見出し画像

月イチ純文学風掌編小説第五回 「JACKPOTに届かない」前編

はじめに

こんにちは。吉村うにうにです。普段はエンタメ系の小説を書いております。たまには純文学っぽいものを書くかと、こちらの企画を始めました。もう五回目となりました。きっかけはこちら

純文学って? よくわかっておりませんが、とりあえずマイルールを作って縛りました。今回はこれ

①文章の美しさを意識する(少しでも。これはエンタメ小説にも生きるはず)。文章が美しくなるなら、主語を省略して、誰の台詞かという分かりやすささえ犠牲にする。
②オチ、ストーリー展開を気にしない(してもいい)。意味分からないことも多いでしょうがゴメンナサイ、解説何処かで入れるかもです。入れたら無粋かな?
③心理描写を(できるだけ)書かずに、風景や行動で伝えようとする(これは作家さんによります。太宰治さんなんかは心理描写しっかり書いているようですが、川端康成さんはあまり書かないように見えます。)
④会話文の終わりに〇をつける。
いつものルールにつけ加えて
⑤副詞を多めに使う。今回は、いつもはおざなりになっている副詞をちょっと多めに使い、文章の情感を伝わるようにしたいと考えています。

今月の掌編は「JACKPOTに届かない」です。今月は忙しくてギリギリまでアイデアが浮かびませんでした。なので、前編だけ。

今回は、連用中止法を特に減らしておりません。こちらもやや幻想的なイメージを楽しんで頂けたらと思います。

それでは純文風に描いた作品です。どうぞ

  JACKPOTに届かない
                       吉村うにうに
 プッシャーが下がった時を狙って、コインを投入口にえいと押し込む。コロコロとレールを通ったコインがくるくる回って、偽の貨幣の上に重なる。その頃には下がっていたプッシャーが、コインの山を押し出し、多くはサイドポケットからあふれ出て、深淵へと消える。
 学生の宇似は、スティールのカウンターチェアに足を組んで座り、ガラスの向こうの、自分の手には届かない世界の出来事を見つめていた。左手はガラスに添わせて、肘でコインがまばらになったカップを押さえている。右手は常に保持している三枚のコインのうち一枚を投入口の縁にかけていて、次のチャンスに備えている。その目はひたすら前後に規則正しく邪魔者を押し出すプッシャーを追い、チェアの足かけ部分には置かれた足は、小刻みな動きでプッシャーのリズムを数えている。
 コインを投入するのを一旦中断し、上にある電子画面に視線を移して、点灯しているランプを確認する。今点灯しているランプは六つ。あと一つでジャックポットの抽選だ。彼は残るコインの数を数える。
 ゲームコーナーの隣はパチンコ屋で、コインの落ちる音は、隣の音楽とパチンコ玉の音にかき消されてほとんど聞こえない。反対側にはガラス扉に貼られたカラーシール越しに日の光が射し込んでくる。その光が時折すっと途切れることで、彼は、自分のゲームの進行具合を覗かれていることを意識する。だが、彼の周囲の行き交う人たちは、都会特有の『儀礼的無関心』のルールを守って決して長くは立ち止まらない。その流れては途切れる視線にはまったく妨害されることなく、半ば無意識にコインを投げこんでいた宇似だった。しかし、斜め後ろに動かぬ目があることは、コインを持つ手を微かに震わせる。
 首を微かに動かして視線の主を目の端で捉えた。顔は判別できないが、黒くて長い髪。彼は緊張した頬を少し緩ませた。
                                                                                        (つづく)



書いてみて

 いや、副詞はちょい意識しましたが、今のところはいつもの文体とそれほど違わないような。でも、時間を止めて描写している感覚はあると思います。

最後に

こちらの物語は、10月も続きます。読んで下さるとうれしいです。
ここまでおつき合い下さり、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?