ピン留めの惑星6

絶対になくならないピン留めと恋

もうだいぶ遅い時間のバスでの帰り道。
左ななめ後ろの座席から、お互いに気恥ずかしそうに恐縮し合う男女の会話が聞こえてきた。

「迷惑かなと思ったんですけど。いつも次で降りてるなと思って」
「いえいえ、ありがとうございます。助かりました」

どうやら、たまたま隣の席に座っていた女性がいつも自分と同じ停留所で降りることを知っていた青年が、次はもう自分たちが降りる停留所だというのに彼女が気づかずこんこんと眠り続けているのを「このままでは乗り過ごしてしまう!」と意を決して声を掛け、起こしてあげたようだった。

なんて、なんて“恋が始まるっぽい瞬間”なんだろう。

私は、彼らのラブストーリー第一話「運命の出会い」のエキストラ役として、二人が無事にバスを降りていくのを傍らで見送った。

これが連続ドラマじゃなくって、オムニバスドラマだったら。
次は、私の恋の出番がやってはこないだろうか。

そろそろFacebookでつながるくらいは、いけるかな?

ある出会いから半年ほど経った頃。じゅうぶん過ぎるくらいに焦らずに待って友達リクエストのボタンを押したのに、何日待っても承認されることはなかった。

友達申請すら承認してくれないなんて、恋人になんか絶対になれなかったじゃんね。

ひた隠しにしていた恋の期待を本当はとうに見破られていた気がして、恥ずかしいったらなかった。

失恋コメディへの登場回数だけが増えていく。

いわゆる恋人とラブラブな人たちのつぶやきとか、映画やドラマなんかで恋が成就して以降の後半部分とか、じぶんにはもう関係のないこと過ぎて「こわい」。

確かにそれはこの世に存在しているらしいのに、じぶんにはとんと訪れない未知のもの“幸せ”。

もうホラー映画を観てるのと同じ。幸せがお化けと同義になっている。

だけど───。

“絶対になくならないピン留め”というものがあって。
ほとんどのピン留めは、いつの間にかどこかへいってしまうものなのに。

「こういうの好きそうと思って」
仲の良い友だちがプレゼントしてくれるものでさえ、本当のじぶんの好みからはいつもちょっとだけズレていたりする。

それでも、その気持ちが嬉しい。じぶんがいつも身につけているものや、可愛いと言ったものなど、記憶の断片を懸命にかき集めて選んでくれた、その作業そのものが贈り物の正体であることは知っている。

そんな、私が好きそうなピン留めが、どういうわけか、ずっとずっとなくならない。

一定期間どこかにいっていても、その存在すら忘れていても、いつも何かのタイミングでひょいと姿を現しては私を驚かせる。

そんな風に、恋する気持ちも。夢見る力も。
期待通りにとはいかず、くじけてどこかへやってしまうけど───

ひさしぶりに開いたFacebookに通知マークが踊っていた。
「◯◯さんがあなたの友達リクエストを承認しました」

こんな風にまた手にすることもあるから、なんていうか恋って。


〜fin.〜


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