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第6回ゲスト:おさべせりなさん(ふわふラプニカ 主宰)「必然性や演出、客席とパフォーマーの関係性や境界の無さ、断絶をなんとかしたい」 聞き手:山本真生

年始に王子小劇場で開催される『見本市』
活動最初期にあたる9団体を選出し、ショーケース型の公演を行います
【公演詳細】
「見本市2024」
2024年1月5日(金)〜9日(火)@王子小劇場

みなさん、はじめまして。インタビュアーの山本です。
みなさんが今回の見本市で、初めてお目にかかる団体の、
お芝居の魔法に、より染まっていただきたく思い、
「見本市2024」に参加する方へのインタビューをしてきました。
第6回目のゲストはふわふラプニカのおさべせりなさんです!

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【ゲストプロフィール】

おさべせりなさんのプロフィール画像

おさべせりな

ふわふラプニカ主宰。作、演出、役者、作る側は大体やる。親知らずを抜いた時の笑顔が一番可愛い自負がある。 https://twitter.com/menhera_mimi
(
ふわふラプニカ https://twitter.com/fwawf_lapnicka)

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必然性が欲しい

おさべ:創作ユニットふわふラプニカのおさべせりなと申します。
   ふわふラプニカ自体は、私が演劇をやり続けたいと思って、ひとりで始めた存在です。サークルなどの前身になるものは、特にありません。

   私は中学高校から演劇をやっていて、地元が北区で、劇場がたくさんあったのでよく通っていて、大人になった今も仕事で脚本や声優、俳優をやっています。
   そんな中でふわふラプニカを立ち上げて、これまでも3、4回、演劇や、それっぽいことをしています。

   ウサギとSFと百合が好きです。好きなものはたくさんあるのですが、突き詰めるとこの3つです。
   ウサギは生き物としてただただ好き。キャラクターになってるウサギも好きなんですけど、ウサギだったら大抵何でも好きで、単純に深い理由はなくて、かわいいから好きなんです。ふわふラプニカのロゴも、巾着みたいな形のウサギがいて、あれは私のオリジナルキャラクターだったりするんです。ウサギを飼ったことはなくて、動物園で観たり、飼育委員をやってい時にかわいいなと思って。ウサギって全然人に懐かなくて。こんなにかわいい見た目をしているのに、たくましいなと思って、そこも私は好きです。
   SF小説をよく読むのも好きですね。映画もたまに観ます。いわゆる宇宙とか、スケールのでかいものはあんまり得意じゃないんですけど、SFってなんでもありなんですよ。柞刈湯葉さんの『横浜駅SF』はただ横浜駅が増殖して日本を覆い尽くすみたいな話。田中哲弥猿さんの『猿駅』は、猿が町に増えすぎたみたいな、とんでもキテレツな設定で、SFって何でもありなんだという、自由でキテレツなところが好きです。
   私がSFにハマるきっかけになった作品が、早川書房から出ている『日本SFの臨界点』というアンソロジーがあり、その中の『怪奇篇』と『恋愛篇』がオススメです。ご興味がある方から読んでもらえたらいいなと思います。ほんとうに重厚感がある作品から、世にも奇妙な物語に出てくるような軽くて変な感じの作品もあるので、「SFってこんなにバラエティー豊かで自由でいいんだ」と思えます。
   あとは女の子同士の恋愛が好きなんですけど、これも完全にかわいいから好きです。自分も中学高校の頃から脚本を書いていて、その中で女の子同士がお互いの感情をぶつけ合っているシーンを描くのが好きだなと、自分の作品を自部で俯瞰した時に思いました。その後にいわゆる世間で百合と言われているものに手を出したら、好きだなと思いました。

   ふわふラプニカでは、「その時その場でしかできないことをやる」というのがコンセプトです。
   例えば過去にやった公演だと、大学の建物と建物を繋ぐ廊下があって、死者や怪我人はなかったのですが、そこの屋根を崩れる事故があった時に、その事故があった丁度1年後に、1周忌の追悼をしようということがありました。屋根が崩落したことに対する喪失感だったり、場の記憶に対して、1周忌というのはその時にしかないので、再現不可能性や1回性をより突き詰めた、「その時にその場でやらないと意味が無い、意味が薄れてしまう」ということに対して、ふわふラプニカでは作品を創っていこうと思います。

第二回公演『屋根崩落一周忌祈念大道芸』の様子


   例えば劇場に舞台美術を持ち込むということは、どこにでもデリバリー出来る、どこでも出来る、どこでも出来るんだったらここじゃなくてもいいんじゃないかなと、思うことがあります。
   そこをどうにか出来ないかというか、もっと繋がりがほしいと思い、「ここじゃないとダメなんだ」という必然性が欲しいと思っていました。
   その傍らで平原演劇祭という、野外や水の上などの変な空間でお芝居をすることが多い演劇祭に出させてもらって、その場との繋がりや空間を、その場で体感していくうちに、自分でもそういうものを作りたいと思うようになりました。
   以前観たpit北/区域での『東京裁判 pit北/区域閉館公演』では、2階席から観ることが出来て、裁判を俯瞰している感覚になった時に「これは意味がある」「この建物じゃないと出来ない」と思ったこともあり、そうした必然性や演出、客席とパフォーマーの関係性や境界の無さ、断絶をなんとかしたいと、色んな演劇を観る中で思うようになりました。
   劇場と、劇場でない場所でやる公演を比較するうちに、自分の作品でも場に拘るようになりました。

肯定も否定もしないし、救われようとも思っていないし、当事者と当事者じゃない人を断絶したいわけでもない

おさべ:今回の作品のテーマがテーマなので、出演者を募集する時点で「うちは今回こういう作品をやろうと思っているのですが、大丈夫ですか」と確認できるように逆算した時に、もう脚本を書き上げないと、と思って今回の作品を進めてきています。
   「王子小劇場さんでしか出来ない演出」をしたいと考えていて、場の物語を考えた時に、王子小劇場さんの話、或いはもう無くなってしまった pit北/区域の話、劇場全体の話、王子という地域の話であったり、色々と考えて、自分が書きたいと思えるエネルギーの根源が「現実で起きたことに折り合いがつかなくて苦しい」「言語化がどうしても出来ない苦しみ」「これを外に出さないとこのまま死んでしまうかもしれないという苦しみ」を昇華することで自分が救われようとしていることなので、最終的に今回は性倒錯の話を書くことにしました。
   特殊な性的嗜好、セクシュアリティのことを書こうと思っています。昨今多様性であったり、「色んなセクシュアリティがあっていいんだよ」と言われている時代ではあるけれど、今回私が書こうとしているセクシュアリティや性的嗜好が嗜虐趣味や被虐趣味、インターネット用語で言うリョナラーという、他人を痛めつける、或いは痛めつけられることにより性的興奮を覚えるというものです。
   要するに、個人的な性的嗜好ではあるものの、やっていることが倫理道徳に反しているものなので、多様性と言われても、受け入れても大丈夫なのか、ということを、突き放しもせずに書くという作品をやろうと思っています。

   そういうものを一括りにしたらいけないと思うんですけど、こういうことにずっと私は個人的に関心を持っていて、例えばずっと昔に、王子小劇場さんでやっていたナイスストーカーさんの『ロリコンのすべて』を観た時に衝撃を受けて、あれも肯定も否定もしない作品でした。
   「ただそそういう人もいる、ということをまず知ってほしい」ということをおっしゃっていて、そうだなと思いました。
   ○とか×を付けないことは難しいけれど、そうした性的嗜好を持っていて、倫理に反するものではあるけれど、迷惑をかけないので放っておいてほしいというか、完全に断絶されたいわけでもないけど、断罪されたいわけでもないし認められたいわけでもなく「こういうこともあるんだ、へえ」というふうに思ってもらえればいいというか。
   多様性とは言うけど、頑張って受け入れるというものでもないと思うので、「あるんだ、へえ」というくらいでいいんだと思うんですよね。当事者に対して「そういうこともあるんだ」「辛いよね」「私も特殊な性癖を持っていて辛いんだ」と、「苦しんでいるのはあなただけじゃない」と伝わればうれしいなというか、自分が想像していない世界や考え方や価値観、趣味が存在している、見えていないものが見えるようになってほしい、存在していると知ってくれるだけでいい、知った上で放っておいてほしいという気持ちもあります。
   ただそういうことを紹介や提示するだけではなく、リアリティを持って、中身はちゃんと描こうと思っています。
   「苦しんでいるけどどうしたらいいか分からない、苦しんでいるんだよねえ」と、特殊な性的嗜好を肯定も否定もしないし、救われようとも思っていないし、当事者と当事者じゃない人を断絶したいわけでもないので、観る人によって感想も違うと思いますが、知識として持ってもらえたらいい、それくらいしか望んでいないです。

   私自身が劇場で公演をしたことがなくて、だからこそ劇場でしか出来ないことをやっぱりやりたいと考えています。劇場の建物じゃないと出来ない演出を出来る限りやりたいと思っていて、ギャラリーや調光室も使いたいと思っています。
   「劇場の中で劇を観ている」ことも劇の中に含めようと思っているのですが、説明しようとして出来るものでないので、観に来ていただきたいのですが、「劇場で観ている」というシチュエーションは劇場でしか作り出せないと思うので、意味があると思っています。
   王子小劇場さんは『ロリコンのすべて』をやられていたくらいなので、「私も特殊な性的嗜好について扱っていいんだ」と思い、そういう意味でも王子小劇場さんでしか出来ないことが出来ると感じています。

旗揚げ公演『思春期、フロイト/高校演劇→解脱・me』の様子

デヴィッド・クローネンバーグ監督の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』

――最近すごいなと思ったものについてお聞かせください。

おさべ:デヴィッド・クローネンバーグ監督の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』です。
    近未来を扱うSFで、痛みを人が感じなくなった世界。治安が悪くて色んな事件が起きている世界観の中で、主人公がパフォーマンスアーティストとして、臓器が勝手に作られていってしまう病気を利用して、「増えた臓器を取り出す手術の過程を見せるパフォーマンス」をしています。
   彼を中心として、その状況で起きているミステリー的な要素などの色んな出来事が交錯していき、「これの犯人は誰なんだ」「これはどうしたらいいんだ」ということや、ロマンス要素もありつつ、行きつくところは全然そこと関係なかったり、問題が解決しなかったりするんです。
   主人公が普通のご飯を食べられなくなっていって、何も食べられない時に、違法に作られた、普通の人間なら食べられないような有害物質がたくさん入ったチョコバーを食べた時の涙のドアップのシーンで終わるのですが、そこまでの数十分が全て布石だったと思えるような、「この一瞬を観に来たんだ」と思わされたのがすごく良かったと思いました。
   数十分があってこその一瞬だったんですけど、それを観て「すごく良いものを観たな」と思いました。

じゃあ、自分に出来ることはなにか

――おさべさんにとっての演劇の原体験、芝居初めついて教えてください。

おさべ:小学6年生の時の学芸会で、演劇をやったんですね。いっぱい登場人物が出てくるんですけど、5、6個のメインキャストはオーディションで決めるということで、私は2つくらいにエントリーしたんです。
   その場で台本を読んで演技をするというのがとても楽しくて、その場で飛び入りでオーディションに参加出来るシステムだったので、結局6個のオーディションを受けて、全部落ちてしまったんですけど、演技することの楽しさにそこで触れました。
   親がよく演劇に連れて行ってくれたので、観る方には慣れていました。北区こども劇場の会員だったので、小さな頃から演劇は観ていました。

   学芸会が楽しすぎて、中学校では演劇部に入ろうと決めていて、最初は役者もやっていたのですが、その演劇部の先輩が既成台本ではなくみんな創作台本を書く方々で、書いているところを見るうちに、私も小説を書いていたりしていたのもあって「書きたいな」と思うようになり、書いているうちに書けるようになっていきました。
   最初に書いた本は家族についての話で、家の中で事件が起こり、その事情聴取を受ける女の子が回想する形で演劇が進んでいくという内容でした。その当時、他校の演劇を観ていて暗転が多い印象で、ちょっと変だなと思っていたので、私は反骨精神とか、根が生意気というか、斜に構えているのがあり、「私は1回も暗転が無い演劇を書くぞ」という気持ちで20分の演劇を書きました。今思えば20分で暗転が起きないのは大したことではないのですが、自分が「なんか違う」とかムっとしたことから、演劇を創っていたんだと思います。

   他の劇団さんの作品を観て面白いとと思ったら、「これよりも面白いもの作りたい」「私だったらこうするかもしれない」と色々考えちゃうと、やっぱり自分も作りたい方向に働くし、自分には合わなかったとしても「じゃあ、私だったらどうするか」という方向で考えてしまいます。
   自分には合わなかったけど、たくさんの人が観にきているところをみると、悔しいなと思って、「じゃあ、自分に出来ることはなにか」と考えてしまうので、負けず嫌いなんだろうなと自分でも思います。

その体から出てきた言葉ではあれば、間違いではない

おさべ:自分が辛かったことや痛み、傷から、あるいはその場、例えば公園を観て景色がキレイだったら「ここでお芝居したいな」と思ったり、そんなところから、一番最初に、書くことを決めていきます。
   その後どうやって書いていくかというと、私の場合は、言わせたい台詞や言葉をノートに書いていって、後からそれを整合性のあるように、ストーリーになぞらえて置いていきます。
   頭の中で映画を創るというか、キャラクターデザインを創ってしまって、彼らが喋ったり動いているところを書きとっていきます。
   プロットを書く前に言わせたい台詞や状況を書き出して、登場人物のビジュアルを書き起こすということをまずやるので、漫画っぽさや、アニメから影響を受けている面もあると思います。
   実際に役者さんに演じてもらう時には、そこが一致することに期待はしていなくて、あくまで自分が書く時の話ですが、キャラクター造形に拘っていて、キャラクターがこういう背景を持って人生を送ってきて、こういう人となりでこういう言葉が出てきてというように、彼らが生きている世界や場所、血肉、体を創ってあげて、後から言葉を充てていく。
   物語の大筋は私が考えて、彼らが勝手に喋っているのを書きとりつつ、また自分の中でもプロットをちゃんと組んで、面白い感じに配置していくと初稿くらいになります。そこから余分な台詞を削っていって、第二稿くらいになります。
   脚本制作の段階としてはここまでで、実際に役者さんに喋ってもらうと、また余分な台詞が出てきて、役者さんがキャラクターを演じて出てくる言葉は「それはそれでいいか」と、その体から出てきた言葉ではあれば、間違いではないと考えて、劇作をやっていると思います。

   今回の作品のタイトルは『出血大サービス‼︎天使の羽根もぎもぎ放題-ただいまセール中-』で、今回は内容が内容なので、お客さんが来てビックリしないように振るいにかけるタイトルと言うか――今回サイコポップな感じも出したいので、お客さんにも気に留めてもらえるかなと思って、このタイトルにしました。
   目に留めつつ、振るいにかけて、サイコポップ、という3つから、今回タイトルを決めました。

事件に立ち会ったという感覚になってほしくて

――見本市2024のお客さんを、どのように芝居染めしたいですか。

おさべ:「年始からこれで良かったのかな」という思いになってほしい。
   観るということだけじゃなくて、事件に立ち会ったという感覚になってほしくて、観客とパフォーマーの関係についても興味があるので、観客をただの観客でいさせないというか、芝居の中に内包しちゃうことで巻き込めたらいいなと思っています。
   ふわふラプニカという変な団体に巻き込まれて年始から変な体験をした感覚になってくれたら嬉しいなと思っています。

第三回公演『超ヤク舞姫』の様子

――最後に何か言いたいことはありますか。

   寒くなってきましたが、皆様、体調に気を付けて、無理なくお過ごしください。
   良かったらふわふラプニカを観にきてください。

※次回は明日、ちょっとはいしゃくの虻蜂トラヲさんのインタビュー記事です。次回もまたお会いしましょう!


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