見出し画像

動機は「ヒモ生活を解消させられたから」身勝手な怒りを向けられたのは飼ってた小型犬で... 傍聴小景 #125(動物愛護法違反、器物損壊)

聞いていて思わず「痛い!」と言いたくなることは、裁判傍聴の中でよくあります。

それは別に重大事件として想起されるような鋭利な刃物で刺されたとか、命に関わりそうとか、非日常的な描写である必要はありません。どちらかというと、日常に潜むアイテムなどの方が、変なリアリティがあって嫌な気分になるものです。


はじめに ~この罪名は少ないけど注目されがち~

罪名 :動物の愛護及び管理に関する法律違反、器物損壊
被告人:30代の男性
傍聴席:平均4人(全2回)

被告人は、ややふっくらして、ロン毛にメガネをかけた男性。服は留置所で支給される緑の服を着ています。
そんな出で立ちなので、後ほど触れる被告人の過去の職業を聞いて、結び付けることが難しく驚きました。事件当時は無職でした。

僕はこの動物愛護法違反の裁判は2〜3度しか傍聴したことがありません。しかし、この罪名がニュースになると、多くの場合、タレントの杉本彩さんが名を連ねます。
もちろん悪い意味ではなく、動物を保護するための活動の一環として、意見を出したり、実際に裁判を傍聴されたりしているのです。私も地裁で傍聴になられているお姿をお見かけしたことがあります。

杉本さんの件は特殊ですが、傍聴席を見ているといろいろと気づくことがあります。
想像なってしまいますが、被告人の関係者、もしくは被害者ご本人・ご家族が座っていることもあれば、社会復帰後に支援を行う予定の団体の方、もしくは同種で別裁判となっている事件の弁護人などなど。傍聴席そのものにもいろんな見方があるのです。

なお、この裁判の傍聴席は常連の傍聴人だけでした。


事件の概要(起訴状の要約)

被告人は同棲していた女性宅にて、その女性が飼っていた小型犬であるヨークシャテリアの頭部を掃除機のパイプ部分で殴るなどし、右目を失明させるなどした。

小型犬に対して、なんたる凶行...。実は裁判ではその怪我の様子について、もうちょいキツい表現があったんですが、自主的に規制しました。

それにしても掃除機のパイプ部分ってリアルに嫌な鈍器だなぁ。言い方悪いと思いますが、もしただ殺したいという思いなのだとしたら、もっと他の選択もあると思うのです。
でも、この掃除機パイプを選んだのが、とにかく痛めつけたいだったり、怒りをぶつけている感情を表しているようで、非常に不快でした。

この罪名を選んで傍聴している時点で、ある程度の覚悟はしているつもりなのですが...。


採用された証拠類 ~ヒモの関係を壊されたのだからこちらも壊したい~

検察官証拠
被告人はかつてホストをしており、同棲していた女性(以降、被害者)はホスト時代の客であった。被告人はホストを辞めており、無職でヒモ生活をしていた。同被害者に対する暴行罪の罰金前科がある。

被害者は被告人との子を出産するが、被告人は別の女性宅に移り新たにヒモ生活を始める
被害者が、その女性宅に行き子どもがいることを伝えるとヒモ生活は解消され、被告人はまた家に戻ってきた。

なおも被告人は家で自堕落な生活をしていたところ、被害者の親に「一緒にいるなら働きなさい」などと説教され、イライラを募らせていく。
その後、被害者は被告人に家を出るよう伝えると、暴力を奮うようになった。被告人が自身の荷物を取りに、被害者宅に行くと判明した際は、被害者はそれまでの経緯から警察に同席を依頼する通報する。

警察が着いたときには、被告人は家の中で鍵をかけてしまい、被害者と警察は部屋の外で待つ形に。被告人は家で暴れ、様々な破壊音や犬の鳴き声が聞こえた。
鳴き声が止んだかと思うと、被告人が中から「犬を殴り殺しました」と行って出てきた。

幸いには犬は命は無事であったが、右目は失明しており、治療費として21万かかった。その他、大型テレビなども壊されていた。

被告人供述
出産に際し、別の女性がお金をくれそうと思い、同棲した。その後、被害者のもとに戻ったが、警察が来て同棲ができなくなると思い、自暴自棄になった。被害者の母に小言を言われたのも原因である。
ヒモの関係を壊されたんだから、被害者の大事なものも壊したいと考え、大事にしていた犬を10回〜20回ほど殴ったら動かなくなった。殺そうと思っていた。

はい、クズ―という感想はさておき、まず補足から。今回暴行を受けたのは犬ですが、被害者と表現しているのは同棲していた女性のことを指します。
器物損壊罪というのは、その所有者である被害者の告訴によって成り立つものなので、犬の所有者である同棲相手が被害者という表現になるのです。

さて、話は戻します。
被告人は見た目としては、ふっくら顔にロン毛というか乱雑な髪だったこともあり、外見だけではとても元ホストとは思えなかったのです。ホストが見た目だけとは言いませんが、どうやら3〜4年はヒモとして自堕落な生活をしていたそうなので、ホストとして積み重ねていたものがなくなったのでしょう。
ただ、それでもヒモとして渡り歩いていたというのですが、なにかスキルは持っていたのでしょうね。

それにしても検察官の証拠だけでは、1ミリも同情ポイントがありません

その後の弁護側の立証として、

・被害者へ損害賠償の提案した事実関係
40万円を支払い、今後接触しないことを記した合意書
・被害者に向けた反省文

は証拠採用されたのですが、果たして今の心情はいかなるものなのか。


被告人質問 ~養育費は望むのなら払います~

勝手なイメージで申し訳ないですが、ホストと聞いて「うぇいうぇい」言っている僕と同じイメージをお持ちの方もいるかもしれません。ただ少なくともこの公判中は、被告人は下を向きがちで暗い雰囲気を漂わせてはいました。

弁「今回、なぜこのような行為を?」
被「数年間正職につかず両親もいなく自暴自棄になり、そして警察を呼ばれたことで自分の人生も終わってしまうのかと思い」

自暴自棄になっての犯行ってのは、まぁ犯行内容から想像できなくないですが、後の供述からも正職についていない理由なども明かされず、単に自業自得なのでは?という印象。
両親が亡くなったということ自体は同情ポイントかもしれませんが、これも特別な両親への依存が供述されるわけでもなかったので、なんだかなぁという感じ。一応、兄妹はいるみたいですが、疎遠なようなので、家族関係というのはなんともわからず。

弁「当日、逮捕されてどんな気分に」
被「とんでもないことしたという気持ちと、あー終わった、という気持ちと」

弁「兄妹とやり取りはしていますか」
被「に家を出るときの荷物を受けてもらったり、弁護士とのやり取り、本の差し入れなどしてくれました」

弁「被害者の大切なものを奪おうとして、犬を殺そうとしたということでいいですか」
被「当時は自暴自棄になってしまいました」

弁「今ではどう思っていますか」
被「とんでもないことをしてしまった。弱い動物に手を出すという愚かなことをと反省しています」

弁「過去にも感情的になり暴行などをしているようですが」
被「姉からアンガーマネジメントの本をもらい、読んで勉強しています」

弁「何か印象的な内容はありますか?」
被「『悪い感情は悪い環境を招く』とあったので、悪い感情を持たないよう心がけています」

まぁアンガーマネジメントはそれはそれとして取り組んでいただいたらいいとは思うんですけどね、根本は色々と考えの浅さだったりすると思うんですよね。
問題の本質をどこまで認識しているのかという。なんとなく発言の薄っぺらさを感じます。

弁「今までは夜職で、簡単にすぐ働けて、辞めれる仕事をしていましたが」
被「今後は会社でしっかりと働いていきたいと思います」

弁「興味ある仕事などありますか」
被「土木で働いていた経験を活かせたらと思います」

弁「最後になにかあれば」
被「今回、一番は動物をどうでもいいやと傷つけたことを反省します。被害者も僕との思い出も悪くなったと思っています」

う〜んと、被害者としてはもう出てってほしいと思った時点で、あなたとのこと思い出はかなり悪いと思います。
それが今回の事件でさらに、嫌な思い出から、常に失明で苦しむペットが眼の前にいて辛いし、事件を思い出すということだと思います。やっぱ思考が軽いんよな。

あと弁護人が夜職をすぐ働けて、すぐ辞めれる仕事と表現していたのも気になりました。昼職として、気持ち入れ替えて頑張りますってことなんだろうけど、具体的にどう頑張るかは、「ただ頑張る」ってだけだったので…。また、よりによって体力なさそうな被告人が土木を頑張るって...。
言葉はペラペラと出るんですが、かなり信用ならんという印象。

検察さんはそのあたりの薄っぺらさを引っ剥がすことができるのでしょうか。

検「被害者と過ごしているときの生活というのは」
被「起きてから寝るまで酒を飲むような生活でした」

検「4年ほど働いていないようですね」
被「『どうせ死ぬからいいや』と自殺願望があって」

検「自殺願望のきっかけは」
被「親が亡くなったり、仕事を辞めてから、自分はどうなるんだろうと考え、楽な方へ楽な方へと考えてしまい

自堕落な生活をしていて、楽な方へと考えるのまではわかるし、働かないで自分はどうなるんだろうとむず痒くなるような気持ちはなんとなくわかります。でも、それが自殺願望と言われると大きくクエスチョンマークです。
ヒモとして女性宅を移り歩き、依存しないと生きていけない、不安な気持ちはわかりますが、それは自殺願望なのでしょうか。

検「取調時の供述調書には『被害者や子どもを殺してもいいと思った』と書いてあるけど」
被「当時は巻き込んでやろうという気はあったと思います」

検「犬が鳴いたり、血が出ているのを見て止めようとは」
被「鳴いてるのはわかっていたけど、自分も泣いている状態だったので」

正直なのはいいですが、相当ヤバいっすね。やっぱ自殺願望じゃなくて、もうどうにでもなーれという状態だと思うんですよね。
「自分も泣いている状態だった」からなんだというのでしょう。そこで、抵抗できない小型犬を狙ったという、自身の卑しさを本当に悔いてほしいです。

検「今後、一人で暮らすんですよね。兄妹には頼れないんですか」
被「姉にも『家族ではあるけど親ではないから』と言われてるんで」

検「簡単に仕事見つからないと思うけど」
被「でもやるしかないので。悪い感情を持たないよう学んでるんで」

検「うまくいかねば、また自暴自棄になるとは」
被「確かに恐いです。でも、一歩一歩着実に歩み続けるのが大事と書いてあったので」

検「交際相手への養育費は?」
被「被害者が望むのなら払います。子どもへの義務、愛情も生きる糧になるのかなと」

お前、子どもが生まれて別のヒモ生活始めようとしていたのに...。

アンガーマネジメント自体を否定する気は毛頭ないですが、単に表面的なポジティブマンになりましょうってことじゃないと思うんだけどな。

僕としても今回のような被害は生まれてほしくないので、被告人の更生の可能性は信じたいんです。でも、言っていることが「前向きに頑張る」くらいなので、不安になるなという方が無理というものではないでしょうか。


求刑・弁論・判決すべてになんとも言えない気持ちに

検察官の求刑は懲役六月
残虐で執拗な犯行、人への粗暴性も懸念されると言及しながらもこの求刑の短さには、この罪の量刑傾向に疑問を感じずにはいられません。

そして弁護人の弁論もなかなか。
突発的な感情によるもので、犬は死亡しておらず結果は重大とまではいえないとのこと。また事後的に犯行を省みて反省もしており、裁判での発言内容から見ても再犯可能性はないとのこと。

事後以外に犯行を省みれる人がいるのか疑問しかないですが、どういう発言内容から再犯可能性はないと言えるのでしょうか。
仕事としてそう言うしかないのかもしれませんが、であれば嘘でももっと道筋を示してもらいたかったです。

被告人の最終陳述
今回こういうことをして、申し訳ない気でいっぱいです。この2-3年だらしない生活をしてきたが変わっていきたい。ワンちゃんの目は戻らないけど、その十字架を背負って自律して頑張りたい

十字架を背負うとは言いますが、いったい何をするというのか。養育費も「望むのなら払う」と言ってたけど、自分から被害者のためになることをしようとは思えないのですが...。

判決は懲役6月、執行猶予2年でした。
懲役6月はいいです、求刑通りだから。

でも執行猶予2年っていうのは、結構レアで、相当許されているときしかつかないんですよ。判決の中で更生意欲ありとは言ってたけど、言葉だけで意欲見せてて一歩間違えたら大惨事、という危険性を感じなかったのでしょうか。

普段裁判に触れていないペットを飼っている人からしたら「なんて軽い判決だ!」と感じることでしょう。
普段なら、僕はそれをなだめる役なのですが、ちょっと今回のはなんとも言えない気分になりました。


今回の記事は動画にしております。
こちらも併せてご覧くださいませ。


ここから先は

0字
毎週2本の記事を投稿します。有料記事は完全書下ろしで、珍しい裁判や、特に関心をお持ちいただけると思っているものを選んでいます。 記事単体でもご購入いただけますが、定額の方がお得です。初月は無料ですので、是非お試しください。

傍聴小景 会員限定ページ

¥500 / 月 初月無料

毎月約100件の裁判を傍聴している中から、特に印象深かったもの、読者の方に有意義と思われるもの、面白かったものを紹介します。 裁判のことを…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?