴していたのではないかとすら疑ってしまいます。

弁護人から
「余計なこと言うなよ、申し訳ないです、反省していますと言うように」という、もはや懇願に近い言葉に対して、

「確かに、パトカーが見えて逃走したってのは、印象良くないですもんね」と返答。

弁護士、ちょっと怒り気味に「お前な、そういうことじゃないんだよ」と言いますが、被告人には届いていない様子。

ここの弁護人の気持ち、よくわかります。
確かに裁判上は被告人が言う通り、逮捕を免れるためと捉えられる逃走は印象が悪いに決まっています。でも、それはもとの犯罪行為に、さらにオンされる心象の話であって、そこだけ繕っても仕方がありません
当然のことながら、最も反省しなければいけないのは、犯罪行為そのものであり、示さなければいけないのは、被害者への謝罪の意なのですから。
君はマジで裁判で何を学んでいるんだ

裁判が始まりました。
傍聴席は初回の12人から10人に減少。初回の内容から、話題を生んで人が増えちゃうかも!と早めに待機した俺はなんだったんだ!

まずは証人として、被告人の父親が被告人の監督のため証言します。

証人尋問

「被告人と証人はどこに住んでいるのですか」
「〇〇(大阪中心地から電車で1時間半~2時間のところ)です」

「事件当時、被告人の生活状況はどうだったのですか」
「週に1、2度ほど帰らない日があった」

「被害者への示談金ですが、被告人が支払えなければどうしましょう」
「私が立て替えてでもすぐにお支払いいたします」

被害者への示談ですが、弁護士すらも連絡先を掴んでおらず、全く進んでいない様子。被害者としては、もう本当に関わりたくないんでしょうね。

それにしても30過ぎの大人ですので、外泊などの縛りなどなくてもいいようなものですが、被告人はアルバイト生活の身。いわゆる、町でふらついている状態なので、親としても心中穏やかでなかったのか、それとも放っておいたのか。
30過ぎて親が口出すのもなと思わなくもないですが、この状況ではやはり指導できるのは親となってしまうのでしょうね。60近くにもなって、こんな心配はしたくないですが。

「被告人は保釈後はどうしていますか」
「外泊はせず家にいます」

「昼間はどうしている」
「私も仕事をしているので詳細はわからないが、就職活動をしています

あと、裁判傍聴もな!
昔懐かし「笑っていいとも」の100人アンケートみたいに、法廷内全員にボタンを持たせて、「被告人が裁判を傍聴していることを知っている人、スイッチオン」とやりたいんだ。
とにかく、この被告人は裁判傍聴をして、何かしらの知識を持った上で挑んでいるということを、僕以外の誰かと共有がしたくてしたくて吐きそうになります。

被告人質問

さて、証人のお話はこれくらい。ここから、被告人質問が始まります。

前回同様、皆さんご自身の頭の中で、必要以上に堅く、明らかに作っている口調で、背筋をピンと伸ばして証言している姿を思い浮かべてください。
それではどうぞ。

「今回、どうして、こんなことをしてしまったの?」
一週間前に会った知り合いかと思ってしまいました

「その人の名前は言える?」
マリナマリエ(どちらも仮名)といった3文字ということだけ」

「その人とは連絡をよくとっていたの?」
「とっていません」

「その人とはどういう関係なの?」
性的な関係を持ったことがある、とだけ」

うるさいよ、それっぽく言うんじゃないよ。
君も裁判いくつか見てるんなら、恥じらいモジモジしているところを、
弁護人に「s〇xをしたわけだね」って言われてさらに赤面するという被告人も見てるだろうよ。どうせならそっちを再現しなさいよ。と意味不明な怒りを僕から買う被告人。

最終的な詳細はわからなかったのですが、ナンパなのか、合コンなのか、風俗なのかわかりませんが、ワンナイトのみの関係で連絡もロクにとってない女性と見間違ってしまったという主張のようです。
こんなの被害者に聞かせられないな。

「どうして抱きつく必要があったの?」
「その女性のことを「B」と呼ばせていただいてもいいでしょうか」
(うるせぇ、ダメだよ、ダメ、普通に言え)

「その「B」は求められるのが好きだと言っておりましたので」

「胸を揉む必要があったの?」
「求められると喜ぶ子なので、胸を揉んでコミュニケーションを
  取ろう
と思いました」

コミュニケーションって胸を触ることを普通言うかな?
「そのように言われてしまうと、、、」

と言ったところで、まさかの展開が起きます。

ここは、恐らくですが弁護人としては、「その「B」とやらが求めてくるだけであって、被告人は常にそんな特殊な性的思考を持ってるわけじゃないですよ~」としたいはずなんだ、多分。

でも、なぜか、ここで「裁判官」が、

裁「被告人にとっては、そうなんじゃないですか?」

と完全にぶった切り。
弁護人の質問にオロオロしていた被告人は、それが助け舟と思ったのか知らんけど、

被「ありがとうございます」

と御礼を言ってしまう始末。
整理すると、私の推測ですが、

・胸を触るという行為は「B」が求めているだけとしたい弁護側
 ↓
・そんなん被告人の性癖でしょとぶったぎった裁判官
 ↓
・御礼という形で認めてしまった被告人

と、礼儀正しくしたつもりが、まさかの将棋でいう「詰めろ」状態に。
こういうやりとりの機微を掴めないことには、裁判好きと名乗るのはまだまだ早いのです。

「人違いだったとしても、わかった時点でどうして謝らなかったの?
「足がふらついていたのと、パトカーが来たことで混乱しました」

「謝る気なんてなかったんじゃないの?」
「そう思われても仕方のないことを私は、、、」

弁「ちゃんと謝りなさいよ!」

メチャクチャきれていました。
そりゃあ、そうだよ。自分はなんだかそれっぽい言葉遣いだけをしてさ、悦に入ってるか知らんけどさ、
弁護人はちゃんと犯情の悪質さを低減させようと仕事してんのに、そういう肝心なところでちゃんと乗らないんだもん。

今までも、いろいろと悪質であったり、反省の念が薄い人を傍聴してきましたけど、こういう裁判の舐め方ってなかなか見ないのではなかろうか。
自分の保身だけを考えている人の方が、まだ人間っぽいよ。結局、こういうキャラを突き通して、この人がどうなりたいかが全く見えないんですよね。

「あなたね、就職活動していて内定をもらったんでしょ?」
「はい、私のようなものでも大変ありがたいことにいただきました」

「あなた歳は?」
昨日で37になりました」

「普通、こんなことしたり、両親にも出廷してもらって
  監督をお願いするような歳ですかね」
「本当に申し訳なく思っております」

なんだろう、字面だけ眺めているとね、普通のやりとりなんですけどね、やっぱ喋り方がモード入ってるんですよね、伝わらないの辛いなぁ。
まぁあえてその雰囲気を感じて欲しいとすれば、年齢を聞かれて、ここで「昨日で」ってわざわざ入れなくていいよね。この辺りの緊張感のなさから、この人普通じゃないんだったということを思い出してほしい。

では、検察官からも質問していただきましょう。

「そのBとは連絡先を交換しているんですか」
「はい、しております」

「初めて会ったときから、何度か会っているんですか」
「いえ、一度も会ってはおりません」

「LINEでのやり取りはあるんですか」
「特にありません」

検察官としては、他人と間違えたという説をなくすために、「B」なる人物が本当にいるのかという確認をしているようですね。
でも、もう裁判官が特殊性癖持ち認定したから、いてもいなくても大丈夫大丈夫!

「被害者には当日どのように声をかけたのですか?」
「手を挙げて、「よっ」という感じで」

「それに対して被害者は?」
黒目をびゅっと大きくした感じで、嬉しそうな反応だと思いました」

ここねぇ、僕はなんとなく被告人がいわんとしたいこと伝わっちゃったので悔しいのですが、裁判関係者には全く伝わっていないご様子。ってか、普通こんな表現しないでしょう。
必死に裁判官に向けて、わかってもらおうと、「にぱぁって感じです」とか説明をしています。

でもねぇ、この発言は僕、嘘だと思うんですよね。
だって、マスク越しにその黒目の動向での「にぱぁ」度合で表情が読み解けたって言っているんでしょ?
だったら、今あなたが必死に説明をしている先の裁判官の顔が「お前、いい加減にしないと〇すぞ」っていう表情も読み取れてないとおかしいじゃないですか。

僕、マスク越しにこんな表情できるんだって、笑いを堪えるのも必死でした。
ってか、「真にヤバい人はこの裁判官なのでは?」と思うほどの表情でした。

検察官からの質問はこんな感じ。
そして、裁判官からの質問は無し!もう心底呆れている感じでした。ちなみに、この裁判官は女性であったことも少なからず影響しているのかな。

論告・求刑

検察官からの論告
・無防備な女性を狙った犯行は悪質で卑劣
・自己の性欲を満たすための動機に酌量の余地はない
求刑 懲役一年六月

弁護人からの弁論
・犯行そのものについては、弁解の余地はない
・一貫して捜査に協力するなど、反省の態度を示している
・強制わいせつ行為が目的でなく、人違いであったことを考慮してほしい
・実家で親に監督されながら、きちんと仕事につく

被告人に必要なのは刑罰でなく、社会で更生の機会を与えることだ

そして最後に被告人が発言を許される場、最終陳述に移ります

最終陳述

この度は、このような場をいただきありがたく思っております。
自分がやったことで裁きを受けることになり、これからはそれを受け止め
真面目に生きていきますので、何卒寛大な処置をお願いいたします。

結局、この人は真の意味で反省したんですかねぇ。
例えば、部活動にしても、会社にしても愛のある指導、説教を受けたときに「ありがとうございます」と言ったりします。言わないとぶん殴られるからって場合もあるでしょうが、次のステップに繋がる指導と考えたら、自然と出る言葉でしょう。

でも、裁判の場ではどうでしょう。
もちろん、多少は被告人に対しての刑罰の認識を改めさせるという役割もあるでしょうが、この人の場合は別に何も改めてないどころか性癖認定されただけで、「このような場をいただき、ありがとう」って言われても、やっぱずれている気がするんだよなぁ。
別に君のためにやってるわけじゃないし。被害者のこと考えてのかと。


さて後日の判決の日です。

判決

主文 懲役一年六月、執行猶予四年
・執拗で下劣としか言いようがない行為
・コミュニケーションと主張するが、到底採用できるものではない
・前科前歴はなく、親が監督すると言っているので、今回は執行猶予

被害者の方にとってはどう思われるかわかりませんが、求刑から減刑されることなく、執行猶予も四年でしっかりついたなという印象です。
被告人はどう思っているかはわかりませんが、裁判での印象は最悪ですからね。

いやぁ、それにしても疲れた裁判だったなぁと、法廷の外に出てベンチに腰かけて、ぼーっとしたり、携帯いじったりしていました。
そしたら、法廷から出てきた、被告人と弁護人が僕の割と近くで止まって話し始めました。

「先生、ありがとうございました」(普通の口調)
「いろいろとな、きつい感じで言っちゃったけど、よく頑張ったな!」

「いやぁ、あのときの先生、ホント恐かったですよ」
二人「あっはっはっ!」

普通に3分くらい仲良く談笑してました。弁護人の切り替えすげぇ~!
こんな経験、日常茶飯事過ぎるんだろうな。まぁ変な態度取って、恨まれたりも大変なんだろうし。

なんか、最後の談笑の姿を見て、この弁護人こそが、一番「ヤバい人」だったのでは?陰でコソコソ人の会話を記憶しているヤバい私が思ったりしたりしました。


今回の記事内容はYouTubeで動画かしておりますので、是非こちらもご覧ください。


というわけで、前編後編に渡ってお届けしましたが、いかがでしたでしょうか。
今後もガチで語りたいものなどは、このように分けて書いていきたいと思います。


最後に宣伝させてください。
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それでは、また。

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