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「一緒だね」を生む

保育士おへそのごま の保育エッセイ(22)

「一緒だね」を生む

 僕が今の保育園に勤務し始めて驚いたことや感心したことは多くあるのですが、そのひとつが0,1歳児クラスでの絵本の扱いでした。子ども達が自由に手に取れるように絵本が棚に並べて置いてあります。それだけなら多くの園でやられていること。僕が驚いたのは、同じ絵本がそれぞれ3冊ずつ用意されていることでした。今日はそんな保育環境だからこそ生まれたエピソードです。

 1歳児クラスに応援に入りました。普段あまり関わりが深くない子達ですので、こういう時は、より丁寧な関わり方を意識します。
 すぐに積極的なTくんが一冊の絵本を持って「これ、みるー」と僕のひざに乗っかってきました。選んだのは『うずらちゃんのかくれんぼ』(きもとももこ/作 福音館書店)でした。ページをめくったり戻ったりしながら何度も「どこかなー?」「いたー!」と絵の中に隠れているうずらちゃんやひよこちゃんを指差しては、こちらを見上げて目を合わせるとニコニコ。(うんうん、三項関係がしっかり成立してるねぇ。他者との共感が嬉しい時期だねぇ)と豊かな育ちの姿に内心うなずいていました。
 そこへ、「ワタシもー」という表情でRちゃんもやって来て僕のひざに登ろうとしました。

 友達や好きな大人と「一緒ねー」が嬉しい1歳児期。友達が大人に絵本を読んでもらっていたら「ワタシも!」とやってくるのは日常風景。こういう場面でどう対応するか。

 「一緒に見る?」と声をかけるのが一般的でしょう。しかし、今絵本を見ているTくんと、やって来たRちゃんが、共に「二人で一緒に」見たいとは限らないのもよくあることです。

 この日も、「一緒に」見ようとしたBちゃんを、(ぼくが見てるの!)というかのようにTくんは押しのけようとしました。ここで「Tくん、Rちゃんも一緒に見たいんだって、見せてあげて」となるか?「Rちゃん、今Tくんと見てるから後でね」となるか?
 どちらの気持ちを汲んでも、どちらかの思いには添えないことになります。

 でも、ここに同じ絵本が他にもあれば違う対応もできます。
 
 この時僕は、TくんがRちゃんを押しのけたところで、「んー、じゃあRちゃん、もうひとつ持ってくる?」と声をかけました。Rちゃんとしては(ワタシも同じように絵本を読んでほしい)だったようで素直にもう一冊の絵本を持ってきてTくんの隣に座って同じページを広げました。
 それを見てTくんは自分の「今読んでもらっている」を侵される心配がなくなったからか、嬉しそうに互いのページを指差して笑いました。まさに「一緒!一緒ねー」の表現。Rちゃんもニコニコ。
 そのあとしばらく、二人でニコニコしながら互いに自分の絵本と相手の絵本を指さしあったりしていたかと思うと、おもむろにTくんは立ち上がって、もう一冊の絵本を持ってくると「ん!」と僕に差し出したのです。これにはちょっと感動でした。

 この時はもう「読んでもらう」ことでなく「一緒ね」が彼らの喜びになっていたので見守っていたのですが、それを見て僕だけ絵本を持ってない、とTくんは気づいて「一緒ね」の仲間に入れてくれようとしたのです。

 同じ絵本が3冊あって、子どもが持ってこられる。

 この条件が生んだ場面でした。
 同じページで同じように隠れてるひよこちゃんを指差して笑いあうふたりは本当に嬉しそうでした。

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