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経済都市ジェノヴァの興亡

代々木ゼミナールの元世界史講師宇山卓栄氏の著書『経済で読み解く世界史』を先日ブックオフの割引コーナーで見つけて買ってきました。経済という一本の縦のテーマから世界史の有名な事件や人物を解説する内容で、なかなか面白いです。

なぜ大航海時代にヴェネツィアではなくジェノヴァが経済の中心地になったのか。大変興味深い論点だと思います。宇山先生は主にフェルナン・ブローデルの『地中海』を引用しながら解説しています。歴史学を少しでも囓ったことがある人なら必読文献ですねー。

当時、ヨーロッパでは南アメリカ大陸(いわゆる「新大陸」)から大量の銀がもたらされたことから価格革命が進行し、激しいインフレに苛まれていました。今の世界経済にちょっと似たところがあります。

そんな中、新興国ポルトガルの経済都市ジェノバは低金利を維持し、「ジェノバ債」が飛ぶように売れました。イタリア諸都市は5%前後、オランダが10%前後、フランスが15%前後だった中、ジェノバ債は3~4%と低く抑えることに成功していました。

ジェノヴァは神聖ローマ皇帝としてアウグスブルクのフッガー家とともにスペイン出身のカルロス1世を擁立し、彼はフランソワ1世に資金力の違いを見せつけながら神聖ローマ皇帝カール5世として就任しました。

皇帝の権威を背景にしてジェノヴァはさらに勢力を拡大していきます。日本にポルトガルの商人がやってきたのも、ちょうどこの頃でした。ポルトガルは特に香辛料貿易で莫大な富を稼ぎ出していました。ジェノヴァはポルトガルやスペインに高金利で航路開拓のための資金を貸し付けていたので、香辛料貿易で得られた利益のほとんどがジェノバへと吸収されていきました。

つまり、ジェノヴァはスペインやポルトガルの国家には高金利で資金を貸し付け、ヨーロッパの富裕層や投資家には低金利の利払いしか与えていなかったのです。相当なやり手ですね。

しかしながら、17世紀になるとポルトガルはオランダにその海外権益と覇権を奪われていきます。香辛料の輸入量を増やすほど需給バランスが崩れ価格が崩れるという悪循環に見舞われており、ジェノヴァへの負債額も相当な額にのぼっていました。最後のダメ押しになったのが、16世紀後半のモロッコ征服失敗です。ポルトガルはイスラム王朝に敗北し、事実上のデフォルトを起こしてしまいました。その結果、ポルトガルはスペインに吸収されてしまいました。

ポルトガルの膨大な負債はスペインが引き継ぐことになります。(続く)




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