「初音の馬場」−広景の写実性−『江戸名所道戯尽』
ここ二日定期的な体調不良で瀕死だったので描く体力がありませんでした。
いいかげん、何年も続く物だからうまく付き合っていかないととは思いつつ、うんざりしますね。
そんな嫌気の溜まる今日も広景。今回は『江戸名所道戯尽』の「四十二 初音の馬場」です。
◼️ファーストインプレッション
これまた盲目の男性が犠牲になっていますね。
染め物が干してあるところに首を引っ掛けてしまったようですね。
まさか人が通る位置に染め物が干してあるなんて思いませんよね。
懐に入れてあったお金の袋も溢れて貴重な銭が落ちてしまっています。
犬もそれに驚いて前足が浮いています。
その様子を見ている手前の二人組は笑うでもなく、心配してどうにかしようとしているように見えます。
二人は染め職人でしょうか。彼らのはっぴには「初音」や「初」マークが記されていますね。これまでこういったマークには絵師が版元を宣伝する意味を込めて版元のマークを記しますが、今回は版元贔屓は特にないそう。
今回は初音の馬場のこの反物干しの光景を見ていきたいと思います。
◼️反物干し×浮世絵
実はこの広景の絵は広重の同じ場所を描いた作品に酷似しているようです。
広重の『名所江戸百景』の「馬喰町初音の馬場」です。
後ろの火の見櫓や枝垂れた木が全く同じ光景ですね。
広景はここを訪れたという可能性は低く、広重のこの作品を模倣して、個性的なキャラクターを配しているようですね。
枝垂れた木はやはり広重の方がリアルだし、瑞々しく描かれています。
それに比べて広景の自然描写は少し雑な気がします笑。
手前の枝垂れた木の葉はアニメちっくだし、右奥の木は枝が描かれているだけで緑に塗りつぶされています。
広景の場合は風景画としてというより、人物たちの滑稽性がメインなのでそこまではこだわっていなかったのでしょう。
『江戸名所図会』第一巻の「馬喰町馬場」の挿絵です。
真ん中の火の見櫓はとてもシンボル的ですが、馬喰町馬場の名所的な物だったのでしょう。
広景の作品にも広重の江戸百にも描きこまれていますね。
この火の見櫓の奥の広い土地がきっとこの反物を干すのにちょうどいい場所だったのですね。
馬場なんだろうけれど馬が1匹もいないですね。
『江戸名所図会』の本文の箇所にこのように図が載っているのも珍しいですね。
広大な土地は馬場で「追廻し」と描かれており、馬を追うためにこの形になったとのこと。
火の見櫓がこの楕円形の上にありますが、上の挿絵と少し位置関係がおかしい点には目を瞑ります、、、。
広重の『絵本江戸土産』六巻「馬喰町初音馬場」です。
このエリアはやはり火の見櫓が一番の見ものでシンボル的な建造物なのだったのですね。
上の文章には柳が数樹あること、馬術がどうのと書かれているので馬場で馬術の練習をしていた光景も見られたのでしょう。
広重は実際にここを訪れているはずなのでこのように細部描写が文字にも起こされていますが、広景は訪れている可能性は低いので柳と火の見櫓という二つの情報だけを取り入れていましたね。
広重と広景の比較も非常に面白い物であるかもしれません。
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