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KTS ナマ・イキvoice presents イラフェス vol.2

 夏休みが始まったばかり。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
 2023年7月21日、22日、23日の3日間、アミュプラザ鹿児島(鹿児島中央駅の駅ビル)で、イラフェスが行われました。

 昨年に引き続いて参加いたしました。ご来場いただいた皆様、スタッフの皆様、どうもありがとうございました。
 イベントの内容は、一般公募によるブース出店と、プロ枠のお仕事展の二つに分けられます。僕は後者で参加。最年長者として、何か伝えなくてはいけないと思ってこの記事を書いています。

 自分がイラストレーションの世界にハマったのは1980年代の半ば、グラフィックデザインのシーンが世の中を牽引していたという、その真っ只中でした。日比野克彦はまだ芸大の大学院生だったし、アンディ・ウォーホールや岡本太郎も健在だった。この3名、当時のビデオテープのCMに出ていた事からも分かるように、芸術と一般大衆の距離が今よりも近かった時代。今は、興味が細分化されて別の意味で近づいているんだけど、その事は後で語ります。

 小学校の頃、漫画家になろうとしてスタートした自分の画歴は、高校時代に美術の勉強を本格的に始めてから徐々にSF映画やポップアートの感覚なども混ざって自分の個性の軸を形成していきました。
 美大生の頃は、留守番電話が出たばかりの時代で、雑誌が最新情報を提供していました。書店に行って新刊本をチェックしたり、洋書を古本屋で買ったり、カメラのカタログを切り抜いてスクラップブックに貼り付けて、美術資料を集めていました。
 その中でキラキラと輝いていた諸先輩達の背中というのは、今ではちょっと想像がつきにくいと思います。ネットがなかったことが大きいと思うけど、雑誌やテレビを通して、その存在感を噛み締めていたんです。自分も早く絵が描けるようになりたいと、どれだけ思ったことでしょうか。イラストレーションの世界では、大企業の広告を請け負うことや、テレビCMを手掛けたりすること、有名なギャラリーで個展を開くことが成功実例でした。

主役のキャラクターが収集しているエネルギー源。真空パックされています。


 時代は流れて、今はネット時代。デザインは「消費されてナンボ」の世界だから、ものすごい速度で動いている。そして不景気。コンプライアンスだかなんだか知らないけど、昔のようなクリエイティブパワーをもった楽しい広告やCMを見かける機会は、ゼロとは言わないけれど、ものすごく減ってしまった。
 これは良い悪いではないけど、その代替手段的に、作家自身が自分のことをプロデュースする機会は増えてきたと思う。自分のグッズが比較的安価に作れるようになったし、鹿児島ではギャラリーを借りるのも安い(肌感覚だけど東京の25分の1)。クライアントワークなんていう、不思議な言葉も飛び出してきた。昔からあったのかな?最近特に聞くことが多くなった。いや、クライアントワークイコールイラストレーションだったから、わざわざ言うことではなかったんだよな。

 そんな時代の流れが何を生み出したのかと言えば、好きな情報だけを摂取し、好きな人に届けるというスケール感。マスを意識する機会も確実に減っている。そこには、とても濃い情報、良い作品がある一方で、作家本人達の意識がマスまで行っていないことが多い。バズって、誰かがそういう世界に連れて行ってくれるのかも知れないけれども。意地悪な言い方をするけどデザインの文脈は消失して世界が矮小化してしまった。

自然とデジタルの境界線が消失した未来で暮らすロボット犬。


 今回のイラフェスでは、自分は、他の作家達が「小さな雑貨店」のような可愛いブースを展開させることが予想出来ていた。(自分は可愛いものが好きだし、雑貨も作っているから気持ちは分かる。)そして昨年は、お仕事展でこれまでの代表的な仕事を見せてしまったので(最年長だし)好き勝手な展示をしたいと思った。
 とは言ってもアートではないのだから、自分が1980年代に感じた「イラストの可能性」について、作品を通して訴えかけなくてはいけないという、言わば焦燥感のようなものに突き動かされた。

 今考えてみると、当時のイラストレーションシーンは限りなくアートに近い境界線上のものだった(村上隆の出現までにまだ時間があった)。その頃は時代に余裕があって、クリエイターの主導権が強かったのだろう。

 東京オリンピック(1964)、大阪万博(1975)を通して日本のデザインシーンの輪郭が整えられたと聞いているが、2020年の東京オリンピックはキャンセルカルチャーだらけのクリエイターひきずりおろし大会になってしまった。本来であればグラフィックデザインやイラストレーターのスターを多数輩出できるまたとない機会であった筈だが、一体何だったのだろうか。本当に残念な時代。

 しかし希望がないわけではない。そんな時代を否定しつつ、一人一人が世界観のスケールアップを心掛けて世間に問い掛ければ、何かしらの道は拓けてくる筈だと思う。


3日間の会期で少しずつ修正を加えました。未来から来た原始人ファミリーという設定です。

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