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ヘリウム男子には要注意 -好きにならずにいられてよかった〈8〉

好きにならずにいられる理由を探してホッとしている。好きになられるはずがないから、傷つく前に早々に退散。ホントはどーでもいい理由にかこつけて。 好きにならずにいられてよかった、恋に落ちてもよかった瞬間—。

なんだかいつも、ふわふわした気持ちにさせてくれる男子がいる。
風船を膨らますみたいに、嬉しい言葉をフーフーと吹き込んで、けらけら笑って。要注意なのである。

「何スかおーしまさん、今の顔!だははッ」

人の顔を見て大ウケしている。何って。ただ、考え事してただけなんだけど。

「ちょっと待ってくださいよ、おーしまさん! 何スかその食べ方。くくくッ。そういうところですよっ、おーしまさん?」

何がだよ。チョコをつまんでただけじゃんか。

別にまったく。誰かを笑かそうとしているわけではないのに、めちゃめちゃ可笑しそうに、噛みしめるように笑ってくれると、なんであんなに……あんなにも……嬉しいの?

人の気持ちに一気にヘリウム吹き込むみたいにしてくれちゃって。まんまとまーるく膨らんだ私は、彼の頭上をぷかりと浮かんで、浮かれて、こそばゆいったらない。

でも、はたと、その球体をじぶんでパァンと割ってしまう。

だってこれは……これはきっと、彼は“そういうの”じゃない。
私のことを“恋愛対象として”アレしてるんじゃ、ない。

これまでの経験上、そういうのは哀しいかな正確に判断できる。頭では。
だからこそ要注意なのだ、こうしたヘリウム男子一門は。

彼らのどんな言葉も、笑顔も、胸の奥にある風船の口のところを固くキュッと絞って握っていなきゃならない。でなければ自分で重しになって、飛んでかないように。じゃないと、どこまでも飛んでってしまう。

だってうっかり飛んでいってもその垂れた紐を、彼らは手を延ばして掴んではくれないのだから!

そう、彼らは膨らんだ気持ちをキャッチしてはくれない。それも分かる。分かるし、どっちにしたって天高く飛んでいった先で破裂しちゃうし、その風船。

気をつけているのに。気をつけていたのに……!
先日も、熱々のメシをはふはふしながら夢中で食べていたら、それを目にした一門の別の男子が、

「おーしまさん! そんなに面白くしてくれなくていいですから」

と笑死しているのだった。

何がだよ、ンなつもり微塵もないよ、と心外に思いつつ、でもやっぱり、それがまためちゃくちゃ嬉しいのだった。「じゃぁ、付き合う? 私たち」な心地なのだった。

スキンシップだけが人を勘違いさせるのではない。
ただ「笑ってくれる」だけでも、人は愛された気になる。

ちなみにこれって……赤ちゃんの時の記憶と関係が?
抱っこして触れてもらって、可愛えぇのぅーって微笑んでもらって、愛されてるバブーって信じて疑わなかったときの延長線?

なんてこった。もうとっくに赤ちゃんじゃないのに!
それにそもそも、赤ちゃんは恋愛対象にはならない!

好きにならずにいられてよかった。

すぐにはそう思えないこともある。
天井に留まっていた風船が、ガスが抜けて床に落ち、やがて小さく、しまいには元のサイズと大して変わらないふよふよ状態に戻ってしまうまで、時間を掛けて気持ちがしぼむのを待つことも。

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