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裁判所で出会ったヤバい奴(強制わいせつ) 傍聴小景 #15(前編)

傍聴記を書くときの姿勢として、出来るだけ裁判のことをわからない方にも伝わるようにと考えています。できているかはわかりませんが。
ですので、あまり冗長になり過ぎてしまうと、飽きちゃうかなと思って今回みたいに前編、後編にしたりはしたくないんです。

でも、今回の話は絶対に皆さんにお伝えしたいし、ちゃんと説明が届いてほしいと思ったので、少し長いかもですが、前後編にしました。後編も当然無料でお読みいただけますので、どうかお付き合いください。


さて、裁判を傍聴していると、当然「この人、やべぇな」と思うことがあります。
とても多くの罪を犯した人、なんというのは規範意識の大幅な欠如として、ヤバい人の代表例でしょう。
反省の意思が全く見られない人、これもヤバいっすねぇ。

でも、今回の被告人はこれらとは、ちょっと異次元なレベルの話なんですよね。被告人ワールドとでも言いましょうか。
これからの話、面白いと思って聞いていただくもよし、こんな人許せないと思っていただくもよしですが、僕は恐いと思ってしまいました。
是非、想像力を働かせながら読んでもらえると助かります。


さて、今回の話、メインの裁判の前にしなければいけない別の裁判の話があります。

罪名:
・窃盗
・覚醒剤取締法違反
被告人:40代の男性
傍聴席:2名

事件の概要(起訴状の要約)
・被告人は路上にて、通行していた60代の女性の後ろをつけていき、
 自転車で追い抜くときにカバンを奪い取った
・自宅にて覚醒剤を注射して使用していた

この裁判、言っちゃ悪いですが、よくある内容で、裁判上特にぐっと来る話もなかったんです。こういう、たくさんのボツがある上でnoteやYouTubeの記事は成り立っているのです。

しかし、そんな裁判を必死に聞いている一人の男性がいました。
年齢は僕よりやや年下くらいですが、服はお洒落なジャケットをビシッと決め、「どうせ見られていないし」と最悪上下ジャージでもいいやと思っている僕とは大違いです。

裁判の途中で入ってきたので、扉が開いた瞬間、注目を浴びてしまい、どうしたらいいのか?という所作や、席を選ぶ感じから、初めての方なのだろうと察知。
しかしわからないなりに、必死に裁判を傍聴している姿勢に、ちょっとほっこりしたり。

しかし、最初は真剣に聞いていたのですが、途中で飽きてしまったのか、
スマホをいじり始めました。遠くてはっきりとはわかりませんでしたが、画面の光がぼわっとしてたので間違いないでしょう。
当然のことながら、開廷中はスマホはご法度です。撮影や録音される恐れもありますからね。裁判官や職員に見つかったら注意をされます。
開廷前でも原則は禁止しているところが多いようですが、弁護士や検察官がスケジュールチェックなどで普通にスマホをいじっていますし、開廷前にスマホを触ってて注意を受けたことは私はないですね。

というか、禁止云々関係なく、開廷中にスマホ触るってどういうつもりなの?というのが正直な気持ちです。
ちょっと面倒な奴かもしれませんが、一応裁判が終わったら注意しようかなと思ったのですが、裁判が終わって早々どこかへ行ってしまいました。


そんな前日譚がありました。
あ、ちなみに、ないがしろにされてしまった、この裁判の方は懲役三年の実刑でした、はい。何度もやられている方なので反省してください。

さて、ここからタイトルにもなっている「強制わいせつ」の裁判の話です。
この罪名ってニュースにもなりやすいですし、まぁ性的な事案でもあるので興味本位という人もいるので傍聴人が多い傾向があります。

この裁判、事前情報はなかったのですが、やはり開廷前に多くの傍聴人がいました。後から調べても特にニュースになった事案とかではないので、たまたまだったのだとは思いますが。
7割くらいの傍聴席が埋まって、開廷まであと5分ほど。そんなとき傍聴席のドアが開きました。

入ってきたのは、例の傍聴席でスマホいじりの彼でした。

あの出会った1日だけでなく、また裁判に来たのかとちょっと嬉しく思い、それとなく彼を見ていました。
彼は傍聴席にたくさん人が座っているのを見て、一瞬驚いていたように見えました。でも、次の瞬間には背筋をピンとさせ、席をめがけて歩き出して、そして座りました。


被告人席に。

もう1回言います。
法廷でスマホをいじっていた彼、この裁判で傍聴席を通り抜け、被告人が座るべき席に座ったのです。

ちなみに、保釈されていれば、手錠で連れられることなく、裁判を受けるために家から自分の足で裁判所に来るということになるので、被告人が自ら法廷に入ることはなんも不思議でないのです。
ただ、つい最近見たことがある人がするするとその席に座るというのは見たことがなく、とても混乱しました。

途中で書いた通り、この裁判にはたくさん傍聴人がいました。
弁護士、検察官、裁判所の職員なども着席しています。普通に被告人が法廷内に入って、普通に被告人席に座っただけです。
他の人にとっては何も不思議な光景ではないのです。
ただ、その裏事情を知っている僕にとってだけ異常な光景なのです。


そう、
この被告人は、自分が裁判を受ける前に、裁判ってどんなもんかってのを、
いくつか裁判を傍聴し予習していた
のです。

確かに、自分が受けるのはどんなもんかって知りたい気持ちはわからんでもないですけど、実際に行動に移しますかねぇ…

という訳で、ようやく話の本筋に

はじめに

罪名:強制わいせつ
被告人:30代の男性
傍聴席:平均10人

初回は13人ほど傍聴席に人がいたのですが、恐らく僕以外は誰もこの人の人となり(僕も裁判傍聴をしたことがあるしか被告人のことを知りませんが)を知らないんだよなぁと思うと、
人には言えないなんかタイムリープものの疎外感と同じような感覚に襲われました。
この感覚を正しく表現できる物書きになりたい!

事件の概要(起訴状の要約)

被告人は、深夜路上にて、いきなり被害女性(24歳)の背後から抱きつき、両手で胸を鷲掴みするように数回揉んだ。

もう、コメントするのもアホくさい..

裁判の流れでは、このあとに「罪状認否」という場があります。
被告人、弁護人の順で、これから裁判で議論される上記の事件概要について、認めるのか認めないのかを意見することができます。


罪状認否

「それでは被告人、今検察官が読み上げた起訴状に
  何か間違っている点などはありますか」

「罪状認否ということで、私から2点ほどよろしいでしょうか」

ここが、文章メディアの限界を感じるところなんだよなぁ。
この被告人、さっきまで普通な感じで弁護人と打ち合わせをしていたんですが、この罪状認否で意見を求められた途端、
スイッチが裁判モードに切り替わったのか、急にお堅い喋り方になりました。博物館とかにあるボタンを押すと流れる自動音声みたいなんだけど、伝わりにくいよなぁ。
とにかく、ゆっくりめではっきり大きく、わざとらしく話し始めたと思っていただき、皆さんなりに脳内再生をお願いします。

「罪状認否ということで、私から2点ほどよろしいでしょうか、
  まず1点目ですが、いきなり後ろから抱きつきという点、
  これは過剰な表現かと思います」

「おぅ、普通に言え」

まさかのヤジのようなものを飛ばす弁護人
関係者や傍聴人もやや苦笑い。みんなはその時、どう思ったのでしょうか、

 ・緊張して言葉が硬くなっているのかな
 ・ちょっと変わったタイプの人なのかな

いろいろと思ったことでしょう。
でもまさか、

 事前に裁判を傍聴して、キャラ作りをして裁判に挑んでいるやべぇ奴

と気付いているのは僕だけでしょう。
法廷に大勢の人がいてわちゃわちゃしている中、被告人と傍聴席の僕だけにスポットライトが浴びせられ、僕にだけ別の裁判を見せられているような、気持ち悪い感覚です。伝わってほしいなぁ。

「そして2点目ですが、「両手で胸を鷲掴みするように揉んだ」という
  表現、これも過剰ですので否認いたします」

「えーっと、被告人?わいせつ行為は行われたというのは
  間違いないですか?」

「そうだと思います」

「否認しているのはどういう部分ですか?」

「私は「鷲掴み」にはしていません。両手で強く揉んだだけです。」

「(……何が違うんだろう?)じゃあ、そういうことで。
  弁護人、ご意見は?」

「はい、あのぉ犯罪事実としては間違いないんですが、
  そのまぁ、被告人の言う通り悪質性といったところについては
  一部斟酌していただきたく」

文字で見ると、被告人の発言って正当な権利の主張みたいに見えなくもないんだけど、とにかく言い方がすごいの!

それにしても、弁護士さんって大変な仕事です。
被告人がこう言っている以上、何かしらその方向で弁護しなきゃいけないんですから。
慌てふためいている様子からそれが感じ取れるのと、
なんだか「いや、俺も変なこと言ってるなとは思ってんだよ、でも仕方ないじゃん」という雰囲気を感じ取って欲しいのもプンプンさせています。

それにしても、この被告人はどんな裁判を傍聴して、この「被告人像」というのを作り上げたのか本当に謎です。個人的には、変なイメージを植え付けた犯人にも、いくらか今回の罪を分け与えたいくらいです。

検察官による証拠の提示

・被告人は大学卒業後、アルバイトなどで職を転々としていた
・実家がは近いものの、事件当時は週の数日をホテル暮らしなどしていた

・今回の事件は、被害女性とすれ違ったときに思いつき、実行した
・パトカーがたまたま近付いてきたのが見えたので、
 胸を鷲掴みにしていたのをいったんやめ逃走
被害者がそのパトカーに訴えることで事件が発覚した

・被告人は、自分が会いたいと思っていた人と勘違いをしてしまったと供述

ここで裁判としては日が変わったのですが、
被告人が「鷲掴みにはしていない~」と訴えているので、
事件現場の交差点付近に設置されていた防犯カメラ映像を検証することになりました。

定期的にこの防犯カメラ映像というのは、証拠として採用されます。
イメージとしてお店の中とかで万引きや強盗の犯罪事実を突き止めるのに使われそうですが、今回のような交差点での事件であったりと、知らないとこで町には多くの防犯カメラが設置されているんだなと知ることができます。

この防犯カメラの映像で犯罪事実を確認するという行為は、たまにその映像が傍聴席にも見える形で放映されることがあります。
今回、恐らく胸を揉まれたという行為であったので、被害者に配慮したのか傍聴席までは見えませんでしたが。
見えるときも、だいたいが暗くてよくわかりませんが、本当に犯罪というのは行われているのだという実感に繋がり、やはりいろいろと思うところはあります。

しかし、裁判も人が行うことなので、お間抜けなことも起きます。
防犯カメラの映像投影が、裁判関係者の手元のモニターにちゃんと投影されないということがよくあり、ケーブルを持って職員が右往左往というのはよく見かけます。というか、そういう証拠が採用される際は2回に1回はなにかしらトラブっている印象です。
なんとなくですが、法律関係者は電子機器類には苦手な方が多いのではないでしょうか。

この日も裁判前にケーブルのチェックなどをしていたのですが、弁護人側の席のモニターにだけ、動画が流れないご様子。職員さんが、ケーブルを抜き差したり、机の下に潜り込んでいます。

そして、それを見ている被告人、なんだかソワソワしています。
おいおい、まさかやめろよと思っていたのですが、

案の定、自身も率先して机の下に潜り込んで配線について手伝い始めました。

お前はもう、裁判にソワソワするな!静かに座っていろ!
緊張感がないんだよ、緊張感が。

何度も職員さんが、「結構ですから」って言っているのに、手伝おうをしています。
困っている人を助けようとするのは、人として間違っているとは言わないけど、

その職員さん、女性だったのです。
わいせつ事件が疑われている人に、なんかちょこまかされて、本当に嫌そうにしていました。弁護人も途中で、「いいから座っていなさい」と強めに言ってくれました。

無事配線作業も完了し、裁判関係者はその動画の検証。
その動画を傍聴席からは見ることはできませんでしたが、その動画を見ていた人たちは特に何も言わず、「うん、鷲掴みだね」という感じで、裁判が続行されました。

と、今日はひとまずここまでで。
次回は、被告人質問についてじっくりお伝えしていきたいと思います。
被告人質問ということで、ワールド全開。

最終的にどういう判決が下ったのかまでお話しできればと思いますので、
どうかお楽しみください。

後編はこちら


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