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裁判でもツッコミ不在だとモヤモヤする(窃盗、窃盗未遂) 傍聴小景 #8

「あれは漫才なのか?」みたいな論争は定期的におきますが、漫才が多様化する中でも
ツッコミの人の役割って、ちゃんと場を正したり世界観を私たちに伝えたりと、この点だけはブレないで欲しいと思っています。

裁判には当然、漫才のような「ツッコミ役」という人はいませんが、法律という大前提(漫才でいう「設定」?)に基づき、どうしてダメなのかを話すわけなので、それを正す役割の人は当然に必要なのです。


はじめに

罪名:窃盗、窃盗未遂
被告人:20代の男性
傍聴席:2人

傍聴人の関心として、窃盗が罪状だと、「何を」「なぜ」盗ったのかを興味が引かれます。

「食料品」だったら生活費の苦しさなど想像つきやすいのですが、これが「お酒」となると生活できるくらいはお金あるけど余裕はないのかなと思ったり。
逆に想像が難しいけど結構あるが、専門的に使われるような工具類。だいたいが換金目的なのですが、事件の内容を聞いた瞬間はフリーズしてしまいます。
また、被告人が今回のように若い人と知った場合、その情報も加味しどういう事件なのだと自分の中で想像をふくらませるのです。

さて、今回はどういったものなのでしょうか。


事件の概要(起訴状の要約)

・被告人は、ディスカウントストアでカセットボンベを3本、自身のカバンの中に入れて店外に持ち去った。
・別の日に同じ店舗にて、カセットボンベを同じく3本カバンに入れたところ、店を出る前に店員に声をかけられて犯行は未遂に終わった。

うーん、これは想像が難しい。なぜ盗ったのか、そしてまた盗りに行かなきゃいけない理由はなんだったのか。
これが普通のお買い物だったら、バーベキューしてて足りなくなったからとかでも通じそうなのですが、、、


検察官による証拠提示

・被告人は事件当時、会社員であったが今は退職して無職となっている。
・仕事のストレスで「ジサツ」(ここではこう書きます)を考えた結果、ガスボンベが必要と思った。
・しかし、3本では足りないかもしれないと思い、もう一度同じ店に行った。

先に真面目な話を2点しますね(いつも真面目なつもりですが)

①.
個人的に知識がないもので、カセットボンベでそういう行為ってどうやるのか、かつどういう結果になるのかわからなかったので、ググってみたんですね。

そうしたら、これがTOPに来ました。
なんか少し感動してしまいました。どうやら「ジサツ」の検索に反応しているようではありますが、こういうところに気が回る技術に感動します。

類似のワードで検索しまくっちゃったので、早く検索履歴を他ので埋めないと、僕の心が危ないと思われてしまう..


②.
もちろん、どんな方法でもダメなのですが、ガスを使ってというのは特に周囲を危険に巻き込む恐れがあります。
過去には、ガス抜きの作業をしていたところ、ちょっとした火に反応して爆発を犯して何人も亡くなったなんてニュースも見ていますし、大阪でもそういった裁判を傍聴した経験からも、ガスの扱いには何卒気を付けて欲しいと思うのです。


さて、注意喚起もほどほどに今回の話なのですが、
事件の経緯はなんとなくわかったのですが、どうしても気になったポイントがあります。
被告人質問で突っ込んでもらってこちらのモヤモヤを解消してくれればいいのですが。


被告人質問(弁護士から)

「事件当時働いていた会社ですが、毎日どれくらい働いていたのですか?」
「朝は7時半には会社に着いて、いつも会社を出るのは夜の11時くらいだったと思います」

「周りの人も同じような感じだったのですか?」
「大きくは違いはないのですが、私は異動したばかりであったり、仕事の覚えも悪かったので、怒られたり、仕事が残ったりというのがありました」

「怒られたりとありましたが、これはどのようにですか」
「言葉で「お前みたいな奴はいらない」「給料泥棒」「せっかく拾ってやったのに」などと言われていました」

いわゆるブラックだったのですね。
勤務時間も相当に長かったようですし、罵倒もされて辛い日々を過ごしていたのでしょう。

「今回、自分で命を絶とうと考えてしまったようですが、周りに相談できる人はいなかったのですか」
「友人などはいたのですが、ただただ終わらせたいという一心で」

「会社を辞めて、今の精神状態はどうですか」
「今は安定して、本当に体調もよくなっています」

「では、今後はまたいい会社を探して、困ったら人に相談していくということでいいですか?」
「はい、そのようにしていきます」


と、弁護人による質問は終了。
どうやら、ジサツを考えてしまうほど酷い環境下であったこと、そしてそのような環境は改善できる見込みってことが弁護の軸みたいですね。

ん?
いや、それは分かったんだけど、僕の喉の小骨は刺さったままです。「あれ、聞き逃しちゃってたのかな」と思うほどです。

さて、読んでくれている皆さんは僕と同じモヤモヤを抱えてくれているでしょうか。

それでは検察官に期待することにします。


被告人質問(検察官から)

「仕事の環境の過酷さというのは聞いててわかったんですけどね、
  自ら命を絶つことでね人に迷惑をかけると思わなかったのですか」
「今ではそう思いますが、そのときは思えなくて」

「ガスなんて使ってね、引火したら爆発を起こすなんてことも
  思わなかったの?」
「はい、そのときはそこまで頭が回らなかったので」

「誰か、身近に相談できる人とかはいるんですか?」
「友人がいますので、今回の件も話して、今後は早くに相談できるようにします」

検察官の質問は終了。
二次被害が起こる可能性の示唆、そして再犯の可能性があるかどうかに疑義を唱えたわけですね。

って、違うんだよ!
どうして、誰も、ちゃんとツッコんでくれないの⁉俺だけなのか、この点を疑問に思っているのは?

最後は裁判官にこの思いをかけたいと思います。


被告人質問(裁判官から)

「あのぉ、事情はいろいろ聞いて理解できる部分もあったんですけどね

  なんで、盗む必要があったんですか?

そう!それなんです!よくぞ聞いてくれました。
話聞いていると、ガスボンベに手を伸ばした理由はわかるんだけど、それを盗る必要性がわかんないです。

窃盗の裁判なんだから、「盗む」という行為にいたった経緯を聞いてくれないと。お金はなかったという訳でもないと思うので。

「あのぉ、事情はいろいろ聞いて理解できる部分もあったんですけどね、
  なんで、盗む必要があったんですか?」
「それも、当時はちょっと考えられなくて…」

「でも、食事とかは普通に買っていたわけですよね。それで、ガスボンベだけは盗るって理由はちょっとわからないんですけど」
「…」

そうなんだよなぁ。
いや、そういうことを考えられる精神状態じゃなかったと言われたら、それ以上突っ込んでも答え出ないんだろうけど、そこにどれほど犯行の意思があった話なのかってはっきりさせたいよな。被害店舗にとっては、次の犯罪防止もだけど、今回の被害な訳だし。

きっと、供述では窃盗の理由について「当時は考えられる状態でなかった」的なことを言ったんだろうから、それを前提としたことだったんだろうけど、傍聴している側は知らないからね。

裁判官は、明確に提示された証拠類からのみ罪状を判断しなければいけないので、今回そのように突っ込めたのはファインプレーだったのかなと個人的に思っています。

真面目な話、裁判ってぶわぁぁぁって喋られる中から必要な部分をメモする要約力と、「あれ、これおかしくね?」と思うツッコミ力がつくと思うので、社会人にとっても結構貴重な勉強の場になると思うんですよね。
まぁ、その魅力に取りつかれて、私のように社会から逸脱した人もいるので、それはそれで考え物なのですが。

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