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あなたなら、どう償いますか・前編(重過失致死) 傍聴小景 #19

今回より一つの裁判傍聴記を前編・中編・後編と3回に分けて月曜日に投稿していきます。従来有料記事として投稿している月曜日ですが、前編は完全無料でお届けします。

3回に分けて書くということなので、当然のことながら長い記事となります。裁判としては4回にかけて行われたのを全て傍聴しました。
そして今回の話はとても重いです。しかし、ただ重いから記事にするのでなく、充分身近でも起こりうる話だし、また皆さんに考えて欲しい点なども多々あると感じたため、書くことにしました。

重い話はいいよ、ニヤリとさせてよという人は、過去の記事で恐縮ですが、

この2つをご覧くださいませ。

さて、今回取り扱う「重過失致死」という罪名について聞いたことある方は少ないのではないでしょうか。私は今回傍聴したこの裁判で知り、それ以降も1、2回開廷表で見かけたかな程度のものです。

知らないとは言え、
「過失致死」という言葉は、過失(不注意により起こす過ち)の結果、人を死に到らしめることというのはわかります。そう考えると「重」もなんとなくイメージつくのではないでしょうか。
この罪状は「十分にその結果が予見できる重大な過失によって人を死に到らしめた」という罪のようです。

判例としては、

・乳児である実子を自動車内に放置して熱中症により死亡させた
 (平成18年 名古屋地裁)

・冬場に泥酔して帰宅した妻を着衣のまま水風呂に入れ、
 そのまま放置し死亡させた(昭和60年 東京高裁)

などなどがあるようです。ちなみに、これは正式な裏が取れていないですが、屋上から物を落として人を死傷させる行為なんかもこれにあたるのではないかと。たまに見ますよね、消火器とか落とす人のニュース。
ちなみに、詳しい法判断はわからないので、ご指摘などありましたらご遠慮なく。

さて、そんな重過失致死罪ですが、
調べてみるとこれからする話のような事例がとても多いようです。もしかしたら、皆さんもヒヤリとした経験などあるかもしれません。

はじめに

罪名:重過失致死
被告人:20代の男性
傍聴席:平均9人(満席)

被告人は普通に会社員ですが、大学生と言われても頷ける見た目。保釈しているので、家からスーツを着て出廷しています。
傍聴席にはその父など家族が数名。裁判が始まる前から、かなり重々しい雰囲気が流れています。

やはり珍しい罪状だったので、傍聴席は満員でした。2回目以降もずっと満員で、入れずに渋々退室するという方も多く見ました。
初回が満席だと、次回以降は大きめの法廷に変わるなんてこともあるんですけど、これはずっと変わらずだったので、毎回席を頑張って確保しました。興味本位とかじゃないんです、ちゃんと知っておかなきゃという自分なりの使命感に近いものと捉えてもらえたら。

法廷の中では少し、珍しい光景がありました。
裁判官から見て、左右(法廷によって左右は異なる)に弁護人と検察官が座りますが、検察官席にも弁護人を名乗る方が2名座っています。
この方は、被害者遺族の代わりとして、被告人に厳罰を求めるとして、検察官席に座って発言などをしていました。検察席に、検察官が複数いることは見ますが、弁護人が座るというのは初めてでした。

事件の概要(起訴状の要約)

被告人は、ロードバイクに乗って車道を時速31kmで会社へ向け走行。

被告人は信号機のあるT字路交差点に差し掛かり、自身の目の前の信号機が赤であったことを確認しながらもそれを無視して交差点に進入。
左方から青信号として横断歩道を通行してきた自転車に乗車していた
被害者女性と衝突。
被害者女性はその日のうちに死亡が確認された。

今回の重過失致死罪はロードバイクによる衝突事故でした。しかも赤信号無視で。ほかの事例ではスマホなど注意散漫や片手がふさがりながら運転をして衝突した事例などがあるようです。
どうしてもニュースになりがちなロードバイク。乗っている人がみな悪いなどと言う気はもちろんないですが、確かに僕もヒヤリとしたことはあります。
また車や原付などと違って、音がしないですからね。衝突も何が起きたかわからなかったということもあるのではないでしょうか。

心より、被害者の方のご冥福をお祈り申し上げます。


事件現場について、検察官の話などをもとにまとめてみました。

事故現場について裁判の情報から推測

この図で少しでもイメージがついてくれればいいのですが。まず赤信号は止まるというイメージを壊すことが大変そうですが。

今回、被害者には全くもってなんの落ち度もありません。普通に出勤するために自転車で横断歩道を渡るところでした。その無念たるやはかり知ることなどできません。

被告人も出勤途中のようですが、遅刻しそうで急いでいたとのこと。車道を走っていた被告人は赤信号を無視して直進します。
その様子は同じ方向を向いて赤信号で停車している車のドライブレコーダーに映っていました。

被告人にとって気がかりなのは、T字路で右方向から来る車が右折して、自分の方向に来ないかが心配だったとのこと。
実際、その右折車両はあったのですが、その車は横断歩道の様子が見えているので、交差点内で停車。
その様子を被告人はしっかり確認し、何故かスピードを落とさず直進を続けるという選択肢をとり、事故が起こったようです。

どう聞いても、被告人を擁護するポイントはありません。こんな運転をされたら、日本中どの道も安心して通行などできないです。
頭がクラクラしてきます。

被告人は、当時、福祉施設で勤務をしていました。
発達障害などを抱えた子どもの就労支援をしていました。事故当時は、その働いている施設に就労体験で迎える予定であった(理由にはなりませんが)。
事故後、「このようにして人の命を奪った人間が、誰かを支援することなどできない」とし、会社を退職します。

被告人の就労について

被害者の方。

この方は、この地で絶大なる信頼を得ている小児科医の先生でした。

自分なりに検索したら、普段の診察対応について絶賛の嵐でした。
その他、病気で苦しむ全国の施設に向けての募金や、ボランティア活動などにも従事されている方であったとのこと。

被害者の方のお仕事について

この辺りのエピソードを聞いていたとき、頭クラクラを通り越して、本当に私、吐くかと思ったのです。辛い、辛過ぎる。

初回は導入なので、ここまでですが、
次回以降、この事故以降、被害者遺族、被告人ともに何が起きたのか、裁判はどう進んでいったのかを書いていきたいと思います。

もちろん例外はあるのですが、私は必要以上に被害者側に思い入れを強くし過ぎないよう少しだけ意識しています。それは、このような物を書く場でその姿勢を強く出すのは、情報として偏りが出てしまうと思うからです。
と、ここまで書いてて、普段の記事も僕の意見モリモリだなとも思うのですが、下手な誘導、扇動に用いたくない思いではあることは、大人の皆さんなら察してくれると助かります。

だけど、今回はその感情を抑える行為、言葉に主観が含み過ぎていないかを自分なりに見直す作業がキツい。

でも、その辛さ以上に、今回のような事件のことはちゃんとみんなに知ってもらいたいという思いが強いのじゃー!!

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