♯06 「問い力を鍛える」 <~後編:実践編1/2~>
今回の一言:「具体と抽象の往復運動」
(楠木建)
(この号は約3分で読めます)
三部に分けてお伝えする「問いを創る力」について。
今回はいよいよ第三部、最終部の実践編です。
過去2回の内容をざっくりまとめると、以下の通りです。
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<< 問題解決力 ⇒ 問題発見&提起力の時代へ >>
成長基盤にあった今までの世界では、既存の問題を解決する能力の高い企業や職業、人が優位な時代。
具体的には、「大企業」「士師業」「ベテラン」が安泰でした。
しかし、時代の変遷やAIやロボット技術の発展により、「問題解決力」の価値が相対的に大きく低下。
替わって、「新たな問題を発見し、問題を提起する」能力が求められる時代になりました。
そこで大きな力を発揮するのが、「問いを創る力」。
ただし、ヒトに備わった脳の仕組みや今の教育制度などにより、「問いを創る力」は希少価値。
今まで培ってきた「知識」や「既成概念」を一旦手放し、「問い力」を鍛える必要があります。
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そして今回は、問い力を鍛える具体的な実践方法について、禅問答を参考にしながら一緒に考えていきます。
禅問答の基本は、先入観にとらわれることなく、客観的な観察を通じ、物事の理(ことわり)に気付くこと。
そこでの「問い」は、常に”観察”と”なぜ?”からスタートします。
■ <モナリザの絵の謎> 第1章/全3章
なぜ”観察”がスタートなのか?
私たちの脳はデフォルト機能で、「答えへの最短距離」、つまり見たいものだけ見て、その範囲内だけで答えを出すように出来ています。
というのも、それで分かった気になり、問答を終了するのが、脳への負担が一番少なく済むから。
対して観察には、「細部を意識する」というエネルギーの配分が必要です。「意識する」という負荷を与えないと、ついつい観察を省いてしまいます。
たとえば、誰もが見たことのある「モナリザのほほえみ」。
大半の人はモナリザの顔だけに注目し、その絵を見た気になると思います。
では、もう一度上の絵を見てください。
そして、そこに描かれている「描写」を上の左端から下の右端まで細かく観察し、見たものすべてを「言葉」に出してみてください。
(発話するのがポイントです)
すると、湖や山道、森林、ちょっと不自然な右手のふくらみなど、それまで見えていなかったこの絵の「客観的事実」を、新たに観察できたと思います。
しっかり観察することで、今まで刷り込まれていた主観的な認識を手放し、
「なぜダヴィンチは、荒涼とした自然を背景に選んだのだろう?」
「曲がりくねった山道には、なにか意味があるのだろうか?」
「そもそも、なんでこの絵はそんなに有名なんだろう?」
と、新たな問いが色々と生まれてきます。
診察も、一旦思い込みを手放し、患者さんの言葉や表情、体の状態を客観的に観察すれば、今まで見えていなかった新たな問いが生まれるかもしれません。
■ <対話とは?> 第2章/全3章
しっかり観察し、新たな問いが生まれたあと、大きな化学反応を起こす役割を担うのが”対話”。悟りを開く僧侶にとっての、禅問答です。
対話する相手は、自分自身でも、誰か他の人とでもかまいません。
重要なのは、問いに対する対話がなければ、ブレークスルーもないことを理解すること。
あるテーマに対し、お互いの理解を深めたり、新たな意味付けを創り出すのが対話の目的です。
議論や討論と異なり、対話には正しさやゴール、勝ち負けはありません。
対話ではマウンティングの必要もなければ、正解や総意を導き出す必要もありません。
そしてこの対話形式のなかに、前述した「観察と問い」を組み入れることで、「問いを創る力」を大きく伸ばすことが可能となります。
たとえば、前述した「モナリザ」。
先生のパートナーや仲の良い友人と、「モナリザの謎」というテーマで対話をする状況を、想像してみてください。
まずは、お互いしっかり観察。
そのあと、見たことや感じたことを語り合う場の設定。
「なぜxxは、△△なんだろうね?」
「■■は、○○ということなのかもね?」
「私は○○と解釈するけど、◇◇さんはどう思う?」
などなど、対話は弾みます。
「問い」と「創発的な対話」を通じ、具体的な事実を抽象化し、相手の意見に刺激を受けながら、自分なりの仮説を考える。
その仮説に対して新たな問いを投げかけることで、新たな具体的な発見が、あるいは新たな具体的問いが生まれます。
ベストセラー「ストーリーとしての競争戦略」の著者 楠木建氏の言葉を借りれば、
「具体と抽象の往復運動」
そうです。
この俯瞰的な「具体と抽象の往復運動」を繰り返すことで、
「1.観察 ⇒ 2.問い ⇒ 3.仮説 ⇒ 1.観察」の無限ループが生まれます。
GE、GMを始めとした大企業から、政府、病院、大学等の非営利組織に至る様々な組織のコンサルタントとして活躍したドラッカー氏。
そこでの役割は、その組織をしっかり観察し、素朴な問いを投げかける対話を通じ、企業トップを「既成概念」という意識の箱から外へ出すことだと述べています。
では、この「具体と抽象の往復運動」のトリガーとなる「問い」。
そして、その往復運動を正しい方向に導く「正しい問い」を、如何に創り出せばよいのか?
長くなりましたので、3部作3部目の <最終章 正しい問いとは?> については、次号で一緒に考えてみたいと思います。
<<問い力を鍛える3部作>>
第一部: なぜ「問う力」は希少価値なのか?
第二部: 問いの深淵を覗き込む (前号)
第三部: 問い力を鍛える 実践編1/2 (今号)
: 問い力を鍛える 実践編2/2
~次号の「問い力を鍛える 実践編2/2」を読む~
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