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裁判をサボる被告人と翻弄される頭脳たちと見る僕と(麻薬及び向精神薬取締法違反) 傍聴小景#62

僕も大概いい加減な人間なので、メールや書類の見落としをすることがあります。それに気付いたときはなんとかリカバリーすべく、必死の対応をするもので、その都度ちゃんとしなきゃと思うのですが、この癖はなかなか治らないもので。

さて、幸いなことに僕は裁判を起こす方も起こされる方も経験せず、ただ傍聴しているだけですが、自分が当事者になったらそら大ごとだと思います。いくら、ずぼらな僕でもそのスケジュールはがっつり押さえておくでしょう。

多分、それが普通だと思うのですが、そうでない人もいるようでして。


被告人がいない法廷

特に事前情報なく入った「麻薬及び向精神薬取締法違反」の1回目公判の法廷。しかし、時間になっても被告人男性が来ることはありませんでした。

時間ぴったりになるまで、裁判官、検察官、弁護人はぴくりとも動かず、ただ開廷時間が来るのを待っていました。
確かに時間ギリギリやちょい遅刻で来る人もいるので、開始時間に被告人がいないことは無いことは無いのですが、それならそれで弁護人は焦って電話をしたり、関係者にちょっと遅れたりペコペコしたりするので、それもなく誰も微動だにすることなく地獄のお見合いが続いていました。

定刻になって裁判官が「やっぱり来ませんね」の一言。「やっぱり」とはなんぞ?とこちらは思っていたところ、弁護士が立ち上がって説明を始めました。

・国選として選任され、被告人とは一度電話で話した
・裁判の日程が決まったので何度も打ち合わせの電話をしたが留守電となる
  裁「留守電には入れたのですか?」
  弁「入れてます」
・住所にも必要書類を送るも連絡は来ない
・今週に入り、「お繋ぎすることができません」というメッセージが流れてしまう

どうやら、被告人と連絡取れていないので、あらかじめ関係者には通知していたようですね。それでも一縷の望みにかけ、律儀に時間までみんなで待っていた訳ですね。

実は被告人のすっぽかし自体はたまにあるのです。たまにと言っても、300件に1件くらいの割合ですが。前にも紹介したことがありました。

でも、連絡がつかないケースってのは相当珍しいというか、僕は初めてでした。そうなると気になるのが、逃げたんじゃないのか?ってこと。

その疑問に答えるかのように裁判官が口を開きます。

最終的に強制力を行使するしかしかないと思いますが、裁判所としてはあまりしたくないなと。それまでソフトなやり方をと思うのです。

裁判官の言葉

きょ、強制力とは…。まぁ、でも裁判に応じないんだったら身柄を拘束するしかないですよね。逃亡して、なにかさらなる罪を重ねてしまっている可能性もあるわけですし。

その後も、傍聴席に私一人で法曹三者があーでもないこーでもないと頭を悩ませて話を進めます。普段の裁判はあらかじめ書類のやり取りがなされていますが、今回は完全にイレギュラー。必死さが伝わり普段より面白みがあります。

そして驚いたのが、直接会えていない弁護人はもちろんのこと、検察官さえも被告人の顔はわからないとのこと。
さすがに毎日のように法廷に立つ検察官が全ての取調べをしているとも思っていませんでしたが、やはり実際にそう聞かされると驚きます。よく初対面の人に普段あんなに怒れるものです。

そうこうしている最中、法廷のドアが開きました
私含めて一斉に傍聴席の方を向きます。しかしながら、誰一人として被告人の顔を知らない現状を思い知らされます。
少ない中でもわかっているのは被告人は男性という情報。しかし、入ってきたのは女性。普通に傍聴に来た女性のようです。

その女性は、あまりにもみんなにジロジロ見られたせいか、そそくさと法廷から出て行ってしまいました。残念、こんなにも珍しい裁判なのに。

しかし、いくら司法試験を突破したような頭脳でも、いくら頭を捻っても来ないものは来ません。
裁判官が起訴状を見ながら「できれば、少し被告人の家は遠いようですが、直接行っていただくなどは難しそうですか?」なんて聞いていますが、弁護人は「ちょっと難しいですねぇ」などとやんわり拒否。

さすがに私がいるんで番地までは言いませんでしたが、そこで読まれた住所が割と僕の家の近く。大阪地裁から1時間もかからないところなので、なんとか行ってもらいたいものでしたが。

とりあえず、約一か月後に次回期日を設定して、この日は終わりました。


そして1ヶ月後、無事に被告人が来て、裁判を開くことができました。よかったよかった。

とは言っても、被告人10分ほど遅刻してきたんですけどね…。


はじめに ~被告人と僕「この人はなんなのだろう」~

罪名 :麻薬及び向精神薬取締法違反
被告人:20代の男性
傍聴席:1人(2回とも。途中入退室した方は除く)

なんというか普通の青年がやってきました。恐い系では間違いなく、大学のサークルに必ず一人はいるけど、中心ではないので表現に難しいタイプ。

大して申し訳なさそうな感じもなく、とことこと入ってきました。傍聴席に僕しかいなかったので、「この人はなんなのだろう?」という感じで、決してすごむ感じでもないですが、ジロジロ見てきました。
僕としては「お前にとっては俺のこと珍しいと思うだろうけど、その珍しい俺からしたらお前の方が超絶珍しいからな!」という感じです。

特に注意を受けるでもなく、普通に裁判が始まりました。


事件の概要(起訴状の要約)

被告人は自宅にて、マジックマッシュルームと呼ばれるキノコ類を2g所持していた疑い。

海猿の俳優さんが使っているのは聞いたことありますけど、裁判ではそこそこに珍しい気がします。

この内容に誤りがないか聞かれた際も、なんだか軽く「間違いないです」と回答。舐めてるってのも違くて、緊張感が感じられないんですよね。万引きが見つかって裏に連れられて泣き叫ぶ主婦の方を見習ってほしいです。

違法キノコは友人から一回もらって、その残りであるとのこと。なお、その友人の名前は言いたくないそうです。
普段なら詰めて欲しいところですが、初犯でもありますし、別期日だとまた来ないかもしれないからこの日のうちに判決を下すつもりのようなので、なんか普段よりもサクサク進みます。


被告人質問 ~裁判をすっぽかせるなら何も恐くない~

前回の裁判を終えて、いつ連絡がつくようになったかは知りませんが、ちゃんと事前に打ち合わせはできたのでしょうか
気になる弁護人からの被告人質問です。

弁「違法なキノコを所持していたことをどう思ってますか」
被「反省しています」

弁「どうして、所持してはいけないと思いますか?」
被「犯罪だからです」

弁「どうして犯罪になるのだと思いますか?」
被「……わかりません」

ちゃんと話し合っとけ!
その後、精神に影響するとか、お金の不正な流れの話などを説明。被告人質問という名の、薬物危険講習会でしたね。

弁「今後、仕事はどうするのですか?」
被「実家に帰って農業を手伝おうかなと」

弁「どんな生活をするんですか?」
被「農業を中心として静かに生活できたらなと」

たまに、実家の方で働きますってそれっぽい理由で会社を辞めて、実は近くにいるみたいなケースあるけど、そんなんじゃないだろうな。
まぁ本当であるなら、実家の方でどうか更生してくださいねと言いたいところですが、特になんで帰ることにしたのかとかの質問がないから全然なんとも言えん!

検察官、恐らく初対面だろうけどビシッと言ってやってくれ!

検「違法と知ってて使ったのは何故ですか」
被「ネットで、音楽がよくなったり、映画が楽しくなるってのを見て、興味を持ちました」

検「恐いという気持ちはなかったですか」
被「なかったですね」

そりゃあねぇだろうな、裁判もすっぽかすくらいなんだから。
使ってみた効果として音楽や映画が凄かったから継続しちゃった、ってのはまだ理解できるんですけど、初手でそれってのは相当軽いですね。

検「前回、裁判に来なかったのは何故ですか?」
被「携帯が切れちゃって、連絡が途絶えちゃったんで」

検「裁判をどうしよう思ってたんですか」
被「受けようと思ってたんですけど」
俺(TOEICの試験くらいのニュアンスで言ってんじゃねぇよ)

検「裁判のこと甘く見てたんじゃないんですか」
被「そんなことありません」

検「薬物もそんな軽い気持ちでやったんじゃないんですか」
被「それは、違います

いや、軽い気持ちだろがい。さっき、音楽や映画のためって言ってたじゃん。
携帯切れたって言ったって、いくらでもやりようあるだろうに。あんたの家からバス1本で裁判所の支部があるのも知ってるんだからな!携帯なくなったって、そこでアドバイス受けることもできただろうに、それをしないんだから。

法廷を守るものとして裁判官も許せないのでしょう、この点突っ込んでいました。

裁「前回の裁判から、今日にいたるまでどういう経緯があったんですか」
被「携帯が切れちゃって、放っておいたら今日になりました」

裁「では、今回どうやって連絡取れるように」
被「警察から、運転免許が切れてるって連絡があって、そのやりとりの中でなんか連絡がいったっぽいです」

裁「その免許の件はどうなりましたか」
被「罰金一万円払いました」

なるほど、正確なところはありませんが、警察経由で発見されたわけだ。いわゆる「おい小池」みたいな感じで、この被告人がなにか引っかかったら連絡して頂戴みたいなのが裏であったってことかな。
それにしても、免許も切れてたんか、相当にだらしないな。

裁「逃げ切れると思ったんですか」
被「いえ、そんなことは思ってないです」

裁「実家のご両親はこのことは」
被「知らないです

裁「お話しするつもりは
被「いや、話さないですね」

親がいつか気付くことがあるのかわかりませんが、気付いたら息子が前科一犯だったと知ったら驚くでしょうね。


判決 ~執行猶予の理由とは…~

普通は日を置いて行う判決ですが、ある程度内容も分かっていたためか、その日のうちに判決が出ました。
こういう場合、言い渡す内容はある程度テンプレとして用意していて、裁判の手続きを終えてそのまま直後に言い渡すケースが多いんです。ただ、今回の裁判官さんは真面目なので20分くらい休憩を置いて細かい部分を見直しされた後、判決を言い渡すことになりました。

主文
懲役1年、執行猶予3年、押収していたキノコ類を没収する

まぁ、こんなところでしょう。
ただ気になったのが、執行猶予をつけた理由として、「実家の両親の監督が期待できる」ってあったんだけど、両親には言わんって言ってたしなぁ…。

なんというか、普段の記事とは異なる人間らしさがにじみ出た裁判でした。


今回の記事は動画にしております。裁判が始まらないバタバタ加減はこちらの方が伝わるかもなので、よろしければ是非に。


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