小説? モカとベトナムなコーヒータイム
この作品は、『小説? ベトナムとモカなコーヒータイム』と対になっています。
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「君と幸せを作りたいんだ」
あたしのプロポーズの言葉はこれだった。
「いいね」
君はふにゃっとやわらかく笑ってくれた。
すべては順調だったの。
展示会のための残業も、チーフへのお祝いも、常務からのお願いも。
すべてが上手くいくはずもないのだけれど。悪戦苦闘しながら、一通りのレベルはこなしてきたし。
毎晩の晩酌ときつめの煙草だってあたしが稼いだお金なんだから。
君はいつもいいよ。いいよ。って、言ってはあったかいコーヒーを淹れてくれる。あたしのはドリップコーヒーのミルクなし砂糖一匙。モカ。濃いめの熱めがいいわ。
君はベトナムコーヒーがいいって、粉の袋をサラサラ入れて、あたしのコーヒータイムに付き合ってくれる。この甘くて濃い~のがいいんだよね。だって。
また太るわよ。って言いたいところなんだけど、君はもう少し太りなさいよ。最近やせてきたよ。って言うと。
「ふふへへ」
ってまたふにゃふにゃ笑う。そこがいいの。君はそれでいい。
君はやさしいけどなんか頼りない。お金はあたしが主に稼いでいるし。でもそれでいい。それでいいの。
12月はじめのある日。残業。工場さんの方でトラブルがあったから。
夜九時半。疲れて家に帰って。あたしは君につい声をあらげてしまった。
「なんで言わなかったのよ!」
「ふへへ。だぁいじょぶ! だぁいじょぶ。……アイタタタ」
「大丈夫、のわけないでしょ! 病院の先生は何て?」
「ああ。腰痛の薬くれた。痛み止めね。これで頭痛も治ったし。治った治った」
「治った治った、じゃないでしょ!」
「ふんふん。パク」
「ふんふんパクって今それ何飲んだのよ?」
「なんでもないよ。」
「……って風邪薬じゃない!? 熱あんの??」
「ないない、ないよ」
「じゃあなんで風邪薬飲んでるのよ!」
「ふふへへ」
「もう! あとはいいから早く寝なさい!」
「ふふん。わるいね~。アタタタ」
「あ」
「何よ!」
「はい、これね」
「え? 何よ? この袋」
「あと、ケーキとチキン、食べていいよ」
「?」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい……」
テーブルを見ると箱。入ってたのはチキン3つ。冷蔵庫を開けると箱にケーキが2つ。箱に半分位の量で残っていた。
……そうだ。先月、君と約束していたんだ。
"「クリスマスはケーキとチキンね。でも皆混むし高くなるから、12月のはじめにやろう!」
「いいね。オ~!」"
……。そうだった……。
プレゼント用の赤いリボンのついた袋の中身は、モカのコーヒー豆。あたしの大好きなコーヒーだし。
……。
あたし、本当何やってたんだろうって……。思って……。
……数日後。
街はクリスマスムード一色。キラキラしてるツリー。ガラス玉には星の中にいるみたいに自分が映る。ま、そんなことに構ってられないの。今日は珍しく早く帰ることができたから。今夜は早めに家に帰ったの。
夕飯と晩酌と一服の時間。ほんとこれがなきゃ人生やってらんないわ。あ、つまりもちろん、君と過ごす時間のことよ。
「アタタタタ。ふう~」
「大丈夫?」
「だいじょぶだいじょぶ。明日残業?」
「ん。残業。ごめんね」
「いいよいいよ」
「病院は?」
「明後日」
「ちゃんと先生に聞いてきなさいよ」
「聞いてくる聞いてくる」
なんだかふにゃふにゃしてるのはいつものこと。あたしは君用のベトナムコーヒーと自分用のモカのドリップコーヒーを淹れた。
「はい。コーヒー」
「ありがとう。……ん~。この香り。ベトナムぅ~! ん~」
「あ、美味しい」
「ん~いいねぇ~」
「あー! 本当美味しい! 君のくれたコーヒー。最高ね! 本当よ? ありがとね!」
「いやぁ~こっちも。ん~ベトナムコーヒー、プレゼントありがとうね~。ん~、これこれ、これだねぇ~。ん~この香り。ベトナムぅ~」
「早く飲みなさいよ。なんで飲まないのよ!」
「ん~。この、香りがね。いいんだよ。それに熱いし」
「熱いのが美味しいのに。ま、好きにして!」
「好きにするする。ん~」
君はマグカップをゆらゆらと揺らして、香りを楽しむ。あたしは熱々のコーヒーを楽しむ。いつもと何も変わらない二人だけど、何かいつもよりも幸せな気がする。何でだろ。
「……あたしさ。本当は君と幸せを作りたかったんだよね。だけど君に幸せにしてもらってばっかり。……ってこと、最近気づいたんだけどね。それまではあたしが君を幸せにしてあげてるって思ってた。けどこれ間違い。撤回するね。ごめん」
「うむ」
「思い上がりだったかな?」
「思い上がりだっ!」
「本当ごめんなさい!」
「うそうそ。うそだよ。こっちこそ、ありがとうね」
「うん」
あー何ていいコーヒータイム。今日は何ていい日なんだろう。
「ふふへへ」
「ん? 何?」
「ん~? ベトナムぅ~」
「ん~? ベトナム美味しい? あたしのはモカ」
「いいね」
「いいね」
モカとベトナムなコーヒータイム。今、君と幸せを作ってるのかな。
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以上、
『小説? モカとベトナムなコーヒータイム』
でした。どうもありがとうございました。
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