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第7回ゲスト虻蜂トラヲさん(ちょっとはいしゃく 主宰)「主人公や、これを観ている同じようなお客さんを心の底から応援したい」 聞き手:葛生大雅

年始に王子小劇場で開催される『見本市』
活動最初期にあたる9団体を選出し、ショーケース型の公演を行います
【公演詳細】
「見本市2024」
2024年1月5日(金)〜9日(火)@王子小劇場

みなさん、はじめまして。インタビュアーの葛生です。
みなさんが今回の見本市で、初めてお目にかかる団体の、
お芝居の魔法に、より染まっていただきたく思い、
「見本市2024」に参加する方へのインタビューをしてきました。
第7回目のゲストはちょっとはいしゃくの虻蜂トラヲさんです!

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【ゲストプロフィール】

虻蜂トラヲさんのプロフィール写真

虻蜂トラヲ
2000年生まれ、東京都出身。
16歳でお笑いの養成所に気合いで入学し当時最年少で卒業。18歳で高橋いさを氏(劇作家・演出家)への弟子入りをきっかけに演劇を志す。日本大学芸術学部演劇学科 演出コースに入学後、[ちょっとはいしゃく]を旗揚げ。当団体では古典から現代劇まで幅広いジャンルを演出する。https://twitter.com/Torawo_Abu8
(
ちょっとはいしゃく https://chottohaishaku.theblog.me)

団体HPはこちらのリンクから

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幸せになりたいという強い欲望

虹蜂:ちょっとはいしゃくは、新作ではなく既存の本を上演する団体です。
   小劇場や、昭和の持つ人間の熱さがすごく好きです。最近の作品は力が抜けている気がして、その中でも幸せになりたいという強い欲望が人間の内に残っていると思います。それを僕自身は大切にしていきたい、語っていきたいと思っています。

   昔の作品がただ好きというのもあります。大学1年生の時、日本大学の芸術学部演出コースで教授が言っていたことが印象に残っています。
   「俳優と演出家を成長させるには、百点の脚本を上演するしかない」という事を言っていたんです。
   新しく作った本を上演するのももちろん正解だけど、先輩方が創った技術のある本を上演することが、一番成長に繋がるような気がします。そして大学1年生の時に「成長したい」と思って昔の本をたくさん読んだ中で、「これを残していきたい」といつからか思うようになっていきました。
   過去のものになってしまう名作もたくさんあって…もちろん新しいものをどんどん創っていくのも大事な反面、名作を残していく、大切にしていく団体もあっては良いのではないかと思い、それで自分たちも成長出来るのであればこんなに良いことはないのではないかと思ったのが、団体を立ち上げた経緯です。

   自分では脚本を絶対に書かないです。
   作演の人を尊敬している上で、「自分は脚本も書いて演出もするという完璧な人間にはなれない」と思っています。なんなら、僕は自分のことをポンコツだと思っています。
   色々な人を見ていても「演出としては素晴らしいけど、脚本はちょっと」「演出はしない方が良いんじゃないか」と思うこともあって、両立させている人ももちろんいますが、僕には絶対に出来ない。

   ちなみに、虻蜂トラヲという名前は、「虻蜂取らず」ということわざから来ています。
   「ひとつのことだけやろう」ということわざなんですけど、自戒も込めて、僕は演出しかやらないと決めきっています。
   あとは黄色と黒という、幸せと不幸のイメージや、観客に爪痕を残す3つの凶暴な動物を並べたということなど、自分の中では色々な意味もありますが…。
   姓名判断ではあまり良くないらしいですけど…(笑)

フリースタイル

虻蜂:見本市2024で5回目の上演になるのですが、これまでを振り返ると80年代の脚本を扱うことが多かったのですが、作家さんを限定しない分、色んな出身や性別の作家さんの本を扱っているので、フリースタイルな団体かなとも思っています。
   俳優も毎回違うので、このフリースタイルを売りにするというか、自分の中では大切にしたいなと思っていますね。

   旗揚げ公演では2021年の6月に、つかこうへいさんの『売春捜査官-熱海殺人事件-』を扱いました。
   「女性も頑張って生きているぞ!」みたいな作品ではあるんですけど、「現代社会に置かれた女性」について描きたいと思っていたので、「日常の中で消えていってしまう1個の話」としたくて、美術を全部新聞紙で創ったりしました。
   『熱海殺人事件』という事件の中で、女性が不遇な目になっていくのですが、これを1個の消えてしまう事件だとして扱いました。
   大山金太郎がオレンジ色のつなぎを着て登場するとオリジナル演出ではなっていますが、僕は本物の囚人が着るようなスウェットを着て登場させて、なるべく現実に近づけて上演するといった形をとったりもしました。

『売春捜査官-熱海殺人事件-』劇中より
『売春捜査官-熱海殺人事件-』劇中より

     前回の第4回公演では如月小春の『DOLL』を扱って、人間の距離感が離れていってしまうから悲しくもなってしまうというところに着目して、客席を2面にする舞台にして、最初に真ん中に舞台があったのが引き裂かれていって、端と端で上演するといったり、ビジュアルで創っていっている面もあると思います。

『DOLL』劇中より
『DOLL』劇中より

演劇の世界はどうですか

――虻蜂さんにとって演劇の原体験、芝居初めはいつですか。

虻蜂:中学3年生の時に、思春期のためか、或る絶望感に襲われました。
   人生で習い事をしたことがなくて、周りはみんなやっていて、ダンスが出来るとかギターができるとか特技がある中で、自分には何もないと思って、この世にいられなくなると焦りました。
   その時に、お笑いを本気でやっている人は周りにいないと思い、16歳で入れるコメディスクールを見つけて、これで自分にも特技が出来ると思って入ったのが人生を大きく変えました。
   平均年齢26歳とかで、僕より10歳くらい年上の人達の中に囲まれてしまい、知識も何もなく、そこで挫折をしてしまいました。絶望して、もう辞めたいと思っていたのですが、「お笑い芸人にも演技が大事だ」という考えのもと演技の授業があり、その授業を担当していたのが、僕が弟子入りさせていただいている「高橋いさを」さんでした。お笑いの授業は絶望的だったのですが、演技の授業ではよく褒めてもらえて。
   授業の帰り道に、「演劇の世界はどうですか」と言ってくださって、その時にちょうど中野HOPEでいさをさんが公演をやっていて、それを観にいったのが、初めての観劇でした。
   母と2人で観にいって、初めて小劇場にちゃんと自分で選んで、スリリングに観劇した芝居初めはその時でした。作品はいさをさんが演出した、えのもとぐりむさん作の『フクロウガスム』という作品だったと思います。
   僕は最前列に座っちゃって、「こんなに近いの!?」「こんなに熱量があって面白いの!?」というのが当時の印象です。
 
   お笑いの養成所では所属も出来ずに上手くいかなかったのですが、俳優として別の事務所に所属してドラマに何本か出演できたりしました。
   その中で俳優の労働環境に疑問を持つこともあって、「この環境を変えたい」という思いが芽生えました。「自分が演出家になって、辛い思いをする役者を無くそう」と思い、僕にとって演劇の父であるいさをさんに頭を下げて、18歳の時に「弟子にしてください」と言いに行きました。雨の日に、制服姿でわざとびしょ濡れになりながら行きました。
   
   「僕は弟子はとらない」と断られたのですが、その時に横に奥様がいて、「かわいそうじゃない」と奥様が説得してくれて、なんとか弟子入り出来ました。

破壊から始まる創造

――今回の作品について教えてください。

見本市2024参加作品「ダイエッター」フライヤー

虻蜂:今回扱う本は、古城十忍さんの『肉体改造クラブ-女子高生版-』の中にある、『ダイエッター』という作品です。
   最近もSNSを見ているとキレイだったりカッコいい人がいて、「自分なんてダメだ」とか、「変わらなきゃ」という圧迫感を感じていて。ただ、それは当時からあったんだと思うんです。『肉体改造クラブ』にあるのは古城さんからの啓蒙に僕は感じられて。
   一方で逆説的に、「肉体改造をしなきゃ」と圧迫されたとして、それで肉体改造を出来るというのは、すごいとも感じています。
   自分を壊してまで自分を変えようという、何かを破壊することでしか人は変われなくて、ありえないくらい勇気も必要で、恐ろしいことも付き纏うと思うのですが、それでも突っ切る人を尊敬しています。僕はそれが出来ていないと思うんですよ。
   主人公や、これを観ている同じようなお客さんを心の底から応援したいと思って、この本を選びました。
   
   テーマが「破壊から始まる創造」だと思っていて、舞台上のすべてにそれを持ち込みたいと思っています。
   美術でもアプローチします。僕は台詞を変えない主義なのですが、台詞を一言も変えずに、本の内容すら超越して、俳優や僕の持っている力の限界すら壊してステージを作り上げたいと思っています。
   「これをやったらダメかもしれない」ということも、「これで1個進むなら」と考えて、やってみようと思います。こういうことをやっていかないと、この作品は立ち上げらないのではないかと思います。

   師匠のいさをさんが作家さんで、大学時代の作家友達もいるというのもあり、執筆の苦悩が想像出来るんです。この一文、このト書きを書くのにどのくらいの労力が使われて、苦しい思いをしているか知っているので、僕らが3秒で読める台詞も3秒では生れていなくて、僕が唯一出来るリスペクトだと考えて、普段から台詞はなるべく変えないようにしています。
   ト書きを完全に再現することが出来ないこともありますが、なんらかの形で応えようと思っていますし、これからも台詞を変えるということはなるべくしたくないと思っています。

   現代演劇には合っていない考え方なのかもしれないのですが、命を削ってやっている作家さんに対して、僕が唯一出来ることだと感じます。

王子で出会った方々と王子でブチかます!

虻蜂:11月の初めくらいから、今回の作品の稽古を始めました。
   自分で勝手に決めたルールですが、王子小劇場主催の合同オーディションで出会った人と、「ここで変わってやろう」「脱出してやろう」と王子でぶちかましてやるという理念があります。
   稽古をやっていて、「この人達となら、最高のお祭りが創れるのではないか」と思っています。
   今までは制約が無い中でやってきて、今回は20分~30分の制約があるというのは初めてですが、そのくらいの長さで終わる本を選んだので不安はありません。
   
   稽古場ではいつも、シアターゲームを絶対にやっていて、1時間くらいやります。
   ただやるだけではなく、僕なりに攻略法も伝えたりしながら、ゲームを突き詰めています。シアターゲームが上手い人で演技が下手な人はなぜかいなくて、ほぼ全部のシアターゲームはコミュニケーションをもとに成功を掴むものだと思っているので、人と上手くコミュニケーションを取ったり、距離をとったり、的確な時に的確な言葉を出せる人が勝てる。
   昭和の戯曲を読んでいる時に、人とのコミュニケーションがより密な気がして、僕が行きついたこととして、シアターゲームが上手くなれば芝居も上がると考えて、絶対にゲームの時間を1時間とっています。

  「基本的に演出家の仕事はラーメン屋の店主と言ってもおかしくない」と思っています。
   自分の家で野菜を育て、小麦をつくり、ラーメンを作る人はいない。どこかから発注した食材を使って、「どう使えば1番良いものが出来るか」を考えるのが演出家の仕事で、「素材の味を活かす」ということを考えています。そのため、基本的には役者さんやスタッフさんに託しています。
   「この線を越えないでください」などのオーダーをした上で、役者さんにプランを持ち込んでもらって、まず採用したりもしながら、「今やっている感じだとAに見えます」などと伝えるなどして、整えていく形で稽古は進めています。

人間がほんとうに好き

虻蜂:僕は映画がすごく好きです。演劇よりも観ています。年に100~200本は観ています。
   ただ、「好きな映画は何?」と聞かれるとうまく答えられなくて…。ちょっとはいしゃくがフリースタイルであることに繋がるのですが、映画でもゲームでも特定の作品というよりもその全部が好きです。「このジャンルにはこの良さがある」「この作品にはさっきの作品からは得られないものがある」というような。

   人生で何が1番好きかというと、人間がほんとうに好きです。
   苦手な人はいても嫌いは人はいなくて、無人島に何か持っていくとしたら、誰でもいいから人を1人くださいというくらい人間が好きです。

――見本市2024を観に来たお客さんを、何で芝居初めにしたいですか。

虻蜂:破壊で芝居初めにします。破壊します。

※次回は明日、三転倒立の森山千代さん、竹内日菜乃さん、狩野瑞樹さんのインタビュー記事です。次回もまたお会いしましょう!


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