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076 トゲナシトゲアリ、武道館への険しい道

 カタルシスで終わる/終えるのがポップス。「そんな訳ねえだろ」と、余計なことを付け加える、あるいはその余計なことそのものがロックと思ってて。だからアニメとしては結構革新的だけど毎シリーズ気持ちよく終えたヤマノススメシリーズはポップスだし、結束バンドの文化祭演奏をAパートにし、Bパートの最後を「今日もバイトかぁ」のぼっちちゃんの台詞で締めた『ぼっち・ざ・ろっく』第一期、間違いなくロックでした。
 こんな話をするのも先週のガルクラ第11話、普通の話(ポップス)なら最終話に相応しいカタルシスであり、それで終わらない点に関してのnoteが二つ挙げていたから。

 両方とも楽しく読ませていただきましたが、具体的な物語までは妄想していない。桃柄桃太さんは道端のリンゴ論(物語で勝利が見えてきた頃にプランを阻止し、障害となるもの)で新たな障害の見当を付け、SakuraiGさんは映画『聲の形』のような「見るものをぜんぜん許してくれない」話かもと憶測してる。お二人とも論旨が明確で納得出来る論考でした。しかし私はここで、明確な物語を妄想したいと思います。
 ここで参照するのが『あしたのジョー』です。実はガルクラの当初、なかなかバンドマンとして目覚めない井芹仁菜に、丹下段平のボクシングの誘いに一向に乗ってこない最初の方の矢吹丈に重ねて観てたのです。正論モンスターとけんか屋ジョー、性格的にも似てると思ったし。でもトリオの新川崎(仮)になった当たりから、比較論は自然にしなくなりました。
 しかし今週の『ガールズバンドクライ』のサブタイトルは(聴いたことがあるようなないような)RCサクセションの「空がまた暗くなる」。そこに私は『あしたのジョー』序盤の話を妄想するのです。トゲナシトゲアリの目標は武道館、段平のおっちゃんと少年院を退所したジョーの目標は力石徹との再対戦。しかしそれはプロボクシングの仕組み、規則によって一度は断たれるのです。
 プロボクサーになるためには協会に加盟しているボクシングジムに入会し、そこで力を付けてライセンスを取得しなければなりません。ヘッドギアを付けたスパーリングの他、筆記試験もあります。しかしジョーと西が会員、段平がオーナーでコーチの丹下拳闘クラブ、改めての協会への申請を却下されてしまいます。窮余の策に先にプロとして活躍してる力石のいる白木ボクシングジムに入る手もありました。しかし同じジムのボクサーは公式戦では戦えません。この仕組みを知ったジョー、丹下拳闘クラブの協会への加盟を認めさせるため、けんか屋ジョーらしい奇手を打ったのです。もちろんその後、ジョーと西ともどもライセンスを取りました。こんな展開が今週、第12話のガルクラなのではと妄想してるのです。
 私たちは「空白とカタルシス」しか観てませんが、BAYCAMPでのトゲナシトゲアリのステージングが大評判になったことは間違いなく、レコード会社からの引きもいくつかあったと想像できます。しかしそれら揃いも揃って条件付きだったとしたら? 
 例えば「ハーフ(敢えての表現です)がメンバーにいるのは如何なものか」、「最年少の16歳は幼過ぎないか?」、「最初の編成の三人だけでいいんじゃないか」、「いっそボーカルだけデビューさせよう」、等々、無責任な大手の会社の重役の声が容易に思いつく。
 三浦さんもミネさんもトゲナシトゲアリを実際に庇う業界内の実力もコネもなく、そこで見かねて助け舟を出したのがすばるちゃんのおばあちゃん。新たにマネジメント会社を作るか伝手で芸能事務所に潜り込ませれば、無責任な外野の声を黙らせることが出来る。しかしそれは縁を切ろうと思っていたすばるちゃんのおばあちゃんとの関係を、すばるちゃん自身から修復/復活を申し出ることを意味する。
 進退窮まったトゲナシトゲアリの五人、話し合いを持つ。仁菜ちゃんはリーダーの桃香さんに話を振るが、逆に問い返される。それは責任逃れではなく、熊本から仁菜が帰ってきた、帰ってくれた時、トゲナシトゲアリは仁菜のバンドになったという思いから。それを真摯に受け止めた仁菜は「空の箱」を弾き語りした後、重大な決断をする。それをここで言えないのはガルクラに似合いと思ってた結論、今月の「アニメージュ」のリアルのトゲナシトゲアリの五人の座談会で示唆してしまっているから。私はやはりそうなるよね、そうしてくれたかと喜んでいるのです。(大塩高志)


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