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「チョコうまかったよ、まブタ!」男子発言ノート29

小学生の頃、私のことを「まブタ」と呼ぶ男子がいた。

「まブタ!」

それは、当時からぽっちゃりしていたワタシおーしまを「おーしまブタ」=「まブタ」と簡略化し揶揄した呼び名だった。

ひどくない?笑

憎っくき幼馴染み男子、Kスケ(仮名)め……。

でもまぁ、よく考えたものだ。聞こえ的には「瞼(まぶた)」だし、絶妙に真相を覆い隠している。優しいんだか優しくないんだか! そして何も知らない人にはなんでそう呼ぶかは知る由がない。

「おい、まブタ!」

だけど、私には逐一それが「おーしまブタ」に変換され、幼心にたまらなくイヤだった。

そんな折、バレンタインデーが近づいてきていた。

私は両親にある相談をした。

Kスケが私をブタ呼ばわりするから、チョコレートをあげたい

え、なんで?

両親はそう思ったに違いない。バレンタインってそういうこと? 上納金みたいな賄賂みたいな、そういうのチョコに換えて「これでもう勘弁してください! ご配慮ください!」って、そういうもの?

それでも親心というものは、「この子が望むなら……」な心地なのか、わざわざ横浜駅のデパートSOGOまで一緒に出掛け、決して安くはないコロコロした可愛いアーモンドチョコレートの詰め合わせを選んで買ってくれた。

「ビターのと普通の、どちらにしますか?」

店員さんがそう訊いたことを覚えている。私は(おそらく母も)そのとき初めてこの世のチョコには「ビター味」というものがあることを知った。

さて、このチョコレート。用意したはいいけど、渡すのが最大の難関である。

どのタイミングで? 下校時? 
なんて言って? 「もう"まブタ"って呼ばないでね、お代官様」?

そんな困難が予想されたので、私はチョコと一緒に渡すべくメッセージカードを予めしたためた。

Kスケへ。もう、"まブタ"って呼ばないでね。 ともえ

……バレンタインってこういうモノだっけ???

いや、いいのだ。ちょうどいいタイミングじゃないか。チョコレートにかこつけて、想いを伝えるのがバレンタイン! それが「好き」の場合もあれば、「もう、"まブタ"って呼ばないでね」の場合もある。

そしてバレンタインデー当日。

男子もドキドキするだろうけど、「いつ渡せるか……」とチョコをランドセルに装備した女子も往々にしてドキドキの一日である。

結局、学校にいる間や放課後の学童保育でも、私は勇気もタイミングもなくてKスケにチョコを渡せずじまいだった。

あはれ明日からも「まブタ」な日々が続くのか……あゝ。

そう絶望的な気持ちで学童の帰り路、ここでKスケとはバイバイというポイントに近づいた私の視界には、待ち伏せしている会社帰りの父の姿が!

え、お父さん?

父「渡せたの?」

うううん……。

父「Kスケ、ともちゃんが渡したいものがあるって!」

(お父さんってば!!!)

Kスケ「なに?」

父「ほら、渡しな」

(お父さーーーん!涙)

こうして、両親の全面的バックアップにより、私のバレンタインは無事に終わった。何よりメイン趣旨であったカード(というか嘆願書?)を渡せた私はホッとした。

それが、翌朝……。通学路で会ったKスケはニコニコしながらこう言った。

「チョコうまかったよ、まブタ!」


効果なし!!!!!


……この世にはビター味のチョコレートがあること、そしてビター味のオチがあることを知った苦い苦いバレンタインの年だった。


〜おまけの後日談〜
そうはいっても、あの日を境にKスケは段々と私を"まブタ"と呼ばなくなり、ひと月後のホワイトデーにはお母さんが用意してくれたっぽいちゃんとしたキャンディーの詰め合わせをお返しにくれたのでした。……めでたしめでたし(?)。

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>>>マンガ版『男子発言ノート』(漫画:つきはなこ/原作:大島智衣)

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