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スポーツと疾患

運動•スポーツ×内科,medicina,57(7):2020を読んで、アスリートや成長期のアスリートが気を付けなければならない疾患について勉強しました。

アスリートだけでなく、幅広い世代のスポーツマン、スポーツウーマンに向けた内容で盛り沢山となっていましたが、中でもアスリートと対面する機会があれば気を付けてみてみたいなという症状もいくつかあったので、薬剤師として対面したときを想定して少し考えてみました。

薬剤師としてのかかわりについて考える

 文章を読み進めてみても、

スポーツ疾患に関わる部分は、

「トレーニング」「食事」「休養」「メンタル」

といった部分で、これらの要素の質が低下するとスポーツ内科系疾患につながるといった内容でまとまります。

関わる領域としても
【 整形外科 】【 婦人科 】【 内科 】【 スポーツ栄養士 】
というwordは出てきますが、「薬剤師」というワードは他職種からなかなかでてきません(かろうじて ”アンチドーピング” という言葉は出てきたかな)。

スポーツファーマシストよりも、スポーツ薬剤師(スポーツ薬剤)の方がわかりやすくていいのかな?

なかなか難しいですが、「アンチドーピングは薬剤師まかせ」となるように薬剤師ができることをアピールしていく必要性を感じました。

特に気になった疾患

■ スポーツ貧血
■ 運動誘発性気管支収縮(EIB)
■ 月経周期とパフォーマンス / 無月経
■ スポーツメンタル(うつ病)
■ オーバートレーニング症候群(OTS)
■ その他

アスリートはその高い心肺機能、身体能力によって症状がマスクされ、自覚症状が目立ちにくいこともあるため
→ 受診が遅れやすい → 内科的メディカルチェックも必要

また、各種疾患の診断には、除外疾患の鑑別が必要となる。

■ スポーツ貧血 【有病率】5〜25% 

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貧血がスポーツをやっている人の中でここまでメジャーな疾患だとは知りませんでした。栄養の部分とあわせてみていきたいと思います。

なぜ貧血になるのか?

1)鉄需要増加
2)鉄摂取不足、吸収低下
3)鉄喪失増加
4)溶血に関連するもの

1)鉄需要増加

2)鉄摂取不足、吸収低下
 ・吸収低下:四肢に血流が優先され、腸管の血流が制限を受ける
 =運動により鉄の吸収が低下
 ・ヘプシジンによる吸収障害
 =運動後の鉄吸収が低下

運動時のグリコーゲン貯蔵によりIL-6の運動後の増加が異なることが示されている

炎症性サイトカインIL -6 の増加

ヘプシジン(鉄の取り込みを抑制する)発現増加

利用可能エネルギーが不足していると、鉄が十分にあってもHbの合成は進みにくいため、鉄のみでなく食事全体を見直していく必要があります。

【参考資料】
* 運動前の十分なエネルギー摂取が、筋グリコーゲンを維持することによって運動誘発性のIL-6を減少させる
(Nutritional Interventions and the IL-6 Response to Exercise.FASEB J,31(9):3719-3728,2017.)

これを考えると、貧血においても鉄分だけでなく運動前・中・後のグリコーゲン摂取の大切さがわかります(大塚製薬ホームページより)。

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詳しくはこちらのサイトをご覧ください。

ー 食事のPOINT!! -
過度のトレーニングを行うと鉄の消耗が増加しますし、それに見あった分だけ食事から鉄を摂取(15mg~18mg/日鉄摂取推奨)しなければ鉄欠乏となる(需要と供給のバランスを保つ)。また鉄だけの摂取では不十分で摂取カロリーや運動前・中・後のグリコーゲンの摂取も大切。

エネルギーに関しては栄養の部分でも記載がありました。特に女性で問題になるエネルギー不足のようですが、男性でもみられるようです。
REDーS(Relative Energy Deficiency in Sport)
相対的なエネルギー不足
https://www.waseda.jp/prj-female-ath/problem/red_s/

3)鉄喪失増加
 女性アスリート=月経による失血
 発汗からの鉄喪失 2〜3L/日の発汗で1mg/日の鉄喪失になる
 腸管からの微細な出血
4)溶血に関連するもの
 足底への繰り返す衝撃が原因で物理的な赤血球破壊が亢進する

どんな症状がみられるのか?

息切れ、動悸、めまい、倦怠感、易疲労性、頭重感
(※代表的なもの 息切れ
通常の貧血と変わりないが、パフォーマンスの低下につながる
※長距離競技や駅伝など行っている方で多い。

 言葉で記載するとこのような症状なんですが、実際にそういった人に会ったことが無いので、何となくイメージが湧きません。また、通常の貧血であれば徐々にHbが低下した場合、それに少しずつ身体が慣れてしまい自覚症状としても気づきにくいのが一般的だと思います。

採血以外にHb推定値を測定する機器もありトップアスリートでは使用している方もいるようですが、メーカー希望小売価格が398,000円と高く現実的ではありません。

やはり、自覚症状としては気づきにくいものなので、普段と違う息切れやスランプを感じたら病院を受診し採血をしてもらう(Hb、フェリチン)という流れがいいのかなと思います。

~ Hb(ヘモグロビン)正常値 ~
男性 13 g/dL、女性 12 g/dL
(アスリートの目安: 男 14g/dL、女 12.5g/dL :やや高め)
フェリチン 下限値 男30μl/ml、女20 μl/ml

一番よくないのが、自分で貧血だと判断して鉄分を過剰に摂取してしまうことです。大学女子陸上長距離選手におけるサプリメントの摂取状況について調査した報告*では、全体の69%が鉄サプリメントを摂取しており、アミノ酸(39%)、次いでビタミンC、マルチビタミン、プロテイン、カルシウムと続いており、持久力をつけるための鉄サプリの摂取が多くなりがちなことが予想されます。

【参考資料】
* 大学女子陸上長距離選手におけるサプリメントの摂取状況.体力科学,52 (5):631-638,2003

鉄過剰になるとどういった症状がでるのか?

鉄が過剰になると、肝臓、心臓、すい臓などに鉄が沈着して臓器障害を引き起こします。
 肝臓:トランスアミナーゼ上昇、肝線維化、肝硬変
 心臓:収縮機能低下、左室駆出率(LVEF)が低下
 すい臓:β細胞破壊に伴う耐糖能低下、糖尿病

1日あたり鉄分の耐用上限量
男性 50mg、女性 40mg

基本的には、フェリチン、Feなどが基準値内の場合、鉄分を追加で摂取してもパフォーマンスが上昇することはありませんので、いいことは何もありません。

【スポーツ貧血 ”小まとめ” 自分なら何をチェックするか!】
①持久系のスポーツをしている人に、息切れ、パフォーマンス低下を確認
②サプリメントの摂取の有無を確認(鉄サプリに注意)
③病院での採血もすすめる(Hb,フェリチンで診断)
④鉄が不足する仕組みを最後につたえて食事の是正を栄養士へ

■ 運動誘発性喘息 【有病率:5〜20%】

(EIB:exercise induced bronchoconstriction)

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運動誘発性気管支収縮:運動で誘発される咳嗽 
喘息の有無にかかわらず発症するが、コントロール不十分な喘息患者での発症率が高い

どうしておこるのか?

運動により換気量が増える
→乾燥した大量の空気により気道表面の水分が奪われる
→気道表面液(airway surface liquid:ASL)が高浸透圧になる

POINT!! 「湿度」「換気量増加」

 北京オリンピックおよびアテネオリンピックに参加したアスリートを対象とした研究では、喘息のTUE申請に最もよく関連するスポーツは水泳(18%)、サイクリング(16%)、トライアスロン(12%)、五種競技(13%)、ボート競技(7%)であり、対照的に、体操、フェンシング、セーリングなど、持久力を必要としない種目のアスリートの喘息の有病率は5%未満であったとされています*

【参考資料】
* Prevalence and characteristics of asthma in the aquatic disciplines.J Allergy Clin Immunol,136(3):588-94,2015

これをみていると、換気量が増える持久系のスポーツで起こりやすく、湿度を考慮すると、夏のスポーツよりも冬のスポーツの方がさらに起こりやすいことが予想されます。

対応:
運動前後でのピークフロー測定(呼気最大流量:1秒間に吐き出す息の量)

運動前の短時間作用型β2刺激薬(SABA)
・長時間作用型β2刺激薬(LABA)
・吸入ステロイド薬(ICS)
・LT受容体拮抗薬(LTRA)
運動前の肥満細胞安定化薬インタール、抗コリン薬吸入

禁止物質には注意

喘息の吸入薬についてはこのNOTEでも書いてます。β2作用薬の中には禁止物質に該当するものがあります。

【運動誘発性喘息 ”小まとめ” 自分なら何をチェックするか!】
①まずは喘息のコントロール維持(症状改善後も定期的な吸入推奨)
②持久系のスポーツでは注意
③夏より冬に注意
④やはり禁止物質に該当する薬ではないことを確認!

■ 月経周期とパフォーマンス / 無月経

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女性の問題となるので、男性である私には薬剤師としても踏み込みにくい領域ではありますが、女性アスリートの競技能力の向上のためにはとても大切な部分だと感じています。

~ 問題となる症状 ~

【PMS(月経前症候群)】
浮腫、イライラ、腰痛、乳房痛、頭痛、下腹部痛、肌荒れ、体重増加、食欲亢進、眠気など
【月経困難症】
子宮内膜で産生されるプロスタグランジンの過剰産生で痛みを伴う
月経困難症には、子宮内膜症、子宮筋腫といった疾患が隠れている場合もあるため、受診してきちんと診断してもらうことも大切です。

一時的調整法:次回の月経だけを調整する「中用量ピル」
継続的調整法:年間を通して継続的に月経を調整する「低用量ピル」

症状を認めるアスリートには、一時的調整法ではなく継続的調整法を勧める
けがをした際には服用を中止するなど注意が必要な場合もある。
(ピルに関してはアンチドーピング的には問題ありません)

OC(oral contraceptives)、LEP(low dose estrogen progestin)による血栓リスク

 PMSや月経困難症の症状緩和により運動パフォーマンスが向上すること、規則的な月経周期が得られることによりコンディションのコントロールが容易になることなどを考えると、女性アスリートにはLEPの服用が推奨されますが、やはりOCやLEPについてインターネット検索すると「太りやすい」「血栓」といったワードがどうしても出てきて服用を迷うきっかけとなってしまいます。

太りやすいと言われたのはずっと昔の話のようで、服用開始からホルモンの状態が安定するまで3か月程度要すると言われていますが、最初の1~2か月に人によってみられる「むくみ」が体重増加とみられることがあるようです。服用を続けることにより元に戻ると言われているのでこれは問題なさそうです。

血栓のリスクは?というと、FDA(アメリカ食品医薬品局)のサイトで
FDA Drug Safety Communication: Updated information about the risk of blood clots in women taking birth control pills containing drospirenone
(ドロスピレノンを含む避妊薬を服用している女性における血栓のリスクに関する情報)

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1年間 10,000人(1万人)の女性を追跡した結果、血栓が発生する可能性
〇普通の人    : 1~5人   (0.01~0.05%)
〇ピル服用者   : 3~9人   (0.03~0.09%)
〇妊娠中     : 5~20人  (0.05~0.2%)
〇出産後12週間 : 40~65人 (0.4~0.65%)

普通の人と比べてリスクは上がりますが、それほど高いとも言えず、妊婦さんに比べるとかなり低い確率だということがわかります。(ベネフィットがリスクを上回るであろうという結論)

ただし、きちんと血栓症に対する注意は必要で、発症時期については服用開始3か月までに多くみられる(服用開始 3 カ月までが最も発症頻度が高く、以後低下し、服用開始から 1 年半を過ぎるころからほぼプラトーになる)ため、特に服用初期の定期的な受診は大切です。

また、けがによる外科的治療、長期安静を強いられる場合にも血栓のリスクに注意する必要があります。

【月経周期とパフォーマンス ”小まとめ” 自分なら何をチェックするか!】
①太る、肌荒れ、血栓などOC,LEPの誤解を解く
②貧血 ⇔ 月経困難症の流れもあり得る
③けがをした場合の注意点も伝えておく

無月経も全身に影響する

アスリートの無月経=続発性無月経
運動性無月経過度の運動負荷による身体的・精神的ストレスが原因で生じます。(3ヶ月以上月経が停止している状態)

長期的には、骨粗鬆症や心血管イベントのリスクが上昇すると言われています。

■ アスリートのうつ病

キャリアでの怪我、競技での失敗経験、キャリアの引退、疼痛、個人スポーツがきっかけとなって発症する場合があります。

【 治療法 】
◇ 認知行動療法
◇ 運動療法
◇ 薬物療法
*うつ病治療ガイドラインでは軽症例に対して併用による運動療法の推奨が初めて記載された。
*週三回以上、中等度以上の運動が推奨されるとしているが、同時に一定した見解はないとも述べられている。
*運動パフォーマンス低下に直接関わるような作業を有する薬物療法に消極的となる傾向がある。
 抗うつ薬:消化器症状、体重増加、傾眠
 ベンゾジアゼピン系薬物:鎮静作用、筋弛緩作用
【アスリートのうつ病 ”小まとめ” 自分なら何をチェックするか!】
①パフォーマンスに影響を与える副作用により薬物療法を中止しないように支援する
②アンチドーピングに抵触する薬物として中枢神経刺激薬、β遮断薬などごく一部でみられるようなので、使用薬剤毎にチェックする


■ オーバートレーニング症候群(OTS) 【有病率:5〜64%】

無題

過剰なトレーニングの繰り返し(超回復期を待たずに高強度のトレーニングを続けること)でパフォーマンスが低下し、容易に回復しなくなった慢性疲労状態と定義されています。

少なくとも3〜4週間以上の休養をとってもパフォーマンスが戻らない

【主訴】気分障害を伴う原因不明のパフォーマンス低下
その他症状:抑うつ気分、意欲減退、食欲低下、不眠、焦燥感、不安、集中困難、動悸、息切れ、全身倦怠感、立ちくらみ、血圧上昇、筋肉痛、疲労回復遅延、易感染性

OTSの症状は多岐に渡り難しいですが、

確立された診断指標はないが、参考指標はある
 血中乳酸値 OTS=最大乳酸値が通常時に比べて低下する
 心拍数 OTS=最大心拍数が低下する トレーニング前•中でモニタリング
 POMS 気分スコア
総合的に判断し早期発見

また、段階を踏んで悪化していくので、その途中段階で発見したい

急性疲労AF(回復期間 1日~数日)

機能性オーバーリーチングFOR(回復期間 数日~数週間)

非機能性オーバーリーチングNFOR(回復期間 数週間~数か月)

OTS(回復期間 数か月以上)
【オーバートレーニング症候群 ”小まとめ” 自分なら何をチェックするか!】
①採血指標があるため、疑ったら受診勧奨がまず第一
②段階があるので、早い段階で気づいてあげられるように普段との違いを感じ取る

■ その他

そのほかにも、アスリートを悩ませる症状はいろいろとあるようです。このあたりは簡単にまとめたので、覚えておいて今後に活かせればと思います。

1)脇腹痛、過敏性腸症候群

1-1)走っている時にお腹が痛くなる:脇腹痛
ETAP(exercise-related transient abdominal pain)

これは自分が運動していてもたまにあります。準備運動が十分でなかったり急に動いたりした場合、食事・水分をとってすぐに動いた場合などに起きやすいような気もしますが、はっきりとした原因はわかっていないようです。

【対策】
運動開始2時間前の食事摂取、ハイパートニック、炭酸を控える
腹膜や横隔膜の刺激を減らすため、体幹トレーニングをする

【改善策】
痛くなった側を伸ばすように体を倒す事で腹腔内にスペースができ、痛みが改善する可能性がある

この改善策は今度起きたら是非やってみたいと思います。

1-2)過敏性腸症候群

試合前など、緊張してお腹が痛くなる
ストレス、プレッシャー→脳から「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン」が放出され、これが腸の動きに変化をもたらすと言われています。

長距離陸上選手を対象とした調査では、
排便状態と競技成績が関わっていると思うと回答した人は70%にも及んでいます。

パフォーマンスにどれほど影響するかは分かりませんが、影響する可能性があれば受診をすすめたい症状の一つです。

過敏性腸症候群(IBS)ガイドラインで、エビデンスレベルAに該当する薬は禁止物質に該当していないのか?
●ラモセトロン(イリボー®):該当なし
●ポリカルボフィルCa(ポリフル®、コロネル®):該当なし
●三環系抗うつ薬、SSRI:該当なし
この他、エビデンスレベルBに該当する薬も数多くあるため、実際の使用薬剤に応じて該当の有無を判断する必要があります。

2)めまい立ちくらみ

【原因】
運動時、運動後だと 貧血、脱水、低酸素、降圧薬(β遮断薬など)の服用など
トレーニング期、競技会前だと、自律神経の異常(交感神経、副交感神経のバランスの乱れ)

3)着色 血尿

多くの場合、血尿、ヘモグロビン尿は一過性
持続するようなら受診が必要となってきます。

運動後の溶血:血尿、ヘモグロビン尿、ミオグロビン尿
特にミオグロビン尿(横紋筋が融解されて起こる)は注意が必要

【原因】
・運動強度や運動時間の強さ、長さにより腎臓の糸球体の透過性亢進が赤血球が尿細管へ排泄される
・ランニング、ジャンプ、自転車競技など膀胱への振動、間接衝撃による膀胱出血
・コンタクトスポーツ後の臓器損傷



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