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お母さんになるあなたへ

後輩ちゃんが妊娠した。

「次お逢いしたとき、いい報告ができるかもしれません!」
文面と語尾のキラキラした絵文字に、嬉しさが滲み出ている彼女からのLINEを見て、なぜか動悸が激しくなった。
結婚して家も買った後輩ちゃんの、次のいい報告って言ったら”妊娠”に決まっている。
「何?気になる~!」と返信しつつ、今言えないってことはまだ安定期じゃないのかな?次、どんな顔して逢えばいいんだろうと、私は心ここにあらずだった。

アラサーともなると、子どものいる知り合いはどんどん増えていくわけだが、ここまで身近で仲のいい友達がお母さんになるのは初めてだった。
正直、喜んでいいのかどうかわからなかった。
後輩ちゃんがずっと子どもを欲しがっていたのは知っているし、どう転んでもおめでたいことなのだけど、私自身が出産&育児に対して前向きではないからだ。

お腹の中に赤ちゃんを宿すということは、お酒も飲めず大好きなお寿司も食べられず、悪阻などの体調の変化やマタニティブルーに苦しんで、無事に約10ヶ月が経過すれば激痛を伴う出産が待ち受けているということだ。
産まれたら産まれたで、ボロボロの身体のまま壮絶な育児が始まる。
それに命を産み落とすということは、命のやり取りでもある。母も子も命を落とすリスクだってないとは限らない。
他にもお金がかかるとか、増えた体重を戻すのが大変とか、育児に対する温度差で不仲になる夫婦もいるとか、ちょっとした不注意で死なせてしまったらどうしようとか、大小さまざまな不安要素がありすぎる。

昔と違って選択肢が増えたこのご時世で、その不安を抱えてまでも子どもを望む気持ちがあるというのがスゴいことなのだ。
普通の幸せとされている人生プランを、ごく自然に歩める人たちのお陰で世界は成り立っている。
彼女らはこの世の宝だなと、他人事のように思う。


イツメンのお泊まり女子会で、予想通り後輩ちゃんから妊娠の報告があった。
悪阻のせいで痩せて顔色は悪かったが、本当に幸せそうだった。
それを見て、すんなり「おめでとう!」という気持ちが口から飛び出ていた。
(あの予告LINEがなければ、私はその場で固まってしまっていたかもしれない)
パッと見はまだ変わらないのだけど、本来の彼女のやさしさと強さが一回り大きくなったように感じる。自分以外の命を預かる覚悟が、既にできているようだ。
「ちょっと制限は増えますけど、今後も変わらずに遊んでくださいね!」と言って別れた彼女の後ろ姿を見送って、落ち着くまで逢えないかもなと寂しく思った…のが嘘のように、月1以上顔を合わせている。
こちらが遠慮してもガンガン誘ってくれるのだ。

後輩ちゃんは、逢う度にお母さんの顔になっていく。
悪阻がひどくてシャインマスカットしか食べられない、高くつくと嘆いていた。でも仕事をしている間は大丈夫だから、ギリギリまで働くんだと。
食欲が回復したと連絡があり、タルトを食べに行った。
赤ちゃんが女の子であることがわかった。どうか母親似であれと願った。
「痩せる未来しかないんで」と強気で買っていた、ワンサイズ小さいスカートを封印して、ゆったりとした服を纏うことが増えた。
お腹の膨らみが明らかにわかるようになった。

そういえば、安定期に入った途端、夫が1人で旅行に行ってしまい、私が倒れたらどうするつもりだったの?と説教をしたと言っていた。
それは非常識だと私も憤慨したが、一方で男性が父親の自覚を持ちづらいというのは、少しだけわかったような気がした。妻の変化に気づくことでしか、赤ちゃんの存在を感じられないのだから。
私も「無理しないでね」「できることがあったら何でも言って」と言いつつ、後輩ちゃんがお母さんになっていくのを戸惑いながら見ているしかなかった。
電車に乗ったら全力で彼女の席を確保するくらいしかできなかった。

来月、後輩ちゃんは予定日1ヶ月前にしてやっと産休に入るという。
「暇なんで遊んでください!コナン観に行きましょう」というLINEに彼女らしさを感じつつ、いよいよだなと思った。


あぁ、愛しの後輩ちゃん。あなたはきっといいお母さんになるだろう。
これからたくさんの喜びと大変さが同時に押し寄せてきて、目まぐるしい日々が待ち受けている。
たとえどんなにしんどくても、我が子のかわいい寝顔を見るとなんでも許せちゃうのだと聞く。大丈夫、あなたは立派に乗り越えるよ。
そのうち、共通の悩みをわかち合えるママ友も増えていくだろう。
でも、もしその中でふと孤独を感じたら、いいお母さんを演じることが苦痛になったら、いつでも私を呼んでほしい。すぐに駆け付けるから。
赤ちゃんの夜泣きで眠れなくなったら電話して。限界を迎える前に話を聞こう。
見た目以上にしっかりしてて勝気で、あまり弱みを見せない後輩ちゃん。ここぞとばかりにどんどん甘えてね。

出産も育児も経験がなくて何も力になれない先輩だけど、だからこそ私は、彼女が母という立場を忘れられていられる存在でありたいと思った。

(赤ちゃんと初めてご対面したとき、泣いちゃいそうでやばい)


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